小説の感想です。
『女教皇ヨハンナ』(上下巻、ドナ・W・クロス著、阪田由美子訳、草思社)ジャンル:歴史フィクション
西暦814年。カール大帝がこの世を去ったまさにその日、インゲルハイムの片田舎でひとりの女の子が生まれる。難産の末、参事会員(聖職者)の娘として生まれたその子はヨハンナと名づけられる。
女性は生来男に劣るもの、男の持ち物と見られていて、学ぶ機会さえも与えられない時代だったが、ヨハンナは幼少時より鋭い知性を見せ、兄の家庭教師に才能を見出され共に学ぶことを許される。家庭教師が去ったことによりヨハンナの勉強は中断するが、「君が勉強を続けられるようになんとかする」との家庭教師の言葉どおりに聖堂付属学校から迎えが来る。しかし父はそれがヨハンナの迎えであることを否定し、息子ヨハネスを代わりに行かせる。ヨハンナは家出し、機転をきかせて自分も共に行く。司教による口頭での試練を見事にパスしたヨハンナは、その場に居合わせた騎士ゲロルトに気に入られ、彼の家から学校に通うこととなる。
学校でどんどん知識を吸収し、めきめきと頭角を現すヨハンナ。一方で自分を理解してくれる騎士ゲロルトに淡い恋心を抱くが、それを知った彼の妻リヒルトにより、彼の留守中に無理矢理他の男と結婚させられそうになり・・・?
というようなお話です。
民間伝承として広く知られる「女教皇」をモデルにした話です。
読む前はいくらなんでも性別を偽ってちゃバレるんじゃないの、と思いましたが、肉体は罪の器と定義して、なるべく肌を見せないようダボっとした服を着て、そうそう入浴の機会もない時代なら意外といけたのかもしれません。
なんか想像していたのよりサラっと読めました。あと本のつくりとしてなんか妙に行間が広く、思っていたよりボリュームがなかったです。上下巻に分けなくてもよかったんじゃ・・・とか思いました(笑)。
主人公ヨハンナはただただ学ぶことが大好きで、もっと知りたい、学びたいと思うのに、女であるというだけですべてを否定されます。特に父親には生まれて性別がわかったとたんに「女。ならばすべては無駄だったということか」とまで言われます。このお父さん、ホント最悪で自分勝手な暴君ですが、当時の一般的な男性像のようです。さらに当時のキリスト教的な考え方は非常に狭量で、ことあるごとに「女ごときに」とか「野蛮な異教徒」とか言うのですが、アンタらが一番野蛮だよという感じ。
その上教会組織はたいてい家柄と金で地位を買った者が牛耳っていて、そういう人たちはろくに勉強もしていないので進んだ概念が受け入れられず、非常に保守的です。さらに同じキリスト教徒でも宗派の違いで揉めたり。発展しないわけだよ・・・。とか思ってしまいましたよ。
当時の政治的な話が大きく絡むので、理解しながら読むのに骨が折れそうと思っていましたが非常にわかりやすく読めました。
なかなか面白かったですが、微妙なラストでした。伝承上ああなっているらしいので大きく曲げるわけにもいかなかったんでしょうが・・・せつないですね。
エピローグの通り、男装して聖職者となり知識を追い求めた女性も、もしかしたらたくさんいたのかもしれませんね。
訳者あとがきによると映画化も決定しているそうです。誰がヨハンナやるのかな。イヤむしろヨハンナの前任の教皇レオ(わたしのお気に入りキャラ。かっこいいんだこれが)を誰がやるのか。気になるところです。