米アップルは、16日に発売する新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)7」「7プラス」で、10月からJR東日本の電子マネー「Suica(スイカ)」を使った買い物ができるようにする。日本の電子マネーに使われる通信規格「フェリカ」を採用した端末を日本だけで販売する。世界で販売が苦戦するなか、比較的好調な日本市場を重視する姿勢を鮮明にした。
「アップルペイに新しく加わる国の一つについて話したい。日本だ」
米サンフランシスコで7日午前(日本時間8日未明)に開かれた発表会で、アップルのフィリップ・シラー上級副社長がそう言うと、スクリーンに映ったスマホの画面に「Suica」のカードが現れた。
アップルは「7」シリーズの日本向け端末に、ソニーが開発した電子マネーの通信技術「フェリカ」を採用。10月に自社の決済サービス「アップルペイ」を始め、「Suica」のカードなどの情報を「7」シリーズに登録すると、決済端末にかざすだけで支払いができるようになる。電車やバスのほか、コンビニなどの店舗でも使える。
「iD」「クイックペイ」にも対応し、クレジットカード情報を登録すれば使えるようになる。アップルの発表を受け、コンビニ大手も相次いで自社の店舗でも利用できるようになると発表し、「待ち時間が短くなるなど利便性の向上が期待できる」(ファミリーマート)と歓迎する。「楽天Edy」や「nanaco」など他の電子マネーが対応するかは未定という。
アップルのライバル、グーグルの基本ソフト「アンドロイド」を使う国内メーカーの反応はいまのところ冷静だ。あるメーカーの担当者は「影響がないとは言わないが、おサイフケータイ機能だけが我々の強みではない」と話す。テレビ放送が見られるワンセグなど、アップルが対応していない日本市場向けの機能はほかにもある。
だがiPhoneのシェアは4割を超え、アンドロイドを使う各メーカーを引き離す。iPhone唯一の死角とみられていた決済サービスの導入で、グーグルが秋にも日本で始める決済サービス「アンドロイドペイ」も、出ばなをくじかれる形になる。「今後、アンドロイド陣営は厳しくなるかもしれない」。この日の発表会に参加したKDDIの田中孝司社長はそう語った。
■主要国で不振、日本は堅調
アップルは「一つの国のために仕様を変えたことはほとんどない」(関係者)。今回、海外ではほとんど使われていないフェリカを採用した「7」シリーズやアップルウォッチを日本向けにわざわざ用意した。
iPhone向けに任天堂が「スーパーマリオ」の新ゲームを先行配信することも発表。発表会ではマリオの「生みの親」、任天堂の宮本茂氏が登壇した。アップルウォッチ向けに「ポケモンGO」を出すとの発表もあった。
アップルが日本を重視する背景には、振るわないiPhoneの販売がある。2014年に発売した「6」シリーズの人気で一時は最高益を出したが、続く「6s」は、高価格の割に魅力的な新機能を打ち出せずに苦戦。成長を支えてきた中国経済の失速も響き、今年1~3月期はiPhoneの販売台数が初めて前年を割った。業績も今年4~6月期まで2四半期連続の減収減益だ。
主要国でiPhoneのシェア低下が続くなか、比較的高いシェアを握る日本は、アップルにとって強い味方だ。市場調査会社カンター・ジャパンによると、各国スマホ市場での今年1~7月のiPhoneのシェアは、米国の32・3%、中国の18・3%に対し、日本は40・9%。決済サービスの導入で堅調な日本での販売を伸ばし、世界での反転攻勢につなげる狙いとみられる。
「7」への期待は、液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)など、iPhoneの販売低迷で業績が悪化している部品メーカーも同じだ。日本にあるアップルの取引先は865社。ある取引先の幹部は「『7』への期待には大きいものがある」と話す。