化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

中国の石油会社の行方

2005-11-11 | 石油
中国では2010年に向けて再生可能エネルギーの割合を15%まで引き上げると報じられています。中国のエネルギー事情として、石油会社の状況を再度まとめておきます。

中国の国営石油3社のデータは以下のようです。
        順に埋蔵量、生産量、売上高、当期利益です。
エクソンモービル 220億bbl 422万BD 35.1兆円 2.9兆円
中国石油天然ガス 183億bbl 252万BD 5.44兆円 1.4兆円
中国石油化工   38億bbl 84万BD  8.26兆円 0.45兆円
中国海洋石油   22億bbl 38万BD  0.77兆円 0.23兆円
国際石油開発   15億bbl 33万BD  0.48兆円 0.08兆円

比較のために日本の国際石油開発のデータも入れています。先日、国際石油開発と帝国石油は生き残りのため、合併するという報道がなされました。このデータをみると確かに今のままでは、国際競争に生き残っていけないことがわかります。国際石油開発は中国海洋石油(CNOOC)とは同じ程度の規模ですが、CNOOCは中国国内にも多くの資源を抱えていることを考えると当期利益の開きが大きいことが理解できます。

中国石油化工(SINOPEC)は中国石油天然ガス(CNPC)よりも売り上げが大きいですが、利益は少なくなっています。これは両社の事業内容によりますが、それは両社の歴史に関係しています。
1980年代には中国は石油輸出国で、日本も勝利原油や大慶原油を輸入していました。中国の原油は硫黄分が少ない代わりに窒素分が高く、重質という特徴を持っています。重質ゆえ価格は安い、しかし低硫黄なので脱硫装置の負荷は少ないということで、日本の石油会社にとっては比較的経済性の高い原油でした。しかし今中国では4割を輸入に頼るようになっています。この間の国内石油需要増加に対応するため98年に国内石油会社の再編を行っています。

再編以前は資源開発・生産には陸上部を担当する中国石油開発公司(CNODC)、中国石油(CNPC)と海洋開発のCNOOCがあり、石油精製はSINOPECが一手に行っていました。生産と精製を分離していたのですが、98年の再編ではこれらを垂直統合し、北西部11省と重慶地区をCNPCが担当し、残りをSINOPECが担当しています。CNOOCは引き続き海洋石油開発を行っています。
SINOPECはもともと精製会社ですから、埋蔵量は少ないですが精製能力が大きくなっています。それで石油製品(ガソリンや軽油)の売り上げが大きくなり売上高も大きくなっています。これに対してCNPCは埋蔵量が多く精製能力が小さいですから原油での販売もあり、売上高は少なくなっています。しかし、石油精製よりも原油生産の方が利益率は大きいですから、CNPCのほうが利益が大きくなっているわけです。

最近の中国の石油会社に関係する話題を挙げれば
・ユノカルの買収失敗
・アフリカスーダンの開発に進出
・シンクルードの中央アジア開発部門を買収
などがあります。

旺盛な国内需要に支えられてと言うべきか、人民からの必要に迫られてというべきかわかりませんが、ひたすら資源を求めて中国の石油会社は世界に出て行くようです。

石油ピーク説と新技術による埋蔵量拡大

2005-11-10 | 石油
WTIが$70/bblをヒットしてから、にわかに石油ピーク説が台頭してきたように思います。朝日新聞にも「原油高」というコラムありました。記事の内容も含めて、まとめておきます。

現在の世界の原油需要は8,000万BDであり、このうちOPECからの供給量は2,800万BDとなっています。オイルショック以降、その影響力を低下させていたOPECは需要増加を背景としたこの原油高でその支配力を回復してきたとも言われていますが、増産余力がすでにあまりない、との観測もあり必ずしも影響力復活とはいえないようです。
しかしながら、BP統計によれば世界の確認埋蔵量1兆2000億bblのうち、75%が中東地区にあることを考えれば、まったく影響力がなくなるということは考えにくいものです。

付け加えてこの手の話になるとBPという一民間会社の統計や発表に頼らざるを得ないところにも、危うさがあると考えるべきである。

元Shellのキャンベル氏は2010年にも原油の生産量は頭打ちとなり、その間にも需要は伸び続けるだろうから、可採年数が減少していくことになると主張している。米国や北海ではすでにピーク時の1-3割生産量が減少していること、サウジのガワール油田(世界最大級の油田)でも自噴しなくなり、水圧法に切り替わっていることなどを、背景にこう主張している。

果たしてそうだろうか。一方、技術の進歩により原油生産量が増加したり、新たな油田の発見が今後も続くとの見解もある。油田開発には大規模な投資が必要だが、90年代の原油価格低迷期にそのような投資が行われなかったため、近年の油田発見量(確認埋蔵量の増加)が少ないだけの話である、との主張がある。事実出光興産や大阪ガスの北海油田の鉱区ではこの15年間で可採埋蔵量が1.5倍になっているとのこと。
サウジ石油相も今後開発投資をすればサウジの確認埋蔵量は1.7倍になると野見解をあらわしている。

