男性には「毛量一定の法則」というものがあると聞いた。
頭部が薄くなってくると、その分、ヒゲや残っている毛を伸ばして、全体的な毛の量を保とうとするらしい。
そう言えば、頭部の薄い人でヒゲを生やしている人は多い。
額のほうから薄くなってきた人で、残っている髪を長く伸ばし、一束にしている男性もいる。
前には無いけど、後ろには束ねるほどあるとアピールしたいのだろう。
学校の教科書でフランシスコ・ザビエルの絵を見た時、頭頂部に毛が無いのを見て、ザビエルは禿げているとずっと思っていた。
しかし、最近、諸説はあるようだが、あの髪型はトンスラと言って、聖職者の印だと知った。
頭頂部を剃って、周囲の毛は残し、棘の冠をかぶせられたキリストの姿を継承しているらしい。
学校ではそんな細かいことまで教えてくれないから、私は遠方からやってきて、布教活動で苦労したのでハゲたとしか思っていなかった。
トンスラの図を見ると、ザビエルの髪型とは少し違うけれど、頭頂部に毛がないのは同じである。
しかし、聖職者のしきたりとも信心とも関係なく、自然トンスラになってしまった男性は数多くいるのだ。
私がハゲている男性に対して、寛大だと思われるのか、若い頃から毛の薄い男性達から、様々な告白を聞かされた。
ある人は、「自分の外見を気にするようになった中学生の時、ふと気がついたら、父親はもちろん、爺さん、親戚のおじさん全員が、つるっぱげだった。
それからハゲる恐怖にさいなまれ、一夜にしてつるっぱげになる夢を何度も見て、うなされた。
以来、人知れずの努力をし、なんとか踏みとどまっている」と真顔になっていた。
髪の毛を洗った方がいいと聞いては必死に洗い、洗い過ぎると駄目だと聞けば、あわてて回数を減らす。
「いったい、どうしたらいいんだっ!」と心の中で叫んだのも一度や二度ではない。
効くという噂の養毛剤は全て購入し、海外に秘薬があると聞けば、出張する同僚に、こっそり頼む。
当時、彼は30代後半だったけれど、言われてみれば、前の方が少し薄いかなぁというくらいで、そんな悩みがあるとは想像もしていなかった。
「ふっさふさじゃないけど、普通でしょ」お世辞でもなく感じたまんまを言うと、彼は「ありがとう、罵詈雑言を吐く妻に聞かせてやりたいっ」
彼の奥さんは顔を合わせると「薄くなったわね」と冷たい視線を向けるらしい。
反論も出来ず、彼は奥さんが近づいてくると、無意識に顔をそむけるようになった。
子供まで妻に同調して「恥ずかしい」「参観日には来ないで」などと言い始めた。
なのでここのところ、妻の顔をまともに見る日はなく子供の前でも、つい、うつむきがちになり、このままでは遺伝よりも家族関係のストレスで毛が抜けそうだと嘆いていた。
つづく
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