化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

自動車の燃費

2006-11-30 | エネルギー
少し前の話ですが米DOE/EPAが2007年モデルの自動車燃費ベスト10を発表しました。毎年DOEは消費者の目安とするべくこの発表を続けています。エネルギー省大臣は燃費に注目するとともに、フレックス燃料自動車も選択するよう推奨しています。フレックス車はE85などのバイオエタノールガソリンを使用できる車種です。

これらの数値はEPAの基準に沿ってメーカーあるいはEPA自身が測定したものでそれなりに信用あるものです。しかし来年はより実際の道路走行に近い数値を出すためにテスト方法を変更するとしています。 トップ10は以下の通りです。

Rank   Manufacturer/Model       MPG(km/L)
1        Toyota Prius (hybrid)       60 (25.3)
2        Honda Civic Hybrid          49 (20.7)
3        Toyota Camry Hybrid       40 (16.9)
4        Ford Escape Hybrid FWD   36 (15.2)
5        Toyota Yaris (manual)        34 (14.4)
6        Toyota Yaris (automatic)    34 (14.4)
7        Honda Fit (manual)            33 (13.9)
8        Toyota Corolla (manual)     32 (13.5)
9        Hyundai Accent (manual)    32 (13.5)
          Kia Rio (manual)               32 (13.5)
10       Ford Escape Hybrid 4WD    32 (13.5)
          Mercury Mariner Hybrid 4WD 32 (13.5)

数値は市街地走行モードのものです。カッコ内は日本風の単位に計算しなおしたものです。トップ10入りの12台のうち、米フォード車が3台、韓国車が2台、残りの7台はすべて日本車です。しかもトップ3を含めて日本車は上位を独占しています。中でもハイブリッドのトップ3の数値、とりわけプリウスはダントツです。2位のホンダとは10mpg以上の開きがあります。ホンダは検討していますが所詮プリウスの敵ではないという声が聞こえてきそうです。

日本のメーカーでは日産車が全く入っていません。V字回復で話題になったゴーン日産ではありますが、これでは作っている車はたいしたことないと言われそうです。 最も5位から10位までの差は1から2mpgですから実感としては同等というところでしょうか。

8位から10位は同じ数値で順位がついていますが、これは高速走行時の優劣によるものです。トヨタYarisはヴィッツのことです。このリストにはマニュアル車が5台入っています。確かにマニュアル車の方が高速走行では燃費が良いですが、日本で売られている車はほとんどがオートマ車です。このようにリストにわざわざマニュアル車が登場するところを見ると、米ではまだまだマニュアル車のシェアは高いということでしょうか。

米ビッグスリーで入っているのはフォードのみです。あのGMはどこに行っているのでしょうか。そこで車種別のトップリストを見てみます。

Class            Maker/Model                City (mpg)
Two Seater:   Mazda MX-5 (manual)         25
Minicompact:  New Beetle Convertible       22
Subcompact:  Toyota Yaris (manual)          34
Compact:       Honda Civic Hybrid             49
Midsize:          Toyota Prius (hybrid)          60
Large:            Hyundai Sonata (manual)     24
Small Station Wagon: Honda Fit                 33
Midsize Station Wagon: Ford Forcus Wagon (manual) 27
SUV:              Ford Escape Hybrid FWD     36
Minivan:          Dodge Caravan 2WD          20
Pickup Truck:   Ford Ranger 2WD              24
                     Mazda B2300 2WD             24
Van:               GMC G1500/2500              15
                      Savana 2WD Cargo

こちらには少し違ったメーカーも入ってきています。マツダ、ワーゲン、クライスラー(Dodge)があります。ダントツで燃費の悪いVanのクラスで漸くGMの名前が出てきます。残念ながら日産の名前はここにも登場してきません。

一見して分かるのは米メーカーは燃費の悪い大型車に名前があり、普通車、小型車はすべて日本あるいは韓国製です。韓国車は先のトップ10にも入っていましたが、現代が頑張っています。トヨタの定年退職者が現代で生産技術指導をしているという話もあるくらいですから、確実に日本に続いてくるでしょう。

