化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

地球温暖化の現状

2007-01-31 | 環境
世界100カ国以上の国から科学者たちがパリに集まって、気候変動会議を行なっています。金曜日には最終報告書がまとめられ、3部構成のうちの第一部が発表されます。

科学者たちは1950年以降の温暖化の主な原因は、人間の活動であるということを90%の確率で確認したといいます。くどい言い回しで、残りの10%の原因は何ですかと聞きたくなります。要はほとんど人間のせいですよ、ということです。

既にいくつかのドラフト案がマスコミに流れています。

今世紀末には北極の氷は夏の間は全くなくなる。

夏の地中海沿岸にはほとんど住めなくなり、逆にアルプスが冬のスキーの行楽地から夏場の避暑地になる。

温帯地域での夏の期間が長くなり、降雨量の少ないアフリカや南アジアでは干ばつ被害が多く発生する。

しかし、どれくらい海岸線が後退し、どれくらい海面が上昇するのかを推定するのは困難なようです。何しろ海面の上昇は昨日今日始まったわけではなく、1000年以上前からだそうです。産業革命以前から海面上昇は始まっているのですから、それは明らかに人間のせいとはならないでしょう。地球の自然として海面上昇という現象があり、これに産業革命以降の人間の活動が上乗せになっているということです。

産業革命以前の原因による気温の上昇は2から4℃であるという主張もあります。この原因は火山活動が大きなものでしょう。だからといって気温上昇はしょうがないとあきらめるわけにも行かず、さりとて火山活動を人工的に抑制するなんて出来ません。せめて人間が上乗せしている部分だけでも減らそうということです。

温暖な地域では砂漠化が進む、干ばつが起こるなど被害ばかりですが、地球温暖化のプラス効果は無いのでしょうか。

寒冷地に住む人にとっては、
暖かい冬は燃料代が少なくて済む、ということは灯油などの燃料消費が少なくなるのでCO2排出量は減る、

除雪費が少なくて済み赤字の自治体にとっては助かる、

夏季の気温が上がるので農作物の収穫量が増えて、増えた分でアルコールなどバイオ燃料を製造できるので、ますますCO2排出抑制につながる、などです。こう見る限り困ったことにはならないようです。

iPod指数

2007-01-29 | 社会
あるブログでiPod指数が紹介されていました。面白そうなので、これを発表したオーストラリアの証券会社のHPを当ってみました。

そもそも20年前に英国の経済紙がビッグマック指数を発表しました。ビッグマックは世界中どこでも同じやり方で作られているので、その価値は同じはずです。確かにアメリカでも日本でも、イギリスでもはたまたモスクワでもビッグマックは同じ中身で同じような味でした。

だからビッグマックの価値は世界どこでも同じはずです。但し、物の価値は他のものとの比較で決まることもある。おいしいものが多い国ではマックの値段は安く、おいしいものの少ない国では高い、とも言える、かも知れませんがそこはちょっと目をつぶってもいいでしょう。

ここで現実の為替レートで各国のビッグマックの値段をUSドル表示する。為替レートがあるべき姿ならばみんな同じ値段になるはずが、高い国と安い国が出てくる。ということで本来あるべき姿の方向に為替が変わっていくと予測可能になる。最も最初にビッグマック指数は半分遊びだよーと断っていますが、経済学を簡単に理解するには良い例だと思います。

ビッグマックに対抗してiマックでやりたかったのですが、iマックは世界中で良く売れているとは言いがたいのでiPodにした、とは勝手な想像です。iPodは中国で生産され世界中に普及していますが、アップル社の発表では先に10月―12月の四半期で21ミリオン台が売れたそうです。クリスマスという最も商品の売れる時期ではありますが、それにしてもすごい。確かに我が家にも1台あります。

アップル社が公表している各国での価格、大型小売店の販売価格などを元に27カ国のiPodの価格をUSドルに換算して一覧表にしています。

最も高いのはブラジルの328ドル、反対に安いのはカナダで144ドル、本家のUSは149ドルで日本はUSとほぼ同じの148ドルです。自国で作っているにもかかわらず中国は180ドルと高く、これが香港になると148ドルと日本やUSと同じ値段です。

