産経新聞
栃木県真岡市のプレス加工・金型製造業「佐野機工」が県警と共同で、10年ほど前から開発してきた様々な防犯器具が、改めて脚光を浴びている。ベルトが体に巻き付き、不審者の自由を奪う拘束具付きのさすまたなどは、関東地方で強盗事件が多発した昨年秋以降、全国の小売店や大型商業施設から注文が殺到。同社はこれを機に海外展開も視野に入れている。(折田唯)
ギリシャ神話に登場する冥界の番犬にちなみ、「ケルベロス」と名付けられた同社の拘束具は、さすまたの先端に付けて使用。長さ1メートル以上のベルトが人に当たると、瞬時に体に巻き付いて身動きできなくなる。通常のさすまたは、U字形の先端部分を相手につかまれると劣勢になるのが弱点だが、ケルベロスは相手の自由を奪い、警察官が駆けつけるまでの時間を稼ぐことができるという。
自動車部品や板バネなどを製造してきた同社が、防犯器具の開発を始めたのは2011年春、県警からの1本の電話がきっかけだった。佐野仗●社長(52)が、当時は県警警務課の装備係だった鈴木哲人・総務課長に呼ばれ、県警本部を訪れると、板バネ製の腕などに巻く交通安全用反射板が並んでいた。
●はにんべんに「光」
「これを応用したさすまたを作れないか」。鈴木課長が自身のアイデアを託すと、困難な要望に頭を抱えながらも職人魂に火がついた。社員たちは日夜開発にのめり込み、3か月で試作品を作ると、その後も改良を重ね、半年後に完成させた。鈴木課長は「絶対に新しいものを作ろうという情熱と、佐野機工の技術力があったからこそ完成した」と感謝する。
同社はその後も、現場の声を取り入れながら防犯器具を次々と生み出した。棒の先端のベルトが相手の腕や脚に巻き付き、ロープを引っ張ることでバランスを崩す「不動」や、女性でも扱える軽量さすまた「弁慶」など、さらに6種類の製品を開発。その功績を評価され、警察庁長官賞を3度受賞した。全器具の製品番号を管理するなど悪用対策もしている。
ケルベロスは開発から10年以上たった今も、全国の警察や自衛隊で使われるほか、県内では全公立学校や100店舗以上の信用金庫などに配備されている。関東地方で強盗が多発するようになってからは、小売店や大型商業施設などから問い合わせが相次ぎ、生産が追いつかず納期が遅れることもあるという。
現在は国際協力機構(JICA)と連携し、マレーシアでケルベロスの導入事業を進めている。国民性も犯罪傾向も異なる国での挑戦だが、佐野社長は「ものづくりで防犯に貢献していきたい。日本の防犯意識も一緒に輸出できれば」と意欲を燃やしている。
読売新聞