自動車の燃費は小型ほど良いと考えていましたが、コンパクトカーとミッドサイズの車種にハイブリッドが投入されているのでこのリストでは小型になるほど燃費が悪くなっています。 ミッドサイズのプリウスがコンパクトカーのシビックHYを大きく上回っていることに再度の驚きです。トヨタ・プリウス恐るべしという結論です。

シアトルの雨

2006-11-29 | 環境
秋の長雨といいますが、今月のシアトルの降雨量が新記録を樹立するかどうかという話題です。日本ではイチロー選手のマリナーズで有名なシアトルですが、その気候については意外と知られていないでしょう。

緯度で言うと北海道よりもさらに北で、サハリンの南端に相当します。しかしメキシコ湾流のお陰で冬でも気温がマイナスになることは少なく、雪もめったに降らない土地です。もちろん夏は24℃くらいの気温で、湿度が低いですから快適な土地柄です。しかし、10月頃から始まる雨季の間は、毎日の降水確率が50%以上となり、この時期だけはいただけないようです。

これまでの11月の最大降水量は1953年の12.9インチ(シアトルタコマ空港)と1933年のシアトル市内での15.33インチがあります。1945年に公式降雨記録計がシアトル市内からシータコ空港に移されたので、最高記録が二つになっています。

今年の11月はこれまでに14インチを上回っているので新記録達成の可能性が高いということです。最もシアトル市内のほうがシータコ空港に比べて平均で11%降水量は多いので、シータコ空港での最高記録は17インチ以上となり、記録更新は難しいのではといった、玄人の意見もあります。

これは地球温暖化の一つの証拠だ、などと騒ぎ立てないところが良いですね。

長雨は憂鬱ですが悪いことばかりではありません。カスケード山の雪が多くなりスキーには最高、水不足の心配がないし水力発電により大量に電気ができる、来年には鮭が沢山帰ってくるなどです。
但し日照不足、日に当たらないことによる健康障害の心配があるので、うす曇でも屋外に出て活動すること、と専門家は呼びかけています。

アジアパシフィックの石油需要

2006-11-28 | 石油
2004年に5%増加を示したアジアパシフィックの石油需要は、2005年には2%とその勢いを低下させました。しかし2006年には3%を越える需要増加になると、ホノルルに本拠を置くFACTS社はレポートしています。

2005年の減速の原因は石油価格高騰と各国の補助金廃止によります。アジア諸国では石油製品に補助金を出すことで内外の価格差が大きくなっていました。これにより密輸の横行や石油製品の不正使用がはびこっていましたが、各国製油は国内石油製品の値上がりにつながる補助金の廃止には後ろ向きでした。どこの国の政権でも国民から政治的非難を受ける政策は取りたくないものです。

しかしここにきてタイやインドネシアでは予算的制約から補助金の大幅削減や廃止を行なっています。これによって石油製品の国内価格は上昇し、それにつれて石油需要にブレーキがかかりました。さらに一部の国々では価格高騰に後押しされて代替燃料の導入、バイオ燃料や天然ガス自動車、が進んでいます。

よく言われることですが中国の需要増加はアジアパシフィック地域全体の需要増加の2分の3を締めています。しかし統計のとり方によってその増加量は変わるようです。IEAのレポートでは2005年の需要増は15万BD(2.4%)ですが、これを見かけの需要増加といっています。この数値はあまりに小さすぎで、2004年の在庫増加と2005年の在庫減少を加えた需要増加は80万BD(14.6%)に達しており、これが真の需要増加といえます。

中国では補助金により国内石油価格を低く抑えています。このため中国の製油所や石油ディーラーは、より大きな利益を得るために国外への輸出や密輸を行なっており、経済成長に必要な国内石油製品が不足することとなっています。