オーストラリアは172ドルでUSよりも15パーセント高く表示されます。あるべき姿はもっと安いのですから、オーストラリアドルは高く見なされている、つまりこれからもっと安くなっていく(対USドル、対円)はずと考えられます。そうすると1AUドル=95円は1AUドル=90円とかになるはず、と将来の予想が出来ます。これが当るか当らないかは分かりませんよー、半分遊びですからということです。

ちなみにビックマック指数を見るとUSで3.10ドル、日本は2.06ドル、オーストラリアは2.57ドルとなっていて、iPod指数とは逆になっています。日本の場合、デフレ時期に100円マックが始まり極端に値段を下げたからですが、それでもマクドナルドは倒産しないのですからたいしたもんだ、というのは話が飛んでいますね。

ハンバーガーと電子プレーヤーは全く別の商品で、その商品としての特性が違うのだからビッグマック指数とiPod指数は一致しなくて当たり前。だからいろんな商品を組み合わせた購買力平価で比較しなければ、という指摘もあるでしょうが、しちめんどくさい統計を取るよりも簡単に計算できるビッグマック指数やiPod指数の方が優れているし、なんと行っても遊び心があってよいと思うのですが。

中にはBMW車指数というのも提案されているそうですが、BMWなんて一部の人しか買えないだろうに、と突っ込みたくなります。

ビッグマック指数と並んでiPod指数も面白い指標になると思うのですが、今後もiPodが世界的に売れ続けてくれるかどうかです。アップル社がこれまで出してきた製品の寿命を考えるとiPodがビッグマックのように十年以上に渡り世界中で普及し続けるかどうかです。iMacやPowerBookの製品寿命は短かったな、と思い出します。この点が一番心配です。

US一般教書演説

2007-01-25 | エネルギー
US大統領の一般教書演説の中でエネルギーに関する部分をまとめてみます。

(1) 20イン10
2017年までの10年間でガソリンの消費量を20%削減する、名付けて20 in 10 goalだそうです。
(A) その方策として再生可能エネルギーや代替燃料で35ビリオンガロンを作る。これは2017年の消費予想量の15%に相当する。
(B) 自動車の燃費改善で8.5ビリオンガロンを削減する。これは5%に相当する。

AとBをあわせて20%削減を達成ということのようです。8.5ビリオンガロンが5%相当ですから、2017年の全米でのガソリン消費予想値は170ビリオンガロンになります。現状が130ビリオンガロン(500ミリオンkL)なので、今後10年で30%消費が増加すると見込んでいます。

Aの代替燃料としては現在2012年を目標年に7.5ビリオンガロンという計画がありますが、それを後5年延長して5倍にするというもので、ここに最も力点が置かれています。愚弟的にはコールエタノール、セルロースエタノール、バイオディーゼル、メタノール、ブタノール、水素などが上げられています。水素は一番最後です。
170ビリオンガロンの15%は25.5ビリオンガロンで、35ビリオンガロンという数値と会いませんが、これは代替燃料の体積あたりの発熱量がガソリンよりも小さいので、容量的には多く作る必要があるわけです。

(2) 交通渋滞緩和
いわゆるアイドリングロスをなくすという方策です。全米の渋滞地域85箇所の合計で2.3ビリオンガロンのガソリンが浪費されていると試算されています。これを削減しようというもので、CO2排出量に換算すると20ミリオントン/年になります。

1と2の合計で石油消費量を2017年で10%削減するという大きな目標になります。全米の石油消費量はおよそ20ミリオンBDですから、これは2ミリオンBDに相当します。

さらにエネルギーセキュリティー強化として次のようさ策を上げています。

(3) 国産原油の生産拡大
環境への影響を充分に配慮しながら、国産原油の増産を目指す。これについては数値的目標があげられていませんが、アラスカの原油や天然ガスパイプラインという言葉が出ています。

(4) 原油の国家備蓄を倍増
現在691ミリオンバレルある国家備蓄を1.5ビリオンバレルに倍増させる。これは輸入原油の97日分に相当するそうです。ということは15ミリオンBDが輸入原油ということになります。全米での石油消費量はざっと20ミリオンBDですから、輸入依存度は75%です。

