化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

チーム・マイナス6%とは

2005-10-27 | 省エネルギー
「チーム・マイナス6%」
いわゆる京都議定書において、日本は温暖化ガスの削減を約束しました。その削減量は1990年を基準にして6%です。このことから「チーム・マイナス6%」という表現になっていると思われます。それではCO2の発生を6%減らす(マイナス6%)ために、家庭等においてもこの冬は暖房に使う灯油やガスの使用を6%減らせばよいのでしょうか。家庭だけでなく、工場や病院や学校と行った場所でも総合して6%減らせばよいのでしょうか?「チーム・マイナス6%」という言い方からはこう想像できますが、実際はちょっと違うようです。

温暖化ガスとエネルギー起源CO2
まず、「温暖化ガス」と「CO2」は全く同じ意味ではありません。温暖化ガスとはCO2も含みますが、それ以外のフロンなどのガスも含みます。また、このフロンガスは温暖化効果がCO2よりも格段に大きいので、フロンガスを減らすことができると温暖化ガス削減量が大きくなります。
マイナス6%とは、温暖化ガスを6%減らすことであり、それはCO2排出量を6%減らすということではありません。
さらに、温暖化ガスの排出そのものを減らすことができない場合は、森林によるCO2吸収効果を加えたり、京都メカニズムという温暖化ガスの排出権を外国から買ってもよいのです。それらをあわせてマイナス6%を達成しようということです。

温暖化ガスの中ではやはりCO2が圧倒的に多いので、温暖化ガス=CO2=石油などの化石燃料の使用となり、石油使用を減らすこととの理解が一般的でしょう。
日本の1990年のエネルギー起源CO2排出量は10億4800万トンで温暖化ガス排出量12億3700万トンの85%になりますから、先の理解はほぼ妥当といえます。しかし、排出量の削減量が6%とそれほど大きくないことから、必ずしも石油の使用を6%減らすということに結びつきません。

政府の計画(H17.2.23見直し後)では、2010年の温暖化ガス排出量を対1990年比マイナス0.5%としています。これに、森林による吸収効果マイナス3.9%、京都メカニズムマイナス1.6%を加えて全部でマイナス6%です。つまり、温暖化ガス排出量の削減は0.5%に過ぎないのです。

さらにフロン等の温暖化ガスの削減を多くできそうなため、エネルギー起源CO2は削減ではなく1990年に比較して+0.6%、つまりちょっとは増えていいよ、という計画になっています。ここで、エネルギー起源CO2とは私たちが電気、灯油やガソリンを使ったとき発生するものです。今年の冬(京都議定書での取り決め、COP3とも言っていますがそれは2010年のこと)は灯油など燃料使用をマイナス6%にするどころか、+0.6%ちょっとは増えてもいいよとなります。

ところが、基準年は1990年です。(フロン等は95年が基準) 今から15年前を基準にしていますから現在の燃料等の使用量はどうなっているかも問題です。1990年といえばバブル最盛期で、その後は失われた10年というくらいですから、燃料等の使用も大して伸びていないと思いきや、2003年には1990年に比べて8%増えています。エネルギー弾性値はおよそ1といわれていましたが、経済はのびなくてもエネルギー使用は着実にのびていたのです。手元にある資料は2000年のものですが、エネルギー起源CO2排出量は11億6100万トンであり、1990年に比べて10.8%増加しています。1990年に比べて+0.6%にするということは、すなわち2000年に比べてマイナス10.2%にするということです。そういう意味では「チーム・マイナス10%」という言い方の方がふさわしいかもしれません。

実際の燃料使用削減量
このマイナス10%に相当するエネルギー起源CO2削減量は11億6100万トン引く10億5600万トンですから、1億500万トンの削減量となります。これを原油に換算すると4020万kLになります。(原油のCO2排出係数0.0684kg-CO2/MJ、発熱量を38.2MJ/Lとして計算しています。)2003年の全原油輸入量は2億4500万kLですから、4020万kLといえばそれの16.4%に相当します。CO2削減量を石油だけで達成しようとすると、今の使用量を16.4%という膨大な量を減らすことになります。実際は、日本の一次エネルギー供給量は原油換算で5億8800万kL、石油の割合は47%ですから、石油以外の化石燃料も減らすことで達成していくものです。