一例として香港の軽油需要の推移があります。2005年の香港の軽油消費は34,000BDの減少でしたが、トラック業者や軽油需要家が使用している軽油の実際の減少量は20,00BDに過ぎません。その差は広東から調達しているためです。その証拠に2006年に広東と香港の価格差が解消されると11,000BDの増加となりました。

日本の石油消費はどうかというと、1999年と2003年に8万BD程度の増加が見られましたが、それ以外の年はすべて減少しており、アジアパシフィックでは唯一の需要減少国です。

アジアパシフィックでの製品構成は軽油(30%)、ガソリン(17%)、燃料油(16%)、ナフサ(12.7%)、LPG(9.7%)、灯油(9.6%)となっています。日本の構成はガソリン(22%)、A・C重油(20%)、ナフサ(18%)、軽油(14%)、灯油(12%)、LPG(12%)です。アジアパシフィックでは軽油の需要がダントツに大きいのがわかりますが、自動車での消費はこれの半分以下ですから主として内燃機関で使用されていると推定されます。また、燃料油の割合が随分と低くなっていますが、日本で言うA重油は軽油と分類されているものと思われます。

今後の需要量の増加とともにこの需要構成は、モータリゼーションの進展、石油化学産業の発展により日本のパターンに似てくるものと予想されます。

天然ガスからの不純物ガスの分離

2006-11-27 | ガス
一般に天然ガスと呼ばれているのは可燃性天然ガスのことですが、ガス田から産出される時には炭化水素以外のガスも含んでいます。この不純物としては窒素、二酸化炭素、硫化水素、アルゴン、ヘリウムなどがあります。含有される不純物ガスの種類とガス組成はガス田によりまちまちでしょうが、除去しなければならない主な不純物は二酸化炭素と硫化水素です。

広く用いられている不純物ガスの除去方法は、水溶液に吸収させてメタンと分離する方法ですが、メンブランフィルターを用いる方法もあります。しかし、不純物ガス濃度が15%以上になるとこれらの方法は経済的に成り立ちません。

例えば水溶液に吸収させる方法では、不純物ガスを吸収したリッチ溶液を加熱して不純物ガスを放出させる必要がありますが、不純物濃度が高いと加熱に使われる熱エネルギーが生成される製品天然ガスの熱エネルギーを上回ることになります。

そこでシェルでは遠心分離による新しい不純物ガス除去方法を考案しています。回転分離プロセスと呼ばれるこの方法は、ウラン濃縮で使われているものと同じ原理のようです。ガス-ガスの遠心分離ではガスの拡散が遅いので分離時間を長く取る必要があり、必然的に装置が巨大となって実現不可能です。

シェルの回転分離プロセスでは相変化、具体的にはガスを液体に変えて分離速度を大きくする方法を採用しています。ガス田の中のガスは高圧、例えば130気圧、ですので、これを地上に持ってきて膨張・冷却させて不純物を液体ミストにします。なおこの時エクスパンダーで動力を回収します。不純物ミストは回転粒子セパレーターで分離し、コンプレッサーで再加圧して製品天然ガスとします。コンプレッサーの動力はガスエクスパンダーで回収した動力を使います。分離された二酸化炭素は再びガス田に戻されます。

この方法では経済的に高濃度の不純物ガスを回収できるといいます。シェルの試算では100kg/secのメタン(50%の二酸化炭素を含む)を処理するのに直径1m、長さ10m程度の装置で済むといいます。ガスの処理量を換算すると1440トン/dayです。例えばサハリンIIでの生産天然ガス量は23,000トン/dayと計画されていますので、これと比べると回転分離装置の能力が理解できます。

ロッキー山麓の炭素税

2006-11-22 | エネルギー
コロラド州ボルダーという土地を知っているでしょうか?マラソン選手が高地トレーニングで利用していることから日本でも良く聞く地名です。ロッキー山脈のふもとに位置する人口9万人の町で、コロラド大学のある大学町です。