ちなみに日本の備蓄は90ミリオンkLですから570ミリオンバレルです。日本の石油消費量な全米の4分の1ですが、これは民間用79日分、国家備蓄91日分となっていて合計で170日分に相当します。国家備蓄は封印方式と呼ばれ、備蓄タンクに一旦入れたらそのまま保有する当方法です。これに対して民間備蓄は生産・流通過程で保有しているものです。つまりは製油所、輸送所での保有分で毎日置き換わっているといえます。国家備蓄はすべて原油ですが、民間備蓄は原油45%で石油製品55%の割合です。

(5)USはエネルギー技術で世界をリードしてきたが、今後も技術開発には注力うするとしています。キーワードしてプラグインハイブリッド(US国内でやってますが、日本のメーカーです)、クリーンディーゼル車、クリーンコールテクノロジー、太陽・風力利用、クリーンで安全な原子力発電があげられています。

ベネズエラよ、お前もか

2007-01-22 | 石油
ベネズエラのチャベス大統領が石油資源を武器にUSに激しく対抗しています。また、先日は中央銀行の自主性を終わらせるなどと発言したもので、ベネズエラ株式市場は銀行株を中心に大暴落し、あわてて別の閣僚が否定的な発言をするなど、いろいろとお騒がせです。

ベネズエラからUSへの原油、石油製品輸出は1.5ミリオンBDもあります。これはUS輸入量の11%に相当しますから、USにとっては重要な原油供給元です。ベネズエラの原油生産量は2.6ミリオンBDですから6割近くがUSに輸出されています。さらにペドベサ(ベネズエラ国営石油)は子会社のCitgoを通じてUS国内に5箇所の直営製油所と共同運営の製油所を4箇所持っています。USとベネズエラの繋がりはかなり強固といえます。

一方、エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップスなどの企業は総計で60万BDに上るオリノコタールの開発を行なっています。これらは1990年代に始まったもので、外国企業を誘致して石油資源開発を先行させて、国家経済を発達させてきたわけです。

ここにきてチャベスはオリノコベルトの超重質油開発を国有化すると宣言しています。さらにUSへ輸出している石油を中国やインドなどの石油を浴している国に振替えようとしています。2004年に1万BDあまりであった中国への輸出は、2006年には15万BDまで増大しています。今後5年間で50万BDまで増加させる計画です。

一方、インドへの輸出も計画されており、手始めに2006年4月には2ミリオンバレル/月の契約を結んでいます。さらに、イランと協同でインドネシア、シリアやベネズエラに製油所を建設する案も検討しているようです。とにかく反USとなる施策を次々と遂行しています。

これに対して国際石油会社、メジャーは今のところコメントせず事の成り行きを見守っています。最も石油アナリストからは、ベネズエラとUSは石油取引量も大きく製油所を運営しているなど関係が深く、中国やインドに振替えるといっても一朝一夕には実現しないとの意見もあります。

ロシアといい、ベネズエラといい、資源国が国家として資本主義市場に参入してきたことで、これまでの市場のルールや経験が適用できなるケースがこれからも起こるものと予想できます。

サハリン2の教訓

2007-01-18 | ガス
サハリン2プロジェクトについては、シェル・物産・商事がガスプロムに51%の株式を$7.45ビリオンで売却することで決着がつきました。決着というのはこの株式譲渡を見とどけて、プーチンはサハリン2プロジェクトの犯していた環境に関わる違反行為が解決されたと、ぬけぬけと表明し、同プロジェクトの継続が確認されました。環境問題が株式譲渡で解決するという見え見えの茶番劇の結果です。

結局シェルは$6ビリオンをかけたプロジェクトの主導権をガスプロムに奪われたわけです。この事実からいくつかの教訓が得られました。

ロシアの規制当局など全く当てにならないということです。政府の意向に従って白でも黒でも都合の良い判断を下すわけです。結局ロシアで資源開発を行なおうとすれば、ガスプロムやロスネフチの意に沿うように(つまりプーチンの意に沿うように)やらなければいけないことになります。環境問題についてはNGOの告発に端を発するということが良くあります。今後は政府がこの様なNGOの活動をうまく利用する、あるいはけし掛けるという風潮が世界中で生まれるのではないでしょうか。

さらに国際石油会社、メジャーはもはやロシアの化石資源を当てにできないと思われます。折角資金を投入して資源開発を実施しても、最後には環境問題やら税金問題やらで政府からいちゃもんを付けられて権利を横取りされます。契約書など何の力にもなりません。

