「いま実際に起きている氷河の融解に、私たちの仮定と劇的に違う部分があることを発見したのです」。米コロラド大学ボルダー校、国立雪氷データセンター(NSIDC)の氷河学者で、この研究には関わっていないトゥワイラ・ムーン氏はこう話す。
氷河が分裂したり解けたりするのは、冬から夏への季節の移り変わりの中で起こる自然なプロセスで、夏の間ずっと続くこともある。だが、温暖化のため、地球全体で氷河の融解が速くなっている。そして、目に見える表面だけでなく、海中でも氷河が解けている可能性がある。
1983年、アラスカ州ルコント湾に近いピーターズバーグ高校の生徒たちが、湾に流れ出る氷河の末端の位置を毎年記録し始めた。そして数年前、氷河の後退を示すデータが、アラスカ大学サウスイースト校の科学者たちの目を引き、ルコント氷河への関心が高まった。
サザーランド氏によると、潮間氷河としてはとても近づきやすいルコント氷河は、研究の対象として理想的だという。とはいえその環境は複雑で、プロジェクトにはいろいろな分野のデータが必要だったため、海洋学者と氷河学者のチームが同時にデータ収集に当たった。
アラスカ大学サウスイースト校の氷河学者で、論文の共著者であるジェイソン・アムンドソン氏は、「氷が海へと移動する速度を把握できるよう、タイムラプス映像を撮影して氷河の流れを測定しました」と語っている。
氷河は、海に落ちる先端部に近づくにつれて加速するとムーン氏は話す。氏は、氷の動きを練り歯磨きのチューブを絞るのにたとえる。練り歯磨きが絞り口の寸前まで達すると、行く手をふさぐものが何もないため、速く進む。観測したところ、氷河の先端部分は1日に約23メートル動けた。この速度を知ることは融解の計算に欠かせない。
これらのデータのおかげで、研究チームは氷河の海中部分が解ける速さを計算できた。結果は、予想よりも2桁大きいというものだった。リニョー氏によると、理論モデルの1つは20〜30年間使われてきたが、単純化されたバージョンであり、問題なく使えるわけではないことが知られていたという。