
本文詳細↓
(白い皮手袋をはめた燕尾服の仮面の店員が一礼する)
「いらっしゃいませ。当店にご来店いただき、誠にありがとうございます。人間の男性一名様ご案内です」
(無貌の店員、濃紺地に金字で何本かの線が引かれたカードを渡す)
「こちらのお席へどうぞ。只今から相席開始とさせていただきます」
(入口から一番近い席で全身に包帯を巻いた黒スーツの人物が座っていた)
「やあ、こんばんは。
……そうか、君は人間か。どおりで、新鮮で活きのいい肉の匂いがするはずだ。
……ああ、すまない。怖がらせたかな。私はミイラという種族でね。砂から産まれ、腐る肉も爛れる血も持たず、何百年でも生きることができる。その反面、炎や湿気には極端に弱いんだ。だから、人間でなくとも、君のように血肉を持つモノには敏感なんだよ。
……そう謝る必要はない。ミイラは基本的に暗く、冷たく、乾いた場所を好む。人間とは住む領域が異なるから、知らないのも当然だ」
(ミイラ、淡いピンク色の液体を注ぎに行く)
「ときに君は、人間がメトロポリスと呼んでいる大地を知っているかな。あそこはいい場所だぞ。光も熱も弱く、私たちを食い荒らすような野蛮な種もいない。全てが予定調和の通りに進む、まさに理想の住処だ。なによりあそこには人間が多く、喰うものには困らない。だがよかったのは最初だけだ。忌々しいイルミナの子らの口車に乗せられて、今やあの地で人肉を喰うのは禁止だとさ! そう、それ以来まともな食事にありつけていないんだ。腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った喰わせろその肉ぅぅうううううううう‼」
(ミイラ、無数の牙が並んだ口を開けて迫る)
「当店ではいかなる場合も『お持ち帰り』は禁止でございます。このような行為はご遠慮頂けますか」
(無貌の店員、片手でミイラの顔を掴んでいる)
「う、うるせえ! ここはオレの夢ん中だろうが! 好きにさせろよ! オレは客だぞ、分かってんのか!」
「当店は種族を越えた見知らぬ者同士の相席により、より良き出会いを提供するために存在しております。申し訳ございませんが、お客様はそれに相応しい方ではないようですので、ご退店頂きます」
「は、何を言」
(ミイラ、音を立てて消える)
「お怪我はございませんか、人間のお客様。
……それならば幸いです。続けての相席を希望されますか?
……かしこまりました。本日はこのようなことになってしまい、誠に申し訳ございませんでした。次は、ぜひとも楽しい時間をお過ごし頂きたいと思います」
(無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる)
―――――「おはようございます。どうかよい夢を」
追記:いつもブログをお読みいただきありがとうございます。
実は職業訓練学校の卒業制作(ポートフォリオブック)が大詰めを迎えておりまして、ちょうどキリもいいので、そちらに集中するためブログの毎日更新を一時的にストップしたいと思います。また何か作ったらこちらにポッと出すかもしれませんが(๑╹ω╹๑ )
来年の3月無事に就職できていたら、また毎日更新を再開したいと思います。小説の続きはそれまで少々お待ちいただけたらと思います。