現在、ロシアの技術では開発できないような悪条件の資源を高度な技術を駆使して開発している企業も、これからはいつか言いがかりを付けられると認識しておく必要があります。

さらに困ったことにはこうした手法を南米やアフリカの資源国が真似するようになることです。資源国の悪口を言うつもりは毛頭ありませんが、今後ますます資源を持つ国と持たない国の交渉は難しいものになっていくのでしょう。

一方マーケットもこの様な一部の資源国の行動に影響を受けるのは必須です。今後短期間を想定すると、LNGの供給は計画されているほどは増加しないと見る向きもあります。それはシェルの代わりにロシアの石油会社の無能な経営者がサハリン2のオペレーションをするわけですから、シェルが計画したとおりの生産量は達成できないということです。

この先ロシアとはどう付き合っていけばいいのでしょうか。かすかな希望ですが、2008年の選挙でプーチンに変わる次期大統領がまともな運営をしてくれることに期待することのようです。

EUの挑戦

2007-01-17 | エネルギー
ロシアの積極的というか強硬的な資源外交に対応するため、EUは各国政府の国営企業への支配力を弱め、市場化することを提案しています。これによりインフラ整備や技術開発における競争と投資を促し、ロシアなどの強力な資源輸出国に対抗するとともに、温暖化問題にも対応しようというものです。提案は多くの項目を含んでいますが、そのいくつかを以下にあげます。

自動車での再生可能エネルギー使用の促進
ビルや住宅におけるエネルギー効率の改善
2020年におけるCO2排出量を1990年比で30%カット
CO2隔離と貯留を2020年以降の新設石炭火力に適用
CO2を排出しない原発の発電シェアを一番にする

これらの提案の中には最もだと賛成できるものもありますが、各国の国情に照らし合わせると無理と思われるものもあります。

CO2を30%カットする、については鉄鋼業界が労使揃って反対しています。せめて20%にしようと言っています。CO2削減により明らかに会社の利益は損なわれ、ひいては雇用の喪失につながると恐れているからです。CO2排出削減という制約の中で生産活動をしていくEU企業が、アメリカを初めとするCO2排出削減の足かせのない他国の企業と競争すれば、世界市場でのシェアを失いかねないと危惧しているからです。

フランスのように原発に80%依存している国もあれば、ポーランドのように石炭火力に大きく依存している国もあります。この様な国情を全く考慮せずに、EU統一の政策を作ることはそもそも無理があるというものです。
しかしその無理をあえてやろうというのが欧州人気質なのでしょうか。

これらの提案の中で注目したいのは、CO2隔離と貯留という方法が10年以上先ではあるものの実用技術として議論されている点です。再生可能自動車用燃料とは、言い換えればバイオ燃料です。このEUの挑戦とも言える提案から、CO2隔離・貯留とバイオ燃料という技術が2007年のトッププライオリティーになるのではと予想します。

原油価格の下落

2007-01-15 | 石油
原油価格の下落が止まらない。この一ヶ月間で既に$10/バレル下がって52ドルを下回っています。1998年に$10.35と低価格にあえいでいた原油は、その後ほぼ一本調子で上昇し2006年8月には$78になりました。しかし、そこから下落に転じ10月11月の一時期$60付近で落ち着き、12月に一旦$65になったもののここひと月で再度急落しています。

かつて$70を越えていた時期にはピークオイルが声高に叫ばれ、このまま$100まで上昇するという意見も飛び出しました。しかしマーケットは皮肉にもその時期をピークに下落し始めています。

昨年夏以降の大幅下落の一番の要因は、それまで大量に原油を買っていたヘッジファンドが一転して売りに回ったからと見られています。さらに、この冬、北米地域は暖冬との予想が出、ヒーティングオイルの在庫が積みあがっているという事実が伝わると下落に拍車がかかりました。

最も北米地域でのヒーティングオイルの消費量は全世界の石油消費量に比べれば小さなもので、それがここもとの石油価格下落の主要因になるわけではありません。いわゆる「マーケットがそれを口実にした」というやつでしょう。