今後の技術の進歩によるのだから、数値として確約できない部分もあろうが、地球上に存在する油田はすでに発見され尽くしており、後はそれを食いつぶすのみという考え方はおかしいでしょう。

確かに自噴しなくなった井戸もあろうが、別の採掘方法をとれば今まで以上に原油を生産することも可能である。現状は埋蔵量の3割程度を掘ったらそれでその井戸出の生産を終了しているという話である。残りの7割を取り出すにはお金がかかるのでそれ以上は掘らないということであろう。ということは、技術の進歩により採算が取れるようになれば残りの7割を採掘できることになる。

結局のところ、石油ピークがいつか来るのは間違いないが、それが2010年という確証はどこにもなく、もっと大分先と考えるのが妥当と思う。

水素を何から作るか!

2005-11-09 | 水素
燃料電池は電気と熱を発生するいわゆるコジェネであり、家庭やマンション、病院などで利用できる分散電源です。大型発電所でももちろん大量の熱が発生していますが、この熱を電気のように各家庭まで配ることができないので、仕方なく温水プールなどで細々と利用し、残りは海水に捨てています。

分散電源なので街中や建物の中に発電装置があり、そのため電気の他に熱も直接利用できます。結果としてエネルギー利用率を高めることができ、使用燃料を削減できるのでCO2排出量抑制に寄与します。つまり、燃料電池は効率の高いコジェネ装置です。

現在実用化あるいは実証に供されている燃料電池の燃料は都市ガスあるいはLPGです。化石燃料ですが、先に書いたとおりエネルギー利用効率が高いので、CO2排出量を削減できます。

これに対してCO2を発生しないで燃料電池の直接の燃料である水素を作る方法が検討されています。ひとつは太陽光で自ら水素を作る方法です。太陽電池-水電解もそのひとつの方法ですが、このほど東京理科大が開発した方法は、これを触媒を用いてひとつの反応場で行おうというものです。

大川助教授らが開発した方法は、青色発光ダイオードに使われる窒化ガリウムの光触媒機能を利用するもので、水槽にこのチッ化ガリウムと白金を電極にして入れ、光を当てて直接水素を発生させるものです。光から水素へのエネルギー変換効率は0.5%と実用化光触媒であるTiO2の2%よりは低いものの、有効な光の波長の幅をコントロールすることで3年以内に変換効率20%を目指すといいます。

なお、研究総括責任者にはあの中村修二教授です。20%の効率とはとてつもない目標と思うが、将来的に期待できる技術分野ではあると思います。

もうひとつはもっと実用的というか身近なお話です。
京都市では家庭生ごみをメタン醗酵-水蒸気改質して水素を作るプラントを稼動させます。このプラントからはCO2は発生するものの、バイオマス起源なのでカーボンニュートラルです。バイオマス-メタン醗酵-水蒸気改質は新しい技術ではありませんが、京都市の特徴はグリセリンも醗酵の原料にしているところです。

突然、グリセリンがどこから出てくるのか。京都市ではすでに家庭からの廃食用油からBDFを作るプラントを稼動させています。このプラントから副生物としてBDFの10分の一程度の量のグリセリンが出ます。このグリセリンは下手をすると廃棄物処理にまわさないといけないことになるので、京都市はこのグリセリンも醗酵原料とすることで、廃棄物処理とバイオガス製造の一石二鳥を狙っているわけです。環境省の補助事業でH17年度は1.5億円の予算だそうです。

こちらについてもCO2を実質増加させずに水素を作る方法として期待はできますが、エネルギー効率が果たして見合うかです。何も無理やり水素を作らなくても、バイオガスはそのまま燃料にした方が良いかもしれません。まして、液体燃料としても使えるであろうグリセリンをわざわざ扱い難いガス体にするからには、エネルギー効率の高いことが要求されるものと思います。

エネルギー効率の観点からより良い方法を選択しなければいけません。

石炭の価格

2005-11-08 | 石炭
世界経済の足かせになるかもしれないとFRBのG議長も言っている原油高だが、ここにきてピークの$70/bblから$59.47/bblへと下がってきている。

ハリケーンの影響や依然として強い中国等の需要を背景にあがってゆくと思ったら、足元は米国の温暖な気候見通しが伝わり、暖房用燃料の需要が経るとの見通しとハリケーンの影響で操業停止していたGulf coastの石油関連施設が操業再開が進んだためらしい。3ヶ月ぶりの安値である。

そもそもハリケーンの影響は限定的とも言われていたし、考えてみればハリケーン前の状況に戻っただけなので、原油高の基調は変わらないというところ。しかし安値といっても2004年初めの頃を思えば、十分に高い。