ボルダー市民は先の住民投票で炭素税を承認しました。来年4月1日より発効するこの税金は、電力使用量(kWh)に課税されるもので、一般世帯で年間16ドル、商用で46ドルになると市当局者は見込んでいます。税金は電力料金と一緒に電力会社に収められます。2012年までに総額で$6.7 millionに達すると予想されます。

ここで集められた税金は気候行動プランに使われます。具体的には一般住宅やビルのエネルギー効率向上、再生可能エネルギーへの転換、自動車燃費の改善です。ボルダー市ではCO2排出量を1990年よりも7%削減、現在の排出量からは24%の削減を目標にしています。

既に風力発電等の再生可能エネルギーを利用しているケースではこの炭素税は減税されます。

ポートランド市では2001年から同様のプログラムを実施しています。同市では電力料金の3%を徴収しています。税金という形態をとっていないので、集まったお金はNPO法人を通じて太陽光発電、風力発電、バイオマスエネルギーの導入補助金、エネルギー効率向上のための建物の改造補助などに使われているそうです。

この様な自治体独自の活動は今後も広がっていくものと思われます。温暖化抑止は全地球規模で取り組む必要がありますが、実際に先進国、途上国を含めた包括的な行動計画を作ることは無理な話です。上の例のようにできることから始めるのが、現実的な方策と思われます。

パイプラインの価格

2006-11-20 | ガス
天然ガスの輸送手段にはパイプラインとLNG船(少量ならばコンテナーやタンクローリー)があります。パイプラインは輸送効率が高いものの、初期投資が大きくまた投資リスクも大きくなります。

サハリンIIプロジェクトは石油ならびに天然ガスの生産設備、陸上処理プラント、原油とLNGの輸出ターミナル、全長800kmの石油並びに天然ガスパイプラインを含みますが、当初予算の$10 billionから$20 billionに上方修正されています。加えて環境影響評価の観点から、ロシア政府より工事の中止命令を受けてストップした状態です。

ところでパイプラインの価格は一体どれくらいなのでしょうか?費用の構成要素は材料費、建設費それにRights-of-way(ROW)です。ROWは用地買収や環境保全あるいは設置地域の特異性などに関わるコストです。それぞれのコストを積み上げてPP建設費を算出するためには多くのデータを必要とします。それらのデータを集めるには時間と労力、場合によってはお金がかかることになりますし、必ずしもデータが揃うとは限りません。

テキサス大学のCEE(Centre for Energy Economics)が過去のPP建設費の実績からPP建設推定費用を計算する方法を提案しています。その方法とはPPの単価($ million/mile)は配管外径と大まかに相関があるというものです。直径30インチから55インチの天然ガスパイプライン単価をHigh、Mean、Lowの3種に層別するというものです。例えば30インチであれば、2、3、4.2 million $/mile、50インチならば2.5、4.5、5.5 million $/mileとなります。

アラスカのプルードベイからアルバータを経由してシカゴまでのトランスアラスカガスパイプラインの価格は$18.4 billionと推定されています。この予想価格はアラスカ州財務局が2006年5月に公表した推定額です。プルードベイ(B)からアルバータ(A)とアルバータ(A)からシカゴ(C)までの二つの区間に分けて考えると、B-A間は52インチ径で5.6 million $/mileの単価なので$12 billion、A-C間はMeanコストの4.1 million $/mileで$6.2 billionとなり合計で$18.2 billionと計算できます。

B-A間は気象条件が厳しく高級な材料を使う必要があること、工事が夏の期間だけしかできないなどの理由からHighケースとなり、A-C間には既設のPPもあることから困難さはそれほど大きくないと予想されるのでMeanケースを適用しています。

しかしPPの建設には予期できない要素も多く、予算オーバーあるいは上方修正を余儀なくされる場合が多々あります。例えばBPが運営しているバクーPPは予算$2 billionのところ$3 billionかかりました。先にあげたサハリンIIも同様に予算オーバーの例です。

