動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その5
2023.1
蝦蟇は、小間隙を潜る(小さな隙間にも隠れる事が出来る)
蝦蟇を捕えて入れた容器に、どんなにピッチリした蓋をしても、夜の間に逃げ出す、と言うことは、古来各地で伝えられている事である。しかし、著者は半信半疑でおり、蓋を堅固にしたと思っても、逃げ出す隙間のある時に逃げるのだ、と想像していた。
しかるに、その後に於いて著者の経験を綜合すると、蝦蟇の隠れ身の術などの伝説には根拠があると考えられる。
著者(岡田建文)が郷里にいた時、夏季には毎日のやうに台所の土間の流し口の辺(ほとり)に、四五寸ばかりの蝦蟇が徘徊するのが二ヶ年ぐらい続いた。
その蝦蟇の潜んでいる場所がどこであるかは、わからなかった。
しかるに、或るうっとおしい曇りの日の夕刻に、かねて土間の隅に置いてあり漬物の重石用の一尺立方の真四角な石の下からかの蝦蟇が這い出して来るのが見られた。
この石と土間との接触面には、ほとんど隙間がない。
不思議に思って、吾等夫婦は、石の下へ竃(かまど)用の火箸をさし込んで見ると、火箸だけは辛うじて入ったのであった。
そこで石を起こして見ると、裏の中央が、直径二寸除りのサカヅキ形に浅くくぼんでいた。
小さい煎餅なら三枚足らず、普通のお針用の糸捲きなら、一個がやっと入るばかりの隙間であった。
あの大きく太い腹の蝦蟇が、どうしてこの窪みへ潜り込んで、時間を過ごすのかと、大変不思議に思った。
この事を或る人に話したら、その人は是は信じられぬ事だ、窪みの大きさを見間違えたのであろう、と言い張った。