前回
⑦ニートクリスマス番外編 フォギーレイン
「やー」
「病室移ったんだ」
カノはちょくちょく花を持って来たり甘い物を持って来ては病室に見舞いに来ていた。他の患者がやっかむほど、カノは俺の見舞いに来ていて、カノが帰ったあとに他の患者たちに嫌がらせを受けていた。ある日突然、俺の病室に患者たちが酒を飲んだりタバコを吸ったりと宴会騒ぎを起こし、見かねて俺は別の病室に移された。騒ぎがあった事も知らず、カノはまた見舞いにやって来た。
「今度ここになった」
「どうお?」
「まだ、退院の話しは聞いてない」
しばらくすると、カノが俺の昔ばなしを始めた。
「アララギ、〇〇ちゃんと付き合ってたよね」
「特に付き合ってたわけじゃないよ」
カノのいつものパターンで、昔、噂になった俺が好きだった彼女のことを聞いてくる。その度に俺は「特に付き合ってたわけじゃない」と応えると、
「へえー」
「噂になってたのになー」
その後はお決まりで俺を茶化すループが続いていた。
「弟に彼女が出来たみたいでさ」
「へえー」
(俺はカノの弟だけあってモテる気はしていた)
「〇〇ちゃんって言うんだけど」
「アララギ知ってるよね?」
「なに?えー!」
「付き合ったことあるでしょ?」
「え!と・・・」
「弟は知らないと思うけど」
(カノに槍を向けられ、俺は逃げ場を失った)
「あ、あるけど、とっくに終わってるよ」
「な、なんでカノが知ってるんだよ?」
「アララギ、見せたがり屋だから」
「学生の頃のことじゃないか!」
「何人目?」
(そこまで聞くか!)
「は、」
「初めての相手だよ」
「〇〇ちゃんじゃなかったんだ」
「その後は?」
「その後?、何人もいないよ」
「あたしは既婚のおやじだった」
(今度はいきなり初体験の相手を向けてきた)
「なんだって!」
「すごくやさしい人だったよ」
「既婚者でやさしいって、カノとやりたいからやさしくしただけだろ!」
(俺はカノの初体験の相手を知り・・)
(ムカついた)
「やりたくて、やさしくしてた、だけだろが!」
「アララギもやさしくしてたんだ?」
「俺?」
「俺のは嘘だよ」
「嘘なんだー」
石野真子 彼が初恋
彼が初恋 | |
クリエーター情報なし | |
Victor |
「あたしこないだお見合いしたんだよね」
「お見合いしたのか?」
「いいひとだったよ、お金持ちだったし」
「そうか」
「でも、お母さんがさ、その後、あたしより背が低いよねーって言ってさ」
「どうしようかなー」
「あたしより背が高いの」
「今のところ、アララギだけなんだよなー」
(なんてことを言い出すんだ!)
「カ、カノ」
「ん?」
「俺が、あの、その」
「既婚者だったおやじのことも」
「その、なんていうか」
「カノの小学生時代のことも」
「全部俺が受け入れる」
逃げ場のない俺は、咄嗟に思いついた大口をカノに告げることになった。
続く
次回
⑨ニートクリスマス番外編 ハートで勝負