新エネルギー
「バイオマスニッポン」というプロジェクトに代表されるように、この石油使用量削減4020万kLを達成するためには、省エネルギーが基本となりますが、新エネルギーすなわちCO2を新たに発生しないエネルギーの活用も期待されています。
政府目標では2010年の新エネルギー導入量を原油換算で1910万kLにしています。これは先の4020万kL削減のかなりの部分に相当してきます。しかしこれは、2010年の目標値です。1999年現在ですでに新エネルギーは693万kL相当利用されていますから、2010年までの増加量は1220万kLに過ぎません。ですから、新エネルギーの導入だけでは2010年までのCO2排出量削減(原油換算4020万kL)の30%しか達成できません。やはり、省エネやエネルギーの効率的利用を推し進めることが一番必要です。
ちなみに計画上今後増やしていく予定の新エネルギーは以下の通りです。
廃棄物発電     440万kL
バイオマス熱利用  300万kL
廃棄物熱利用    170万kL
風力発電      130万kL
太陽光発電    110万kL
この中には今流行りの燃料電池も水素エネルギーという言葉も入ってきません。もちろん各論的には燃料電池技術開発への期待はありますが、それは高効率コジェネの一種というとらえ方、つまり省エネ機器の一種です。燃料電池の燃料は今後も天然ガスや石油です。
また、風力発電や太陽光発電の占める割合はわずかで、もっぱら廃棄物の有効利用が第一です。例えば風力発電は2010年までの原油換算削減量4020万kLに対して、3.2%に過ぎません。寄与度という点からはそれほど大きくないといえます。バイオマスといっても熱利用ですから、間伐材や廃材の薪ストーブ利用に期待しているということもあります。もちろん、木質バイオマスのガス化熱利用などという方法もありますが熱利用ですから、あんまり高等なことをしなくてもよい訳です。つまり今の段階では導入が容易な方法を当てにせざるを得ない言うことです。COP3という約束事は2010年が達成できたら終わりと言うわけではなく、その後も順次削減を続けていくと言うことのようですから、今からあんまり高度技術を当てにしてもいけないということでしょう。

「チーム・マイナス6%」とはいうものの、今の時点から燃料利用を10%減らそうという運動のようです。そしてもっとも効果があり確実なのは、省エネを進めるということのようで、クールビズに次いでウォームビズを流行らせようということです。
省エネの具体的方策や利用分野別CO2削減量についてはまた別の機会をみてまとめます。

スターリングエンジン

2005-09-27 | 省エネルギー
NEDOのバイオマスエネルギー転換要素技術開発としてH16年度から直噴燃焼バーナーとスターリングエンジンを組み合わせた小型発電システム開発を、中部電力が行っている。H17年度には50kWスターリングエンジンを導入して、組合わせ試験を実施する。
スターリングエンジンは丸紅経由で米国STMパワー社から提供される。

スターリングエンジンとは聞き慣れないですが、いわゆる外燃機関というやつです。現在走っている車、ガソリン車ならばオットーサイクル、軽油車ならばディーゼルサイクルですが、これらはいずれもシリンダー内で燃料を燃やす内燃機関です。

スターリングエンジンはシリンダーの外で燃料を燃やし、シリンダー内のガス(STM社のものは高圧水素)を暖めたり冷やしたりして膨張、収縮させピストンを上下させるものです。

考案されたのはずいぶん古いそうで、理論上はカルノーサイクルと同じ効率達成が可能で、低振動、低騒音などの環境性に優るのですが、これまで実用化できなかったそうです。(何故かまでは調べてない。)

外燃機関は燃料の制約が少ないのが特徴。(確かに、ガソリンエンジンに軽油を入れても駄目です。)そこで、バイオマスなども簡単に燃料として利用できることから注目されました。また、排熱の利用が可能なので総合効率が高くできます。

いいことずくめのようですが、今後の研究の成果に期待します。

電気自動車の逆襲

2005-09-16 | 省エネルギー
三菱自動車や富士重工がはやりの燃料電池自動車開発を中止し、電気自動車に開発を集中するという。あのGMやフォードでさえ、一社では開発投資が大きすぎるとして共同開発するのですから、賢明な選択です。もっともGMやフォードの場合は、本業での業績が良くないので、とても開発に回すお金がないという事情もあるようですが。
「晴れた日にはGMが見える」といわれたような会社の社債がジャンクボンドになるのですから、大変です。

さて、燃料電池自動車とハイブリッド車の戦いに電気自動車が参戦というのは良いことでしょう。プリウスやインサイトで成功しつつあるトヨタ、ホンダはさらに大型の車種にハイブリッド仕様を拡張し、さらにはディーゼルハイブリッドで高効率を狙うという方針のようです。
鳴り物入りの燃料電池自動車も、水素供給インフラや水素源の課題、FCV車本体のコストダウンを克服するにはさらに10年くらいはかかるとのことで、当面はハイブリッドでの攻勢をかけるはずです。

本題の電気自動車。これまでは街中をこまめに走る、あるいは空港内ビルなどで使われていたにすぎません。ここにきてハイブリッド用の開発とも相まって、モーターの小型化・高出力化、バッテリーのエネルギー密度向上と充電時間の短縮が進み、一気に前線に出てきたようです。
特にインホイールモーターが実用化されるといよいよ電気自動車も市販が視野に入ります。