大規模PPの建設では技術課題以外のリスク要因を充分に見込んでおかなければならない、あるいはリスクが高まった時の対応をあらかじめ準備しておく必要があります。

2009年に中国は世界一の温室効果ガス排出国に

2006-11-17 | 環境
先日国際エネルギー機関(IEA)が温暖化ガスの予想レポートを発表しています。これまでにもあちこちで言われていることですが、今後中国の影響がますます大きくなり、2009年にはUSを抜いて世界一の温暖化ガス排出国になるといいます。これは、昨年の予想よりも10年以上早くなっているとのことです。

中国、インド、ブラジルを初めとする発展途上国は京都プロトコルに入っていません。さらには自主的に排出量の制限を設けるようなこともしていませんので、地球全体としての温室効果ガスの削減は、遅々として進まないというのが実情です。

中国は先進国が今以上の温室ガス削減をすべきであると主張しています。今現在の温室効果ガス増加は、先進国が過去に排出したものによります。従って、先進国は過去の付けをもっと払うべきで、それを途上国にまで押し付けるのはおかしいとの主張です。食べることも満足にできていない国の国民に向かって、温暖化ガスの排出削減を訴えることは無理でしょう。確かにそういう面は否定できません。しかし、一口に中国といっても年収1億円以上の生活をしている人口は日本より多いといいますから、それらの人々は温暖化ガス削減に協力しても良いのではないかと考えられます。

一方、排出量が現在No1のUSは、中国などの地球温暖化に大きな影響を持つ国が入らないのはフェアーでないので、プロトコルを批准しないというスタンスです。最も、京都プロトコルという枠組みではありませんが、自主的に温暖化ガスの排出量削減に取り組んでいることも事実です。その目標削減量が大きいか、小さいかの議論はあるでしょうが。

推定によれば、2030年までの世界のエネルギー需要は53%増加し、石油消費量は85 million BDから116 million BDに増加します。増加量の大部分は発展途上国によるものです。
一方、石炭消費は59%増加して、その結果CO2排出量は55%増加して2030年には44.1 billionトンになるといいます。

2012年に京都プロトコルの第一履行期間が終わります。2013年以降の枠組みを話し合うための会議が始まっています。次の枠組みではインド、中国、ブラジルなども参加を目的としていますが、すんなりとは行きそうもありません。

京都プロトコルにしてもカナダや西ヨーロッパの国々は足元で、1990年よりも温暖化ガス排出削減ができていません。日本も同様です。結局これらの国々は排出権を購入し、森林吸収に期待するしか道が無い様に思われます。2013年以降も同じような枠組みを続けることに同意はできないでしょう。そもそも、削減量を比率(日本ならば-6%)ではなく、絶対量で決めるべき、との意見もあります。しかし、省エネと同じように比率でやるしかないと思います。絶対量で規制していくと、エネルギー効率の高い国ほど厳しい規制になってしまいますから。あるいは一人当りのエネルギー消費効率を向上させるなどを指標にすることも一考に値します。

USや中国を初めとして発電を石炭に頼っている国は多数あります。過去3年間の石炭消費の増加量は、それ以前の23年分に相当するといいます。その増加量の90%は中国です。今後、中国の5.5%の成長率を見込むと2009年にはCO2排出量がUSのそれを抜きます。

中国ではCO2排出よりも依然として硫黄化合物の排出削減に注力しています。増え続ける電力需要に応じて増え続けるSOxの低減に手一杯というところでしょうか。しかし、石油消費抑制には対応しつつあり、新車の燃費規制を打ち出しています。規制値はUSよりも厳しくEUよりも甘いというものです。

中国だけではありません。イギリスも原油高騰の影響を受けて古い石炭火力を再開させて石油火力の割合を落としています。これにより温暖化ガス排出は確実に増えているのですが、EU内の他の国から排出権を買ってその増加を埋め合わせています。

