江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

新説百物語巻之五 8、桑田屋惣九郎の屋敷の事

2023-08-04 22:35:19 | 新説百物語
新説百物語巻之五 8、桑田屋惣九郎の屋敷の事  
               2023.8           
京の油小路に、桑田屋惣九郎という茶屋があった。
夫婦とむすこ一人小者(こもの)一人の四人で暮らしていた。

ある朝、父親の友心が朝早く起きて小便に出たが、屋敷の下に火の影が見えた。
ふしぎに思ってのぞいて見れば、縁の下に新しいしい土器があって、それに火がともしてあった。
いまだ誰も起きていないのに、何事であろうかと思い、誰か起きていないかと見たが、誰一人も目がさめていなかった。

そのままにして置いたが、又一日二日過ぎて、母親が二階へ上がると、麻の上下を着た男と打ちかけわた帽子の女とが、差しむかいにいた。
驚いて、二階より飛び下りて、その様子をこうだと告げたので、惣九郎や皆が一緒に2階に上がって見た。
すると、一対の燭台に小袖をきせ、上下打掛をきせてあった。
やっとのことで片づけ、二階から四人とも下りたが、四人のものの帯に、紙を四手を切ったのが付いてあった。
すこしの間に、どうしてどのように付けたのだろうかと肝をつぶした。
ふと見ると、又々 縁の下に、火があった。
よくよくみれば、新しい小さなお宮があって、燈明がともされていて、洗い米が供えてあった。

又、その翌朝おきてみると、父親の友心の夜着の下には小者が入っていて、むすこの惣九郎の夜着のすそには母親を入っていた。
目をさまして、皆々きもをつぶした。

その二十日ばかりの内に、いろいろさまざまの怪しい事が起こった。ある日は、排水溝から何かが出て来たと、小者が言った。それで、追いかけたが、もう何も見えなかった。

それから、怪しい事は、やんだ。

しかし、果たして両親と惣九郎の三人は、相次いで亡くなった。


新説百物語巻之五 7、針を喰ふむしの事  

2023-08-03 22:31:09 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
新説百物語巻之五 7、針を喰ふむしの事  
   針を喰う虫の話   2023.8
京都三条の西に貞林という尼がいた。
若い時は備前に下って、御物縫いの奉公(責任者)をつとめた。その折の事であった。

この貞林尼は、物を縫う針の折れたのをもったいないと思っていた。それで、折れたのを随分と拾い集め、針箱の底に置いていた。ある時、取り出して捨てようと思ったが、見えなかった。
二度もこの様であった。

ある時、針箱の掃除をしていると、大きさが三分(9mm)ばかりある虫が出てきた。
珍しい物なので、針さしの上に置いておいた。
この虫は、そろそろとはい歩き、針さしの針をほろほろと喰べた。
さては、先達っての針の折れもこの虫が喰べたのだ、と思って、小さい箱に入れ、針のおれを餌として飼い置いたが、二月ばかりすると、大きさが一寸程(3cm)になった。

この事を御主人が聞いて、その後には古かねなどを与えたが、いよいよ大きくなった。
それで、怪しい物であろうと火で焼き殺したそうである。

これは、この貞林が、直に語ったことである。

新説百物語巻之五 6、ふしぎの縁にて夫婦と成りし事

2023-08-02 22:28:59 | 新説百物語
新説百物語巻之五 6、ふしぎの縁にて夫婦と成りし事  
                     2023.8 
 河州に森という姓の人がいたが、こんな事を語った。その友に武田直次郎と言う者がいた。

