レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

長いトンネル(2)

2007年02月06日 | 昔の話
こうして私の就職活動は振り出しに戻った。
絞って二社にしたとはいえ、はっきり言って
その二社以外に私が働けそうな会社が無かった。
他の友人は皆希望就職先を提出し終わり、
グループになって面接の練習などしているのに
私の希望就職先は鉛筆の先で空欄のままだった。

それから暫く経った頃、担任がある求人票を持ってきた。
「株式会社○○」
私はそれを受け取って怪訝な顔をしたと思う。
確かにそれは最初から求人票の束の中にあった。
多分誰でも知っている、バカみたいに大きな会社からの
でも私にははっきりと畑違いの求人だった。
給料は確かに求人票の中で一番良かったけど
だからと言って出来る仕事と無理な仕事がある。
お金を貯めるのが目的だけど、お金が貯まる前に
クビになったら敵わない。
私は最初からその求人票を省いた所で就職先を探していた。
それなのに何で今私の手元に
この求人票があるのだろう?

担任は私にこう言った。
「M君と同じ希望でかち合っちゃったんでしょ?
 まだ就職先が見つかってないなら、ここはどうかなと思って」
どうかなもへったくれも無いのだが。
だってこの仕事は多分、私には無理だ。
その旨を担任に伝えたのだが彼女は実に暢気者で
大丈夫大丈夫、あなたなら出来ると
気軽に肩を叩いて行ってしまった。

(続)

長いトンネル(1)

2007年02月06日 | 昔の話
私は高校を卒業してすぐ就職した。
大学へ行く学費を稼ぐ目的もあったが、
とにかく早く自立したかったのだ。
進路を大学、或いは専門学校に決めた生徒とは別に
就職組は夏の間毎日、職員室に貼ってある求人票とにらめっこだった。

就職先には全く困らなかった。当時はバブル真っ只中で
高校生といえど引く手数多、好きに会社を選べる時代だった。
翌々年にはバブルが崩壊したので
私の進路選択は実にタイミングが良かったのである。
何社か目当てを決め、同じ会社を希望する友人と一緒に
会社見学に行っては悩みながら帰ってくる。
私は目当てを二社に絞っていた。選ぶ基準は何のことはない、
求人票の中で給料が高いものだ。
就職すると言っても一生の仕事を見つけようという気は無かった。
好きな事が仕事になるとも思っておらず、
ただ早く金を貯めること、金が貯まったら大学に行くこと
これしか考えていなかった。
企業としては大変迷惑な話である。


目当ての一社(印刷会社)は何人か希望がいた上に
仕事があまり面白くなさそうであったので諦めた。
もう一社のデザイン事務所は本命だった。此方に求める条件が
かなり厳しいため希望者はほとんどいなかったのだが
私が思い描いていた「就職」に
実にぴったりの雰囲気であったからだ。
地下鉄の駅から並木道を、十分ほど歩いた所にある小さなビル。
一階と二階がいかにも洒落た事務所になっていた。
パンプスを履き、タイトスカートで小脇にファイルを抱え
髪をまとめた私が地下鉄の駅から事務所まで
足早に歩いていく姿を想像して身悶えした。

これだ。私の就職先はここしかない。(迷惑)


しかし会社見学に行った帰り道、
私と友人は近くの喫茶店に入って黙り込んだ。
採用するのは一人、しかも他校からも募った上で、だそうだ。
就職先が数多あるとはいえ、一度落ちてからの申し込みは
やはり時間的なリスクがある。
希望する就職先がかち合ってしまった友人(男)とは普段から
よく気が合った。気が合っちゃったからこそのかち合いなのだろう。
少し悩んだけど、私は彼に言った。

「Mが受けなよ。実は私、三年で金貯めて大学行こうと思ってるんだ。
 そんなの会社にとったら迷惑じゃない。
 Mは私よりもちゃんと就職しようと思ってるんだから、いいよ。」

格好つけから言った言葉ではなく、就職を真剣に考えている人を
優先すべきだと思ったのだ。
Mはびっくりしたように、でもすごく嬉しそうに
「…ありがとう」と言ったが
私は就職も、その先に予定している進学さえも
自分が真剣に考えていない気がして
Mに悪いことをしたような気持ちになった。

(続)