中国に限らずEUも本質的に温暖化ガスの削減を実現しているとは言いがたいようです。

石炭火力に賭ける

2006-11-10 | 石炭
石炭火力発電はCO2排出源の親玉と見られていますが、その石炭火力に賭けるという頼もしい会社のニュースです。
テキサス州にあるTXUコーポレーションは炭鉱も所有していますが、今後州内に11プラント、合計で900万kWにもぼる石炭火力発電所の建設計画を提出しました。900万KWという発電量は全米の石炭火力発電量の3.5%に相当します。一度にこれだけの大規模な発電所建設計画は初めてだそうで、投資額は$10 billionになります。すべて微粉炭燃焼で、追加でCO2隔離装置を設置するとしています。

CO2隔離のためにはガス化を採用したほうが良いという環境論者の意見に対しては、年間6ヶ月エアコンが稼動するテキサスでは、安価で信頼性の高い電力を供給することが消費者にとってのメリットであり、これに会社の利益を重ね合わせると微粉炭燃焼が一番の解決策と、その主張に揺るぎはありません。

現時点では石炭ガス化は信頼性、経済性の両面から充分とは言えず、これを採用することはしないとしています。カリフォルニアのシュワルツネッガー知事ならば建設申請を認めないかもしれませんが、テキサス州にはCO2排出の州目標がなくこの石炭火力発電計画は認められるものと思われます。

CO2排出抑制規制ができる前に駆け込みで建設し、自社のCO2排出枠を確保した後に休止させて、余ったCO2排出枠を転売するのではないかとのうがった意見に対しては、新設プラントをアイドル状態にしておくような経済性、効率性の観点から見て不合理なことはしない、と反論しています。

天然ガス発電はコストが高く、原子力発電は建設期間が長くまたコストも不明瞭、風力等再生可能エネルギーは発電量予測ができないなどの課題を抱えており、石炭火力が最良の選択だとしています。

TXUはこの11プラントの新設により、全社合わせてのスモッグ原因物質やすすの排出量を20%削減するとしています。そのため新設プラントには吸収塔、フィルターや触媒浄化装置などを具備するとしています。実際同社の最新のプラントは少し離れた場所から見ると発電所が稼動しているのかどうかさえ分からないくらいに排出物は少ないといいます。

最後に別途、風力発電や小型の原子力発電などCO2を排出しない発電も手がけ、化石燃料使用量を減らす用意があるとして、環境への配慮もアピールしています。テキサス州は既にカリフォルニア州を抜いて全米で一番の風力発電量だそうです。

価格が安く、産出国のカントリーリスクが少なく、埋蔵量の豊富な石炭の利用を進めていくことは、確かに重要なことです。

巨大油田の発見は続く

2006-11-09 | 石油
ロンドンにあるCGES(Centre for Global Energy Studies)という機関が巨大油田の発見に関して調査レポートをまとめました。ひとことで言うと巨大油田の発見は近年も続いているというものです。

間違いなく限りある化石資源の代表である石油は5から10年の近い将来に生産量が頭打ちとなり、供給が需要に追いつかなくなるというピークオイル論者の根拠の一つに、近年ではかつてのような巨大油田の発見が少なく、今後の生産量の延びが期待できないというものがあります。

このCGESレポートはそれを否定するものです。これまでの巨大油田発見の数の推移は、1950年代に17、1960年代に29、1970年代に24、1980年代に15、1990年代に11となっています。確かに数でみると次第に減少しているのは事実です。

しかし近年発見された四つの油田はスーパー巨大油田とも呼ぶべきもので、埋蔵量ベースでは新規油田発見のペースは衰えていないといいます。四つの油田とは、メキシコのクマルーブサープ、カザフスタンのカスハガンで二つ、イランのヤダバランです。それぞれのピーク生産量の推定値は80万BD、120万BDならびに30万BDとなっています。

1990年代に発見された巨大油田のピーク生産量の総計は351万BDですが、近年発見され2020年までに生産開始が期待できる大油田のピーク生産量の総計は464万BDで、1990年代に比べて増えています。この数値をもってCGESレポートはピークオイル論者の、《近年大油田の発見が少なくなっている》という主張は正しくないと反論しています。

