愛しのボニー

元保護犬
2020年9月21日没(推定10歳)
ラブラドール・レトリバーのボニーの思い出

家族にまつわる話15

2021-09-16 17:20:01 | 思い出

 

「ひどいんだよ」

弟の最初の言葉がそれだった。

 

母が入退院を繰り返して医療費が嵩み 

弟の収入では賄えなくなった。

すると母は弟に

「今の仕事を辞めて運転手にでも何でもなってもっと稼げ」

と言ったらしい。

 

弟は友人と2人で製造業をしていて

千葉に作業場を作って働いている。

始めてまだ数年。

ようやく軌道に乗りだしたところで

たいした利益にはなっていなかった。

 

弟はこの時23歳。

医療費、生活費をこの弟に負わせるのは

どう考えても無茶な話だった。

 

母がここまでおかしいとは…この時まで思っていなかった。

 

母は弟を溺愛し、弟も母に甘えていた。

子どもの頃、弟の成績が悪いと

「どうして弟に勉強を教えてやらない」

「おまえが悪い」

といってわたしが叱られていたほどだ。

 

わたしは自分が逃げることを考えたけれど

弟はそういうわけにはいかなかった…

それは弟に母を押しつける結果となった…

・・・

 

弟の用件はお金を用立ててほしいということだった。

わたしは正直どうしたらいいのかわからなかった。

金額は百万円単位だった。

その金額はわたしでも持ってはいるが

それはわたしのものではなく

あくまでも夫と2人のものだ。

 

“もうこれ以上夫に負い目を感じたくない”

本当の自分の気持ちはそうなのだ。

 

でも、自分にできるのはお金を出すことくらいなのだった。

(実家の近くに住んでいる姉は通院や日常生活でのサポートをしていた)

 

これらのことを夫に話すと

「いいよ、もちろん」

「大切なお母さんのことじゃない」

「大丈夫だよ、だからもう泣くな」

「大丈夫、大丈夫」

そう言ってくれた。

・・・

 

久しぶりに会う弟は憔悴しきっていた。

この時 弟は数千円しか持っていなかった。

「これから千葉に帰るけど これでガソリン何リットル入れられるかな」

と言う。

わたしは驚いて弟に

「これ、ガソリン代にして。満タンにしてね」

「それでこれで何かちゃんとしたもの食べて」

と言ってそっと手渡した。