江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

「動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その5 

2023-01-06 23:15:40 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その5  

                         2023.1

蝦蟇は、小間隙を潜る(小さな隙間にも隠れる事が出来る)

蝦蟇を捕えて入れた容器に、どんなにピッチリした蓋をしても、夜の間に逃げ出す、と言うことは、古来各地で伝えられている事である。しかし、著者は半信半疑でおり、蓋を堅固にしたと思っても、逃げ出す隙間のある時に逃げるのだ、と想像していた。

しかるに、その後に於いて著者の経験を綜合すると、蝦蟇の隠れ身の術などの伝説には根拠があると考えられる。

著者(岡田建文)が郷里にいた時、夏季には毎日のやうに台所の土間の流し口の辺(ほとり)に、四五寸ばかりの蝦蟇が徘徊するのが二ヶ年ぐらい続いた。
その蝦蟇の潜んでいる場所がどこであるかは、わからなかった。

しかるに、或るうっとおしい曇りの日の夕刻に、かねて土間の隅に置いてあり漬物の重石用の一尺立方の真四角な石の下からかの蝦蟇が這い出して来るのが見られた。

この石と土間との接触面には、ほとんど隙間がない。
不思議に思って、吾等夫婦は、石の下へ竃(かまど)用の火箸をさし込んで見ると、火箸だけは辛うじて入ったのであった。
そこで石を起こして見ると、裏の中央が、直径二寸除りのサカヅキ形に浅くくぼんでいた。
小さい煎餅なら三枚足らず、普通のお針用の糸捲きなら、一個がやっと入るばかりの隙間であった。

あの大きく太い腹の蝦蟇が、どうしてこの窪みへ潜り込んで、時間を過ごすのかと、大変不思議に思った。
この事を或る人に話したら、その人は是は信じられぬ事だ、窪みの大きさを見間違えたのであろう、と言い張った。

 


「動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その4

2023-01-06 23:10:35 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

「動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その4

                         2023.1

敵対の動物   

蝦蟇の敵は、虫類(江戸時代までは、蛇やトカゲ、蛙も蟲類に分類された。
足の無い蛇は虫。足のある昆虫は蟲である。いずれも虫偏である。)
に於いては蛇であるが、虫類の外では、主として獣類である。
獣が蝦蟇の敵たるは、喰わんがために敵となるのでは無く、蝦蟇に挑まれて敵となるのである。

蝦蟇には毒があるので、どんな動物にも食べられない。
餌にもならない。
蝦蟇から挑戦されない場合にも、諸動物は蝦蟇を畏れて、これと闘うのである。

或る人の話に、床の下でイタチとガマとが向かい合って死んでいたのを、見たと言う。
また猫も蝦蟇と相討ちの姿勢でどこかで死んでいたのを、見たと言う。
私の少年時代に、郷里の新聞紙が、どぶ鼠の大きいものと蝦蟇との闘いを報道したことがあった。
約一時間ばかり噛み合いをしたが、最後に鼠が、蝦蟇の口へ喰附いた時、蝦蟇は頭を振って鼠を二尺許り投飛ばしたら、鼠はそれっきりに死んだ、と書いてあった。

古人の雑録に大形の蛇が蝦蟇を呑んだ記述があったが、ガマの大きくないものは蛇に負けて飲み込まれる
らしい。

蝦蟇の体は、見かけより、頑健なものである。
かって、私の母(著者の岡田蒼溟の)は、夜分に庭先で、誤って三寸(10cm)位の蝦蟇を下駄で思いっきり踏んだ時、踏み潰ぶしたと思ってかわいそうがっていた。しかし、後になって見れぱ、平気で蟲を捕食していたと言う。
普通の蛙は、人に踏まれれば、潰ぶれてしまうのだが。