東埼玉病院 リハビリテーション科ブログ

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「若手向け神経難病の呼吸リハビリテーションの勉強会を終えて

2019年09月19日 | 活動報告

先日業務終了後に,若手向けの勉強会を開催しました.

内容は,「神経難病の呼吸リハビリテーション」でした.

今日は「神経難病の呼吸リハビリテーション」について当院で取り組んでいることをお伝えします!



「呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)」とは,

呼吸器の病気によって生じた障害を持つ患者に対して,可能な限り機能を回復,あるいは維持させ,これにより,患者自身が自立できるように継続的に支援していくための医療.

と定義されています.



呼吸リハと一言でいっても行う疾患によってアプローチがかなり異なってくるのはご存知でしょうか?

呼吸リハと言われて,まず思いつく疾患はCOPDや間質性肺炎などの呼吸器疾患かと思います.これらの疾患は,肺自体に損傷が起きている状態ですね.



一方で,神経難病の呼吸リハは肺自体の損傷が一般的にないのが特徴です.

では何故呼吸障害が出てくるのでしょうか?


それは,神経難病により中枢神経,もしくは末梢神経の障害が出現することにより引き起こされる「呼吸筋の筋力低下」が原因なんです.


そもそも「呼吸筋」は,「吸気筋」「呼気筋」「咽頭と喉頭の筋」の3つに大きく分類されています.

それぞれの筋力低下により様々な影響が身体に出現してきます.

端的に言うと,呼吸するための筋力が弱くなることで,肺を十分に膨らませることができなくなる,というイメージですね.


これが,「呼吸器疾患」と「神経難病」の大きな違いです.
まとめると,「呼吸器疾患」=「酸素化の問題」に対して,「神経難病」=「換気の問題」と捉えることができます.




そのため,呼吸リハとして行われる介入は以下の3つが一般的に言われています.

1,肺コンプライアンス維持

2,舌咽頭呼吸(GPB)

3,肺拡張,気道クリアランス



それぞれについて説明していきましょう.


1,肺コンプライアンス維持


この項目で重要になってくるのが,肺活量(VC),最大強制吸気量(MIC:Maximum Insufflation CapacityとLIC:Lung Insufflation Capacity)です.

肺活量(VC)はよく聞く言葉だと思うのでここでは割愛させていただきますね.

さて,MICとLICは何が違うのでしょうか?


強制最大吸気量を測定するとき,我々は写真のようなアンビューバックと流量計を用いて行います.

写真のようにして計測されたものをMICと言います.

「ハロースケール」


「アンビューバック(蘇生バック)」







しかし,今お伝えした方法では計測できない場合もあります.何故でしょう??


鍵となるのが,「air stacking」ですね.要は「息どめ」のことです.


息どめができない状態で送気しても,送気した空気が次々と抜けていってしまいます.


そこで「air stacking」ができない方には,送気した空気が抜けないように一方弁のついたアンビューバックやLICトレーナーを用いて測定をします.詳しくは検索してみてください.



まとめると,「MIC=air stackingが可能」,「LIC=air stackingが難しい」といった違いがあります.


いつから始めたら良いか?

文献によると,%VC=50%以下で推奨されています.筋ジストロフィーのガイドラインでは,%VC以外にVC<2000mlとの記載もあります.

上記の数値を元に,肺コンプライアンス維持目的でMICやLICの練習を行います.

下図は病気の経過に合わせた介入を簡易的に示した図です.





2,舌咽頭呼吸(GPB)
当院ブログにて以前説明させていただいたため,「舌咽頭呼吸(かえる呼吸)って何?」をご参照ください.


3,肺拡張,気道クリアランス
当院では,主に「徒手による咳介助」,「機械による咳介助(MI-E):カフアシスト」,「高頻度胸壁振動(HFCWO):スマートベスト」を行なっています.




カフアシストとは,気道にゆっくり陽圧をかけ,その後急速に陰圧に切り替えることにより,人工的に咳を作り出し,患者の気管支・肺に貯留した分泌物を除去する助けをする機械です.

痰が絡んで出にくいときに用いるほか,痰がなくても午前・午後定期的に施行することで無気肺の予防を行います.当院ブログの別の記事で掲載していますので,カフアシスト使用方法をご参照ください.


スマートベストとは,ベストを通して全体を振動することにより気道クリアランスを高め,気管支ドレナージを改善するといわれています.

周波数や介入時間については,「スマートベスト設定プロトコル」を元に,周波数を11〜13Hz,振動圧30〜40,設定時間は患者さまの苦痛のない範囲で1〜7分の幅をもたせて設定しています.

「スマートベスト(HFCWO)」



このような介入を行い,肺機能の維持と肺炎予防を行なっています.


長くなってしまいましたが,神経難病の呼吸リハについて少し頭が整理できたでしょうか?

明日からの臨床に活かせることが1つでもあれば幸いです.


それではまた別の記事でお会いしましょう!


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本ブログの掲載記事は,個人的な見解を含んでおり正確性を保証するものではなく,当院および当科の総意でもありません.引用や臨床実践等は各自の判断と責任において行うようお願いいたします。