今年の日本アカデミー賞はこの作品で決まりでしょう、と思うほど良くできていました。李相日監督のクリント・イーストウッド監督作品への深いリスペクトを感じました。その深い想いを幕末から明治初期の幕府軍討伐とアイヌ民族への迫害の歴史まで絡ませ、李相日監督は見事な脚本を作り上げました。ストーリーは元の映画と同じですが、内容はまさに日本映画として独立していました。
渡辺謙が演じる役柄は昔から東映ヤクザ映画で鶴田浩二や高倉健や演じ続けてきた我慢に我慢を重ねてきて最後に爆発する男ですが、これを納得させるためには彼をとりまく周囲の役者こそが最も大切になってきます。元の映画ではジーン・ハックマンやモーガン・フリーマンが見事にイースト・ウッドの寡黙な役柄を引き立てていました。この日本版では、佐藤浩市と柄本明が演じています。柄本さんは今や日本を代表する役者です。期待通りの演技を見せてくれました。でも佐藤君は非常に心配していました。「壬生義士伝」でも今ひとつ悪役に徹し切れていませんでした。なかなか回ってこない素晴らしい?悪役だったにもかかわらず残念でなりませんでした。しかし、完璧主義者と云われている李相日監督の演技指導の賜なのか、それとも佐藤君がようやく目覚めたのか、本当に素晴らしい悪役を演じきってくれました。
もっと驚いたのは柳楽優弥君です。凄い役者です。「七人の侍」の三船敏郎を彷彿するほど輝いて見えました。「誰も知らない」でカンヌ史上最年少の最優秀男優賞を受賞した柳楽優弥君、しばらく低迷していたようですが、間違いなく今後日本の映画界を席巻するのではないか、と思っています。リチャード・ハリスが演じた英国の賞金稼ぎ役を國村隼が演じていましたが、R・ハリスに匹敵するほど渋い演技を見せてくれました。女性陣の小池栄子、忽那汐里もとても押さえた演技を見せてくれました。特に小池栄子のまなざしがとてもいいんです。心に残る表情を見せてくれました。もう肉体派女優などと誰一人いわないでしょう。本当にいい女優に育ってきたなと思います。彼女も今後多くの作品に出演するだろうと思います。
<GOODLUCKの映画採点>
1)オリジナルティーあふれるストーリーと意外な展開は説得力があり、しかも様々な愛と哀愁・切なさが含まれている。(20点満点-17点)
2)考え抜かれた自然なセリフ(脚本)に何度も胸を打つ(10点満点-9点)
3)今までにない主演者の演技とストーリー展開での登場人物の成長・変貌・怒り・悲しみに胸を打つ(10点満点-7点)
4)助演者・脇役らに存在感があり、各シーンに溶け込み表情・セリフを自分ものにしている(10点満点-9点)
5)動と静の音楽が各シーンの感動を増幅させて、メインテーマは心に残る(10満点-9点)
6)撮影が新鮮で記憶に残るシーンが随所にある(10点満点-9点)
7)テンポのいい編集は心地よい緊張と緩和を生み、感動のラストシーンへ導いていく(10点満点-10点)
8)違和感のない特殊効果は映画の質を落とさずリアリティーを感じる or 凝った美術・衣装・時代考証は違和感がなく自然で美しい (10点満点-10点)
9)総合点:この映画・DVD・ビデオを見てもがっかりしない、満足度、お奨め度(10点満点-10点)
合計:90点
このショット、まさに西部劇的ですね。本当に撮影が素晴らしかったです。日本とは思えず、まるでカナダの山々を見ているようでした。名作「蝉しぐれ」と同様に自然の美しさが際だっていました。深みのある映像は名作には欠かせません。
大雪山山麓は、ほとんどの場所が国立公園指定になっていて、立ち入りの制限も厳しい。そんななか、ルールの隙間を見つけて折衝を重ね、粘りに粘って撮影した映像は、日本映画ではちょっと観ることのできない壮大な世界観を作りだしました。柳楽優弥と忽那汐里が、物語の最後の希望を託せたのも、この素晴らしい自然があったからこそ成立した結末と云えます。