<東シナ海と南シナ海でゴリ押す、根拠なき「歴史的権利」への対処法>
中国は東シナ海と南シナ海で過剰な、あるいは違法な領有権の主張を繰り返している。ルールに基づく秩序を脅かし、自分たちが「近海」と呼ぶ海域を国際的な海事法の管轄外にしようとしている。圧力と威嚇で近隣諸国に権利を放棄させ、中国の覇権を認めさせようというのだ。
海域紛争では、東シナ海で中国は琉球海溝まで続く大陸棚の権利を主張しているのに対し、日本は両国の中間線に基づいてはるかに公平な境界線を求めている。
状況を複雑にしているのは尖閣諸島の存在だ。日本の領土だが、中国も尖閣諸島を基点に排他的経済水域(EEZ)と大陸棚の権利を主張。2012年には尖閣諸島周辺に直線基線を一方的に設定し、内側は中国の内海だとして管轄権を主張した。
南シナ海では、中国の海洋権益の主張はさらに横暴だ。ブルネイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどの国々は国連海洋法条約(UNCLOS)に従い、自国の海岸線と、領有権を主張する島々を基点に海域の権利を主張している。中国も同様だが、南シナ海全域に「歴史的権利」を持つという独自の違法な主張がそこに加わる。
「近海は全てわが物」中国の横暴なマイルール...日本がとるべき対応は?© ニューズウィーク日本版
九段線も人工島も国際的な海事法を無視した存在
中国が歴史的権利の範囲を定めているとするのが悪名高い「九段線」。9本の領海線で囲む全ての海域、海底、空域の管轄権を主張するものだ。フィリピンは16年、中国も批准するUNCLOSに基づき国際仲裁裁判所に提訴。南シナ海での中国の領有権の主張を認めない判断が示された。
中国は軍事的脅威とそれより弱い威圧を組み合わせ、領有権を主張する全ての海域と空域を支配しようとしている。この「グレーゾーン威圧」を担うのは中国の海警局(沿岸警備隊)とその民兵組織だ。
彼らは船舶で意図的に衝突の危機をつくり出し、相手国の海軍、空軍、沿岸警備隊の即応性を低下させる。数で圧倒的に勝る中国勢に対し、常に緊急発進や警備の態勢を整えなければならないことは、日本の海上保安庁や自衛隊はもちろん、実力で劣る東南アジア諸国にとっては深刻な問題だ。
アメリカや日本などの関係諸国は、短期的には自国の能力を強化し、抑止力を高めながら、係争海域へのアクセスを維持するために協力しなければならない。
日米は東南アジアのパートナー諸国、特に実力が不足するフィリピンに空海軍と沿岸警備隊の能力を強化する支援を続けるべきだ。そしてアメリカは米軍の南シナ海への定期的アクセス維持のため、フィリピンでの限定的軍事プレゼンスを強める活動を加速すべきだ。なにしろグアムと日本はその任務には遠すぎる。そして長期的な連合を構築して中国を非難し、外交的・経済的コストを課して、妥協点を探る時間を稼ぐのだ。
ただし、変化が起きるのは習近平(シー・チンピン)国家主席の次の世代以降になるだろう。それまで2つの海は、管理は可能だとしても危険な状態が続く。
日本への影響
2つの海における中国の主張は異なるが、意味する脅威は同じだ。尖閣周辺における海警の執拗な侵入は拡大するかもしれず、南西諸島で日本のプレゼンスを高めて対抗するほかない。だが東シナ海での現状維持は闘争の半分にすぎない。国際法と主権の尊重が南シナ海で毀損されれば、あらゆる場所でも弱まる。だから日本は東南アジア諸国への支援を直接的国益と見なしてきた。中国への短期・長期的戦略が失敗すればグレーゾーン威圧はいずれ成功し近隣国は権利の放棄を強いられ、法の支配と地域安定が損なわれるだろう。インド太平洋は再び覇権主義と力が正義の地政学によって定義される。
グレゴリー・ポーリング(米戦略国際問題研究所シニアフェロー)
ニューズウィーク日本版