一時期、細胞融合という技術が流行ったことがありました。
異なる種類の作物の細胞に電気的な刺激or化学的な処理を加えてあげると互いが融合するのを利用し、新しい作物を作ろうとする技術です。
融合する作物の種類が遠すぎるとうまくはいきませんが、交配だとちょっと難しいなぁ、、くらいの距離間の作物同士であれば細胞融合がうまくいくため、品種改良に新しい風を吹き込む技術として期待されていました。
特にカンキツだと、珠心胚と呼ばれる胚から実験にとても使いやすい細胞が得られるので、細胞融合の研究がどんどん進み、色々な融合が試されました(一番最初にできたのはオレンジとカラタチの細胞融合。オレタチという名前が付けられました。)
一方で、融合によって染色体数が倍になってしまうこと、いらない形質も付随してしまうこと、融合させた後植物体に再分化させられないこともあり、当初期待されていたほど技術として伸びなかったといわれています。
カンキツでもそのブームは去ったのか、最近はそういった論文を見ることはあまりありませんでした
ところが昨日久しぶりにカンキツの細胞融合について調べていたら、ちょっと面白い検索結果が出てきました。
まだ全然読んでないんですが、どうやらフィンガーライムとカンキツの細胞融合のようです。
あまりカンキツの病理学に詳しくないので、今回初めて知ったんですが、
どうやらフィンガーライムはHLB、日本名だとカンキツグリーニング病に対して抵抗性を持っているようです。
その抵抗性を利用すべく、マンダリンとフィンガーライムとを細胞融合したようです。
(左:マンダリン 中:フィンガーライム 右:融合個体)
ほんとに全然読んでないので怪しいですが、たぶん非対称融合で、
フィンガーライムの核とフィンガーライム&マンダリンの細胞質を持った個体になっています。
で、融合個体の果皮がオレンジになっていることを鑑みると、フィンガーライムの黒い果皮は核外遺伝子、または核内遺伝子と格外遺伝子の相互作用によって生まれるということになりますね。
(細胞融合はそんな単純じゃないかもしれませんが)
ということで、フィンガーライムの果皮に注目して育種をする場合は、遺伝させたい果皮色を持っている個体を種子親にした方がよさげですね。
フィンガーライムの遺伝様式はほとんど情報が公開されていませんが、こういった論文が出されるとそこから色々遺伝様式を推測できるのでとても助かります。細胞融合でウィルス耐性を導入するという考えもとても面白い。私自身、細胞融合への興味を少し失っていましたがもう少し積極的に考えてもいいのかもなと思いました。
参考文献
Manjul Dutt : Utilization of somatic fusion techniques for the development of HLB tolerant breeding resources employing the Australian finger lime(Citrus australasica)