また、加速性能はエンジン車の比ではないようで、この点からも注目が集まっています。電気自動車そのものの車両効率はエンジン車よりもそもそも高いので、たとえば再生可能エネルギーを利用すると総合効率も格段に高くなります。
深夜電力を利用して夜に充電する方法も、発電所効率の向上に寄与する分を考慮すれば、実質的に化石燃料使用量削減に寄与することもあり得ます。

電気自動車なんて、と思っていましたが、意外にFCVより効率的かもしれません。
そのうち、少しまじめに調べてみなくては。

電気自動車

2005-08-04 | 省エネルギー
電気自動車に関するいくつかの記事

1)三菱自動車は燃料電池自動車の開発から撤退して、電気自動車の開発に集中するとのこと。
さすがに不祥事続きで売り上げ減から、開発投資を縮小せざるを得ないことは想像に難くありません。
開発費のかかる燃料電池自動車開発を断念するのは賢明かもしれません。でも、本当に電気自動車が本命になるのでしょうか。

2)電気自動車(EV)がハイブリッド車を環境負荷の電機面で凌ぐことは自明だ。との記事。

車両効率でハイブリッドに優ることは想像できるが、Well to wheelでみた環境負荷の面、つまりエネルギー消費効率でもハイブリッドに勝てるのは本当だろうか。

開発者である某大学教授によれば、「日本中のバス、トラック、乗用車をすべてEVに替えても、発電所は1基も増やす必要はありません」と断言している。その理由は「余った夜間電力を使うので、発電量を約1割増やすだけで済むから」だという。

本当かどうか、後で検討してみよう。感覚的にあわないような気はしていますが。
発電効率38%の電気をバッテリーにためて、それを使って走るのですから、ハイブリッドに優ると言い切れるかなあ。
また、実用に耐えるだけの大容量蓄電池があるのかがもう一つのポイントです。

電気自動車の方がハイブリッドよりも構造が簡単であるのは間違いないので、電気自動車にも活躍の場はあると思います。でも、世の中のすべての車が電気自動車になる、ダンプカーもブルドーザーも電気で走らせる、そこまでの必然性はないと思う。

ハイブリッド車 VS 燃料電池自動車

2005-07-06 | 省エネルギー
水しか排出しない、排気ガスが出ないので環境にやさしいという謳い文句の燃料電池自動車の導入がまた遠のきそう。そもそも、燃料の水素をどうやって作るのか、運ぶのかといった課題を抜きに、環境にやさしいという言い方は正しいとは思えない。原油は地面を掘ったら出てくるが、水素は地面を掘っても出てこない。水素を石油から作って燃料電池自動車を走らせるのと、ガソリンハイブリッド車の燃費を比較すると、水素製造段階でのエネルギーロスが大きい分、ハイブリッドの方にエネルギー効率的には軍配が上がる。

トヨタはハイブリッド車プリウスの来年の生産を倍増の50万台にするとの発表である。
またホンダは新ハイブリッドシステムを開発し、シビックに搭載するとのこと。
システム出力を約20%高め、1.8Lエンジンクラスの力強い走りを実現しながら燃費を5%以上向上するとともに、システムサイズの5%の小型化や世界最高レベルの排出ガスクリーン性能を達成したという。
いずれもハイブリッドへの力の入れようが分かる。

もちろんだからといって自動車各社は燃料電池自動車の開発を止めるということではない。
トヨタは現状1台1億円の燃料電池車を2015年には600万くらいにしたいといっている。また、現在の燃料電池車FCHVの型式認定を取って、一般ユーザーにも月100万くらいでリースするようだ。

ホンダも現行の燃料電池車FCXの型式認定を取った。2010年代には年間12000台生産にのせるとのこと。但し、価格の言及は無い。
また、ダイムラークライスラーは2015年当たりに年間10万台の生産を予想している。

燃料電池車の限定リースが始まった2002年には2010年には国内累積5万台の市販燃料電池車が普及するとの目標であったが、ざっと10年は後ろ倒しになった勘定である。
それもこれもハイブリッド車の躍進による。

化石燃料から水素を作る方法による限り、燃料電池自動車がハイブリッド車に打ち勝つ日は遠いようだ。しかし、化石燃料のAvailabilityが低くなるのも自明の理というもの。
だから、自然エネルギーや再生可能エネルギーの利用が必要である。しかし、現在使用しているエネルギーの何%を再生可能エネルギーに置き換えればよいのかという目標値がはっきりしていない。一つの目安はCOP3の6%削減であろう。このあたりの定量的な目標について、世の中のコンセンサスが形成されなければいけません。