原油価格、一般にはNYMEXのWTI(翌月渡し)価格ですが、これが1ドル下がると全米のガソリン小売価格は2.5セント下がるといわれています。2005年のハリケーン・カトリーナ後にガロン3ドルだったガソリン価格は、先週2.28ドルまで下がっています。原油価格が26ドル下がってガソリン価格が72セント下がっていますから、およそ原油1ドルはガソリン2.5セントに相当します。

今後はどうなるのでしょうか。ヘッジファンドが石油市場から撤退し別の市場にその活躍の場を完全に移すとは今だ考えられません。従って彼らの思惑が注目されるところです。NYMEXデータによれば大規模なヘッジファンドやコモディティーファンドは、買いの3倍を売りにポジションしています。逆に一般の会社(メーカーなど)は売りの2倍の買いポジションを持っているといいます。

つまり、ヘッジファンドは現在の価格よりもさらに下がる方向に賭けている、というか自分たちの力で下げようとしているわけです。逆に石油を使う側は今の価格で買っておきたい、また上がるのは勘弁というところでしょうか。

どっちに転がるかは分かりませんが、今後も石油価格が実需給だけではなく、ファンドの流入によってボラティリティーが上がった状態、つまり価格の上下変動が大きくなった状態が続くのは確かなようです。

ロシアからの天然ガス

2007-01-12 | ガス
年末からロシアとベラルーシ間で天然ガス価格交渉をめぐり、駆け引きが続いています。ロシア側が天然ガスの値上げに成功して一件落着と思われましたが、今度はベラルーシ側が同国内を通過するロシア産原油のパイプライン送油をストップ(ポーランドやドイツ向け)するという対抗手段に出て対立は深まるばかりです。この対立はこれからどうなるのか予想はできません。

そういえば2005年から2006年にかけては、ロシアとウクライナ間の値上げ交渉の段階で天然ガスパイプライン供給ストップという出来事がありました。ロシアが化石資源を武器に国際貿易での地位向上を目指していることは確かですが、ウクライナやベラルーシに対してロシアが一方的に悪い、ということではなさそうです。

そもそもロシアからCIS諸国への天然ガス価格は国際価格に比べて格段に安かった。それは同じ寒冷地民族として暖房用燃料が死活問題であるということに配慮していた、といえるかもしれません。あるいは格安の天然ガスを供給することで、同盟関係を維持していたと見ることもできるでしょう。値上げ後でもまだ充分に安い価格といえます。

ロシアが2006年にウクライナに対して決着した価格は1,000m3当り$50を$96にするというものでした。確かに2倍近い値上げですが、それではこの価格水準は国際価格から見てどうなのでしょうか。ここで、ガス価格の交渉は形式的にはガスプロム社とナフトハス・ウクライナ社のガス会社同士の交渉ですが、いずれも国営企業ですから国家間の交渉と見なされています。

欧米でのガス価格はMMBtu当りで表されます。ブルーンバーグなどで$6.69と表示されているのがそれです。MMBtuは百万英国熱量単位という意味でこれは業界用語です。私たちが日常購入する都市ガスは例えば、200円/m3という価格です。先に決着した$96/1000m3を1ドル120円で換算すると11.5円/m3となり、かなり安いという事が分かります。

1MMBtu=1Mcf=26.3m3とおよそ換算できますから、$96/1000m3は$2.72/MMBtuとなり、国際価格と比べれば値上げ後も半値以下ということが分かります。ということは、ロシアの値上げ要求があながち無理難題でもないと思われます。

さらにこの価格はパイプライン輸送料とバーター決済のための指標です。ウクライナを通るパイプラインはそのままEU諸国まで通じていて、ウクライナは通行料をもらうことができるわけです。つまり、実際のガス購入価格はパイプライン輸送料を引いた分だけさらに安いということになります。

価格交渉の過程でガスプロムはウクライナ向けガス供給をストップしました。真冬に暖房用ガスを止めるとはなんとムゴイ、と思われますが現実は少し違うようです。ウクライナを通るパイプラインにはウクライナ分+EU向け分が流れているので、ガスプロムはウクライナ分の30%をカットし残りのEU向け70%分は送り続けました。しかし、ここがパイプラインの特徴でしょうが、ウクライナは自国内を通っているパイプラインから自分の使うガスを取り続けたため、パイプライン末端のEU諸国でガスが出なくなるという事態が発生し、国際問題となりました。
こういう状況になると悪いのはガスを止めたガスプロムか、使い続けたウクライナか、どちらか分からなくなってきます。

