上の山の天狗 「土佐風俗と伝説」 天狗怪禽
2024.6
今は昔、土佐郡薊野(あざみの)村に斎藤平兵衛実純(谷秦山の門人)と言う大胆な武士がいた。
ある年の正月に、上の山と言う深山の奥深くに鴨打ちに行った。山路をたどりたどりして、ふと黒味の林へ入った。
老木が森々(しんしん)と打ち茂がり、昼も寂しい様であるが、ここは昔からの魔所であった。
ふと頭の上に、大きな鳥の羽音が聞こえた。
不思議に思い、見上げた所、丁度、長さは五尋程(ごひろほど:7.5m位か?)の翼をひろげた鳥の様な大きな物が、ふわりと樹上に止まっていた。
流石(さすが)の平兵衛も気味悪くなり、鴨打ちどころか銃を小脇に抱えて一目散に山を下った。
その後、平兵衛はこの日の怪鳥のことを人に話した。この世の中に、天拘と言うものは無いと思っていたが、そのように言い切ることは出来ない、と常に物語った。