今は更地になってしまっている実家の近くに、大きな柘榴の樹があった。
小学生の頃、自分の拳よりも大きなその実をよく食べていた。
そんな子供の頃は知るよしもなかったが、大人になった今、柘榴と聞いて思い浮かぶのは、北斎が描いた「笑ひはんにや」の絵。
そして鬼子母神の話。
昔、他人の子供を拐っては喰らうという恐ろしいことをしていた子沢山の夜叉がいて、お釈迦様が懲らしめてやろうと夜叉の末っ子を拐い隠した。
自分の子供を隠され発狂しそうになった夜叉は、自分の所業の罪深さに気づき改心し、鬼子母神となったという。
また柘榴は人肉の味に似ている、という俗説もある。
もちろん人肉を食べたことはないけれど、人づてに聞いた話では少し酸味があるらしい。
何も知らずに食べていた柘榴の実は、熟していない部分は確かに酸味があった。
けれど、大きく弾けて赤く色づいた実は、一粒一粒が大きくルビーのような綺麗な色で甘く、その果汁は手につくとねっとりベタつくほどに糖度があった。
大人になってからは、柘榴の実を食べる機会もなく、たまにグレナデンシロップをソーダで割って飲んだりする程度。
販売されているものも、海外からの輸入が多いらしい。
子供の頃のあの味を、また口に出来る日があるだろうか。
あの日の柘榴の実が食べたくて、恋しい。