さらに1990年代にウクライナはパイプラインからしばしば無断でガスを抜き取り(もちろん代金は払わない)使っていたようで、ガスプロムは対抗手段としてしばしば供給停止の措置をとっていたようです。つまり、ガス供給停止ということにはガスプロムもウクライナもある程度慣れっこになっていたわけです。
さらに言えばソ連崩壊後のある時期、ロシアはウクライナからの貿易代金を踏み倒していたという事情もあるようで、両者の対立は複雑な構図になっています。

このように天然ガスのパイプライン輸送、特に国際パイプラインネットワークというのは、いろいろな事情が絡むもののようで、日本人には直ぐに理解できない部分があります。

ところでベラルーシの首相は「ガスの女王」とも呼ばれるそうですから、こちらの対立もそう簡単に決着がつくことはないのでしょう。

それにしても原油が下がっています。2006年夏は78ドルでしたが、昨日は53ドル、実に20ドルも下落しています。

原油のEOR回収法

2007-01-10 | 石油
温暖化ガスの抑制と原油の生産性向上の両方に寄与する方法として、CO2圧入による原油のEOR回収法があります。もともと地中にあった石油、石炭を燃焼させることにより発生するCO2を再び地中に戻すことは、それほど無謀なことでもないと考えられます。

これが経済性をもって普及するようになれば、化石燃料を使っても大気中のCO2濃度は増加することはありません。さらに原油生産量の減少している油井にCO2を圧入することで原油生産量が増大するのであれば一石二鳥ともいえます。

ところでこのCO2圧入によるEOR回収法によりどれくらい原油は余分に回収できるのでしょうか。O&GJのコラムに参考になる記事があります。

West TexasのWasson fieldは1935年に発見された油田で、確認埋蔵量は4 billion bblとのことです。1946年に生産量50,000BDのピークを打った後、生産量は減少したので1964年から水圧入法に切り替えて1972年から80年までは150,000BDの生産量を維持していました。その後、生産量が減少したので84年からCO2圧入を開始し生産量の減少は緩和されて35,000から40,000BDになり、現在でも29,000BDの生産量を維持しているそうです。

この記事では水攻法により生産が増大したことは分かりますが、CO2圧入によりどれくらい余分に原油が生産されているのかが分かりません。そこで、大雑把に年代別の原油生産量を推定計算してみました。

1935年:確認埋蔵量 4Billion bbl
1935年から1946年:ゼロから50,000BDに単調に増加、生産量90.8x10^6bbl
1946年から1964年:50,000BDからゼロに単調に減少、生産量148.5x10^6bbl
この間の累積生産量は確認埋蔵量の3.5%

1964年:水攻法開始
1964年から1972年:ゼロから150,000BDに単調に増加、生産量198x10^6bbl
1972年から1980年:150,000BDで一定、生産量396x10^6bbl
1980年から1984年:150,000BDから40,000BDに単調に減少、生産量125x10^6bbl
この期間の合計生産量は確認埋蔵量の18%

1984年:CO2圧入開始
1984年から2005年:40,000BDから29,000BDに単調に減少、生産量239x10^6bbl
この期間の生産量は確認埋蔵量の6%に相当

一般に確認埋蔵量の2割くらい生産したところで油田の生産量は低下するといわれています。この油井の場合、水攻法を使って21.5%の累積生産量になった時点で生産量が急激に低下しています。1984年以降、CO2圧入により生産量の増加こそ見られませんが、生産量の減少は明らかに抑えられていて20年以上生産を続けています。確認埋蔵量の6%というCO2圧入による累積生産量、水攻法の最大生産量の4分の1程度の生産量が多いのか少ないのかは、議論のあるところかもしれません。現在までの累積生産量は確認埋蔵量の27.5%です。換言すればまだ3分の2の
原油は油井に残っていることになります。

この推算は全くの素人がやったものですから、的外れかもしれません。しかし、CO2圧入法はこれから技術的にも発展していくものですから、温暖化ガスの削減と原油の生産維持は期待できそうです。