二十歳(はたち)ばかりであったが、ぶらぶらとわづらい、養生をしたが、良くならなかった。
それで両親は、大いに嘆いて、ある年の春、両親がつきそって京へのぼり、部屋を借りて(借座敷に滞留し)養生をさせた。
治療の甲斐あって、次第に快気して、おおかた平生のようになった。
もう一月も滞留して、国もとへ帰ろうと思って、あなたこなたと物見遊山に出かけた。
三月の初めの頃の事であったが、直次郎も供の者を一人つれて、東山の花など見めぐりさまよいあるいた。
とある所に、これも借座敷と見えて庭先に一木の桜が咲いているのを、何心なく立ち止まってみていた。
すると、部屋の内より若い女が出てきて、
「ここはかし座敷でして、今日一日かりて、私の主人が花見をしております。遠慮するような所ではございませんので、お入いりになって、ゆっくりと花を御らんになって下さいませ。」と言った。
直次郎は、「ありがとうございます。」と庭に入って、縁側に腰を打ちかけ、花をながめていた。
そこに、奥より大変優雅で、たおやかな十六七の娘が出てきて、
「私は今日こちらへ花見に参った者ですが、母は用事があって、先に帰りました。私は日暮れてかえれば良いので、まづまずこちらへ、御あがりください。ゆっくりと花も御覧になってください。」と、菓子や酒などでもてなした。
直次郎も若い者であるので、とやかくとたわむれて思わぬ枕をかわした。
供の者に、「もう、夕ぐれになりましたよ。」とせかされて名残りが惜しかったが立ち帰った。
又逢う事のしるしとして、香箱にはまぐりの絵を描いたのを取り出して、二つに分けた。片方のふたの方だけを形見のしるしとして彼女に贈り、もう片方の身の方は、我がふところに入れた。
帰る間際に、このように詠んだ。
   玉くしげ ふたみの浦に よる貝の
       またこと方に 打ちやよすらん
このように詠むと、娘が返してきた。
   玉くしげ ふたみの浦に よる貝の
       ことかたならで あふよしもかな

と詠みあって、涙ながらに立ちわかれた。

そののち一両年も過ぎて、直次郎もいよいよ健康になって、江戸づとめをすることになった。
東へ赴き、宮仕えをした。
ある年の春になって、上野の花などを見めぐり、過ぎた日の事などを思い出して、ふと とある幕の内を見いった。
すると、何とやら見たことのある女がいて、その女も、向こうからつくづくながめていた。
思い出せば、以前に都で会った女であった。
とやかく、胸も高鳴って、かつ驚き、どうしようかと思っていると、娘もそれと幕の内より出てきた。
「そののち別れてより、さる御方に宮仕え致しました。ひと時も、あなた様を忘れる事はありませんでしたが、尋ねようもなくておりました。
こちらの姫君につきそって、去年の秋に、江戸に下ってまいりました。私を、忘れないでください。」
と、その場は別れた。

それから縁故を求めて、うまい具合に、主人より御いとまを給わった。

両親とも、息子たちの不思議な縁を喜んだ。

二人は、まことの夫婦となった、と森という人が語った。

  

新説百物語巻之五 5、肥州(肥後:熊本県)元蔵主あやしき事に逢ひし事

2023-08-01 22:22:44 | 新説百物語
新説百物語巻之五 5、肥州(肥後:熊本県)元蔵主あやしき事に逢ひし事  
                                2023.8


肥後の国に元蔵主(もとぞうす)と言う僧がいた。
或る時、檀家に死者がでたので葬礼をした。
寺での引導の時に至って、死人が棺の内よりすっつくりと立ち上がった。
元蔵主は、これを見ても、すこしも騒がず座っていた。
しかし、傍らの僧が、
「死人が立ち上がりました。」と伝えた。
それで、元蔵主は、死人をはったと睨みつけ、すこしも騒がず、側に焼香箱を持っていた小僧のあたまを、扇で、はたと打つと、彼の死人は、もとのように倒れた。

その後さまざまな仏事をしたが、何のさしつかえも無かった。

一七日過ぎて、ある夜、死人が元蔵主の座敷に来て、「さまざまの御弔い、ありがたくこそ存じます。
御礼のために、今度も小僧にとり憑りついて、申しあげました。
これ以後は、このような怪異な事はおこしません。
もう、死人の私の顔は、お見せしません。」と、言った。

元蔵主が、後で
「成る程、その顔はなんとも言えない恐ろしい顔であった。」と語った。

この怪異は、小僧の恐い恐いと思った一念で引きおこれた、と推量した。
それで、小坊主を扇でたたいて、正気に返らせ、怪異を消したものであった。

頭のよい僧であった。