旅のウンチク

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旅の足としてのスーパーカブ=スーパーカブで旅するタイ北部より

2018年05月15日 | 旅の風景
 WebサイトやFacebookでご報告していた通り、今月初めまでスーパーカブで旅するタイ北部へ同行するためにタイへ渡航していました。いつもであれば帰国したらすぐに毎日の流れをツアーレポートとして掲載しているのですが、過去数回のツアーレポートで毎日がどんな流れになるのかはご覧いただけると思いますので今回は旅の途中で出会った出来事や考えた事などを少し掘り下げてみたいと思います。今回は旅の足としてのスーパーカブについてです。

 雑誌記事などで見かける”ツーリングマシン”としての評価は大抵の場合、余裕のある排気量、荷物の積載性、1タンクでの航続距離、そしてそれほど神経を張り詰めていなくても操作できる程度の少し”鈍い”バイクであるかどうかといったあたりがツーリングマシンとしての素性と考えられているようですね。全般的なツーリングとしてとらえればある程度納得のできる内容だと思います。
 
 そういう視点で見れば、タイのスーパーカブは100ccとはいえそれでもパワーに余裕はなく、燃費は良いけれど燃料タンク容量が少ないので1タンクでの走行距離は130km前後。積載性はといえば、参加する方に荷物の全体量を”理想は20リットル以下”とお知らせしている程度であって、ほぼ全般的に旅には向かないバイクと言えます。

 ところが実際に5日間をカブで旅してみると、特に大きなバイクの経験が長い方からは、”カブの面白さに気づきました”という意見も随分出ますし、中には後日、タイへカブを買いに行った方までおられるとか。

 私自身が企画の中でスーパーカブにこだわっているのはその”気楽さ”。今年のツアーでは3日目と4日目が土砂降りの雨にたたられましたが、その際に靴がずぶぬれになった私は5日目には濡れた靴をフロントバスケットに入れて干しながら、ビーチサンダルで運転していました。そんな気楽さが”暑い”東南アジアの気候の中では助けてくれます。

 最近、私は天気が許せば一眼レフのカメラをバッグにも入れず、ストラップで肩にかけたまま走っていますが、これも大型バイクでのツーリングではそこまで気楽にはなれないかなと思います。普段、街歩きしている服装のままでヘルメットだけ被って走り出せる気楽さは、同時に現地で出会う人たちに溶け込みやすい環境も提供してくれますから様々な出会いを旅の目的としているこの企画にはよくマッチしています。

 大きなマシンに”威圧的”なデザインのライディングウェアで乗っている時に見る風景とは全く違った風景と出会えます。ライダーとしての視点を

 最高速度はおそらく95km/h位でしょうか。私たちの旅では大抵の場合70km/h程度での走行です。この速度だと道路上で出会うほぼ全ての乗り物の中で最も遅い速度ですから抜かれっぱなしなので最初は怖く感じるときもあるかもしれませんが慣れてしまえばこの遅さの”良さ”にも気づかされます。クラッチ操作が要らないカブならでは。走りながら左手で写真を撮っている方もおられます。
 
 1日の行程が200km前後の事が多いのですが、この距離、大型車両なら2時間位で走れる距離だと思います。私たちは日本国内の林道ツーリングですら500km前後走ることが結構ありますから距離から考えると結構楽勝なはず。ところがこの企画では大抵到着は16時過ぎ位になります。その分、朝ゆっくりしていたり、昼食をのんびりとったりしているわけですが、この”遅さ”はスーパーカブで旅するタイ北部ではむしろ長所となります。

 旅とは、1日に長い距離を走るというタスクをこなす事ではありませんから、アベレージスピードの遅いバイクなりのプランで走れば何ら問題にはなりません。200kmを2時間で駆け抜けるのが旅なのか、6時間かけて道中いろいろな出来事や人との出会いを味わいながら移動するのが旅なのか...とにかくスーパーカブで旅するタイ北部の目指す旅は後者というわけです。

 大型車にはない低速走行性能の高さは、昼食をどこで食べようかと店を探しながら走ったり、バザールに寄り道するのに、バイクをどこに停めようか探しながら走ったり、旅先でのそんな気ままな走り方をサポートしてくれます。

 現地の生活の足であることもカブの動きやすさを支えてくれます。何処へ行ってもパンク修理はできますし、ガソリン給油もカブの行動範囲内で必ず見つかります。タイのモータリゼーションはカブを中心として成り立っているのかもしれません。

 積載性に関しては、実際はそれほど低くはありません。現地の人達は一家5人がカブ1台に乗っていたりもします。ただし、例えばリヤシートに荷物を積めば、給油の度に荷物を下ろさなければならなくなりますし、カブの細いタイヤではパンクの可能性も増えます。だから本当に旅先で必要なものに絞って割り切った荷造りを体験する機会ととらえてみて欲しいと思っています。

 タイで知り合った人達に"何歳くらいからカブに乗ってるの?"と尋ねてみると、12歳~13歳位から乗っている人が結構沢山います。そして、現在4輪を運転している人のほとんどが子供の頃にはカブに乗っていた経験があるので、周囲の車がカブの動きに理解があります。この点では”バイク=暴走族”と教わった優等生出身の4輪ドライバーに突っかかれながら走る日本の環境とはずいぶん違います。

 考えてみれば、東名高速道路を半袖、ビーチサンダル、半キャップという服装で70km/h走行しているような状況なのですから、日本では安全には走れない状況かもしれません。タイでは大丈夫。そんなことに気づかされるのもカブの遅さのおかげです。

 一般概念からすればいかにもツーリング性能の低い”スーパーカブ”ですがスーパーカブに合わせた旅をすれば、もっと旅らしい旅をできる可能性を持っているという意味で逆説的に”スーパーカブのツーリング度は高い”と思います。ただし、スーパーカブの良さを満喫するには旅先で出会う状況にその都度適応する能力や、出会った人たちと心を通わせるコミュニケーション能力やバイタリティなどを要求されます。そんな事を体験していただくのもスーパーカブで旅するタイ北部が目指す目的の一つでもあるのです。


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