レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

長いトンネル(8)

2007年02月13日 | 昔の話
 Sが抜けてしまい、私は必然的にOと一緒に
行動することが多くなった。
仕事の合間や休憩時間に、仕事の話や趣味の話を
ぼそぼそとしていたが
最初は何とも気が合わない人だなあと思った。
読む本、聴く音楽、好きな事、それらの感想
どれをとってもさっぱりかみ合わない。
それどころか彼女の好きなものは
ことごとく好感が持てないものであった。
とはいえどんな人でも長く付き合っていくうちに
付き合い方が分かってくる。
趣味の面ではまるで合わないが、辛抱強くて意外と気が強く
話し慣れてくるとなかなか頭の回転の早い人だった。
仕事の面ではフォローすることが多かったけど
体調を崩しやすかった私は精神面でOによく助けられた。
一年も経つうちにお互い上手く摺り合って
大変良い友達になれたのだ。


昼の休憩時間に私達は職場の隅の資材置き場に入り込み、
缶コーヒーを飲みながらだらだらしていた。
高校時代の話や仕事の愚痴、最近何を買ったか
休日には何をしたか。女の子の話はとりとめがなくきりがない。
将来の話になると二人ともぼんやりした。
私は大学に行くつもりであったが、さて
大学へ行ってその先どうしようと思うと
途端に分からなくなってしまう。
その頃には世の中の好景気も大分熱が冷めてきて
一旦会社を辞めたらまずいんじゃないかな、という
空気も見えてきていた。
Oの方には会社を辞める、という選択肢は無く
このまま何時まで仕事を続けていけるかなあという不安だった。
女性の労働時間は男性社員と比べて格段に少なく
残業できる時間もわずかだ。
一つのプロジェクトは何ヶ月も、下手すると一年がかりになるため
最初から最後まで入れる人が中心となっていく。
定時で帰ってしまう女性を入れるのは難しいのだ。

「やっぱり何年かして、結婚して辞める事になるのかなあ」
Oがぼそっと言う。
「会社とか国の目論見通りで悔しいけど、そうしないと
 必要以上に自分が気張ってるみたいになるんだよね。
 期待されないのは別に構わないんだけどさ…」
結婚かあ、とOはもう一度呟いた。その後で
なんか、人生って何だろうね。と言った。