しかし将来の原油生産量の予測には不確実な要因が含まれていることも考慮してお金ければなりません。1999年に発見されたイランのアザガデン油田はピーク生産量40万BDを期待される大油田です。しかし日本の国際石油開発がその権益を当初契約していたものから大幅に減らしたことからも分かるように、カントリーリスクの大きい国での開発が順調に進むとは考えられません。
この様な不確実な要因を織り込みながら予想を立てることには常に困難が付きまといます。

EUの温暖化ガス削減の現状

2006-11-08 | 環境
EU15カ国の削減目標は基準年に対して8%です。ところが最新の2004年統計によれば0.9%しか削減が進んでいないそうです。1990年から2004年にかけて経済は32%増大しているそうですから、経済成長に比較すれば温暖化ガスは増えていないといえるのですが、目標値には遠く及びません。このまま行くと2010年の中間年では-0.6%にとどまると予測されています。

EU-15全体で-8%ですが、各国の目標はまちまちでドイツ-21%、イギリス-12.5%という国もあればフランスゼロ、スペインは逆にプラス15%です。これには各国の一次エネルギー源構成比やCO2排出量の過多が異なるためです。

メンバー国は計画されているがまだ実行に移されていない政策や方法に直ぐにでも取り掛かる必要があります。これにより-4.6%まで削減を進めることができるそうです。

その上で-8%を達成するため、京都メカニズムで-2.6%、森林CO2吸収で-0.8%を見込んでいます。排出権取引での購入額は10カ国合計で2.83 billionユーロに上ります。

2004年以降にEUに加盟した10カ国(EU-10)は実に-22.6%を2010年に達成する見込みです。これはCO2排出削減の努力もさることながら、政情不安などにより経済活動が停滞したことが理由ではないでしょうか。このEU-10は京都議定書には含まれていませんが、EU-15+EU-10の25カ国全体では-10.8%を達成できるとしています。

但し計画している政策を直ちに実行に移すこと、その実行により確実に成果が上がることが必要なわけで、楽観視はできないはずです。

ロシアの石油・天然ガス資源

2006-11-01 | ガス
最近サハリンI、サハリンIIに関わるニュースがいくつかありました。ロシアの石油、天然ガスに関する事項を忘備のため、まとめておきます。

ロシアの原油生産量はサウジについで世界第二位でシェアは12%である。1995年には6割まで生産が落ち込んだが、2000年以降年率8.5%の増加を見せ足元は1987年のピーク時に戻っている。

西シベリアが中心地域で、石油生産量、埋蔵量ともに約7割を占める。また超大型ガス田もこの地域にある。サハリンの開発は日本では関心が高いが、ロシア全体から見ると優先順位は低い。

ロシアの天然ガス埋蔵量は世界一で27%、イランが15%、カタールが14%と続く。天然ガスは石油以上に一握りの国に偏在している。世界の石油と天然ガスの消費量は3:2(重量比)であり、天然ガスも重要なエネルギー源である。

ガス会社ガスプロムはサウジ、アラムコやベネズエラのペドベサを押さえて世界第一の石油、天然ガス埋蔵量を有している。

ロシア原油の55%は直接輸出に、製品を合わせると石油の7割が輸出されている。またガスプロムのガスの25%は欧州市場に輸出され、これが売上げでは7割を占める。つまりロシア国内ガス価格は低く保たれている。これは冬の厳しいロシアでは暖房の主燃料である天然ガスの価格は極めて公共性が高いからである。

ガスプロムはロシア税収の4分の1を占める。ロシア政府がガスプロムへ一定の発言権を維持することは国家安全上極めて重要で、2006年に30%から51%まで株式保有を増やした。それはロスネフチ(石油会社、非上場で100%政府保有)との株式交換による。

ロスネフチはユコス事件で確認埋蔵量を11億バレルから150億バレルに増やした。今後はIPOが予定されている。

こうしてみるとロシアの石油、天然ガス資源は大量の埋蔵量であり、またロシア政府が直接関与していることが分かる。