中国エネルギー局は2006年から2010年の間で石炭の国内生産量を3億トン増加させる計画である。いまどきもっともCO2排出係数の大きい石炭を使うのかい、との声もありそうだが、エネルギー需要旺盛な中国にあってはそんなこと言ってはいられない。

2002年の統計で見ると世界の石炭(褐炭を含む)生産量は47億トンで、中国13.2億トン、アメリカ9.2億トン、インド3.6億トン、豪州3.4億トンとなっている。石油と違って埋蔵地域が分散していることがわかるのだが、それでも中国とアメリカで50%以上になっている。偏在とは言わないまでも均等に分布しているわけでもない。日本では太平洋炭鉱で少し採炭しているに過ぎない。中国はこれにさらに3億トンの上乗せを計画している。

70年代のオイルショックの時、脱石油資源が叫ばれ石炭の液化技術開発が国内外で盛んに行われた。しかし、その後の長期原油価格低迷を背景に技術開発は完成し、終了したことになっている。今現在、国内で石炭液化の研究など誰もやっていない。要するに技術はできた、後は経済性の問題だが、原油が$45/bblを超えたら経済的にも成り立つといわれていた。

とすれば今の原油価格ならば石炭液化プラントは十分成り立つのだろうか。
原油価格上昇->石炭・石油価格差拡大->液化プラント なので石炭価格を見てみた。

例えば豪州炭(FOB)は2004年1月には$28/トンであったが12月には$45/トンまで上昇している。この間の原油(WTI)はおよそ$30/bblから$50/bblへの上昇であった。石炭1トンを液化して1bblの液体になるわけではないが、石炭と原油の値差は2ドルから5ドルに開いただけである。原油が$45/bblということは値差が17ドルということだから、このように石油価格につられて石炭価格が上がってしまっている今の状況では液化プラントは成立しそうにない。

加えて、液化のために余計なエネルギー(CO2も排出する)を必要とすることなどから、石炭の液化というものが成立する状況はなかなか難しそうである。

2004年度温暖化ガスの速報値

2005-11-01 | 環境
環境省より温室効果ガス排出量速報値が出ていますので、少し眺めてみました。

速報値の但書きには、各種統計の年報値に基づいて算定されるが、現段階で2004年度の年報値が公表されていないものがあり、その場合は月報値を積算するかあるいは2003年度値を代用しているとある。したがって、数値そのものが確定されていないので、速報値というそうである。また、確報値は2006年4月頃に報告される予定とのこと。

ここまではなるほどとうなずけるのだが、さらに続けてまた基準年の排出量の確定に向けて、現在排出量の算定方法の精査を行っており、来年報告される排出量の確報地にはその結果も反映されることに留意が必要である、と書いてある。

基準年って、1990年のことのはずです。フロン等でも1995年のはずです。今から15年前の値をいまだに計算しているというのはいったいどういうことでしょうか。基準が決まらなければ、削減量も決まらないでしょうに。およそはわかっているが、細かい数値の再計算をしているという意味なのでしょうか。それにしても、今頃なんだよ、という感じです。こんな状況で温室ガス排出抑制のため、環境税を導入します、なんて言われてもね、と思うのは小生だけでしょうか。

さて、速報値の中身ですが、温室効果ガス全体では2003年度から0.8%減って、13億2900万トンになっています。基準年(確報値ではないそうですが)に比べて7.4%の増加です。また、目標値12億3100万トンまでにはあと9800万トン削減の必要があります。
温室効果ガスの中で最も量の多いエネルギー起源CO2については、2004年度速報値は11億8100万トンで2003年に比べて0.6%減っています。感覚的にはほとんど変わっていないというところでしょう。基準年からは12.6%増加しており、削減目標値は10億5600万トンですから、さらに1億2500万トンの削減が必要です。

ここで発表資料の中では、東電の原発長期停止の影響にも触れています。東電の計画では原発予定稼働率は84.1%ですが、実績は68.9%であり、そのため火力を稼動させていることからCO2排出は3500万トン余計に多くなっている。つまり、原発が予定通りならば、2.8%は減っていたという。ちなみに2003年度は原発利用率59.7%とさらに低く、それによりCO2は4.9%多く排出されていたそうである。
だから、原発が計画通り動けば目標値までの削減率は約10%となります。

原発利用率が計画に対してずいぶん低いように思います。原発は2008年から2012年にかけて予定通り稼動するでしょうか。もし動かなかったら、CO2削減量を守ることは難しくなります。
逆に言えば、原発が予定通り動けるように多少の整備不良があっても、見てみぬ振りをすることが必要になるのでしょうか。
ともあれ、原発頼みというのは心もとないですね。

原発の稼働率が多少落ちても、それを補えるくらいにほかの方法でCO2削減を達成しなければいけないでしょう。