満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『木曜日に生まれた子ども』

2006-02-11 16:18:01 | 

小説の感想です。

『木曜日に生まれた子ども』(ソーニャ・ハートネット著、金原瑞人訳、河出書房新社)

ジャンル的にYAだと思うのですが、何故かわたしの利用する図書館では一般小説の棚に。この図書館、ジャンル分けの基準がよくわかりません。

9歳の少女ハーパーは、広大だけど痩せて荒れた土地で家族6人と暮らしていた。ある日、ママが赤ちゃんを産むというので、ハーパーは弟のティンと一緒に外にいろと家から出される。赤ちゃんは無事生まれるが、ハーパーが目を離した隙にティンは土砂の中に埋もれてしまった。すぐに父と兄に知らせたおかげで、ティンを救出することはできたが、ハーパーの目には父たちが土砂を掘って助けたというよりもティンが自分で掘り進んで出てきたように見えてならなかった。
その日を境に、ティンは家の軒下に穴を掘り始め、次第にそこから出てこなくなる。家族は心配するが、父の「好きなようにさせろ」という言葉を受け、ティンはほぼ地中の人となる。初めのうちは食事だけは食べていたが、次第に家族にも滅多に姿を見られなくなったティンはどんどん穴を広げ、その噂は街にまで届くようになる。
その後、ティンは家族が危機に陥った時だけ地中から現れるが、再会するたびその姿は人間離れしてゆく。やがて一家を支えるはずの父は酒に溺れ殆ど働かなくなり、姉のオードリーが金持ちだが嫌われ者のケイブルの家に働きに出ることになり・・・?

というようなお話です。

いやあ、全体的に暗い。
開拓期のオーストラリアが舞台なので、わたしとしては頼りになるお父さんを中心に皆で頑張ってこの土地に畑を広げようぜ、とか、牧場やろうぜ、とかそういう爽やかな展開を期待していたのですが、このお父さんやる気ゼロです。しかも「いい人だけど駄目人間」なのではなく、「気が小さくて卑怯な駄目人間」なのです・・・。主人公オードリーはパパが大好きで、パパがどんなに失敗をやらかしても「ついてなかっただけでパパは悪くない」と思っていたのですが、後半、金銭的に行き詰まって兄弟だけで話し合った時に兄の口から「パパはいつだって意地悪で臆病者だった」と聞かされ、納得してしまう過程は何だか切ない幼年期の終わりという感じでやりきれません。
物語はこのお父さんが次々とまずい手を打ち一家の生活が逼迫する課程と、地下に潜ったティンがごく稀に一家を助けてくれることを中心に語られ、どう終わるのかと思いきや、かなり意外な展開を迎える意表を突いたラストでした。

YAだと思って読んだらかなり奇妙な味わいですが、この作家さん、この作品でガーディアン賞を受賞したそうで。必ずしも頼りにならない両親ってのが人間的でリアルだという評価もあるのかもしれませんし、みんなこの奇妙な味わいが忘れがたいのかもしれませんね。

そう厚い本でもありませんので、一風変わった本が読みたい時など読んでみてはいかがでしょうか。
コメント
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