【モスクワ=遠藤良介】
産経
20世紀の世界を米国と二分した旧ソ連の崩壊から、25日で25年となった。現在のロシアでは、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と考えるプーチン大統領の強権統治が長期化し、自律的な経済成長の展望もない。民主化と市場経済化による発展という、当時の米欧日など西側諸国がロシアに抱いた希望は消え、旧共産主義陣営に属していた東欧諸国との国力の差も鮮明になっている。
世界銀行によると、ロシアの1人当たり国内総生産(GDP)は1991年の3485ドルから2015年の9092ドルへと2・6倍に増えた。この間に、旧共産圏だったチェコが1人当たりGDPを6・1倍、ポーランドが5・6倍、ハンガリーが3・7倍に伸ばし、ロシアをしのいでいる。ロシアの平均寿命は68歳から70歳にしか伸びなかったが、ほぼ同じ出発点だった前出の東欧3カ国は今、ロシアよりも7〜8歳長い数字だ。
「ロシアが経済と政治の両面で、ソ連崩壊時の期待通りにならなかったのは間違いない」。サンクトペテルブルク・ヨーロッパ大学のトラービン教授はこう語り、「旧共産圏の東欧諸国に比べ、ロシア・旧ソ連諸国では経済改革が難しかったこと」を理由に挙げる。
共産圏に組み込まれたのが第二次大戦後だった東欧諸国では、ソ連型計画経済がロシアほど根付かず、国民の欧州への帰属意識も残っていた。「欧州回帰かロシアの支配か」という二者択一が改革を促した。
旧ソ連ではこれに対し、GDPの4分の1を占めた軍需関連を筆頭に、機械製造など多くの産業分野が国の発注や補助金で支えられていた。これらの分野は、旧ソ連政府が資金不足に陥ると即座に行き詰まり、業態の転換や市場への適応に向けた改革は困難かつ多大な「痛み」を伴った。
ロシアのエリツィン政権は価格自由化をはじめとする「ショック療法」で切り抜けを図ったが、多くの庶民は年間26%にも達したハイパー・インフレなどによって生活を直撃される。「欧州回帰」のような座標軸もないロシア国民の多数派は安定と秩序を求め、2000年就任のプーチン大統領が強権統治を敷くのを歓迎すらした。
1990年代の改革の成果と石油価格の高騰により、ロシアは2000〜08年に年平均7%の経済成長を達成。その後はしかし、地下資源に依存する国家主導型の経済が硬直化し、頭打ちが鮮明になっている。前出のトラービン氏は「プーチン氏が真剣な改革に取り組むとは考えられず、ロシア経済の長期的な停滞が続くだろう」と語る。
それでも「1990年代の再来」を恐れる国民の多数派に、変革を求める大きな動きは出ていない。トラービン氏はこう話す。「今より状況の悪かった70〜80年代にも、飢えるほどではないとして人々は耐えた。強力な特務機関が反発の表面化を抑え、指導部内の対立もなかった。今日も、この3つの条件が維持される限りはプーチン体制が続くのではないか」
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20世紀の世界を米国と二分した旧ソ連の崩壊から、25日で25年となった。現在のロシアでは、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と考えるプーチン大統領の強権統治が長期化し、自律的な経済成長の展望もない。民主化と市場経済化による発展という、当時の米欧日など西側諸国がロシアに抱いた希望は消え、旧共産主義陣営に属していた東欧諸国との国力の差も鮮明になっている。
世界銀行によると、ロシアの1人当たり国内総生産(GDP)は1991年の3485ドルから2015年の9092ドルへと2・6倍に増えた。この間に、旧共産圏だったチェコが1人当たりGDPを6・1倍、ポーランドが5・6倍、ハンガリーが3・7倍に伸ばし、ロシアをしのいでいる。ロシアの平均寿命は68歳から70歳にしか伸びなかったが、ほぼ同じ出発点だった前出の東欧3カ国は今、ロシアよりも7〜8歳長い数字だ。
「ロシアが経済と政治の両面で、ソ連崩壊時の期待通りにならなかったのは間違いない」。サンクトペテルブルク・ヨーロッパ大学のトラービン教授はこう語り、「旧共産圏の東欧諸国に比べ、ロシア・旧ソ連諸国では経済改革が難しかったこと」を理由に挙げる。
共産圏に組み込まれたのが第二次大戦後だった東欧諸国では、ソ連型計画経済がロシアほど根付かず、国民の欧州への帰属意識も残っていた。「欧州回帰かロシアの支配か」という二者択一が改革を促した。
旧ソ連ではこれに対し、GDPの4分の1を占めた軍需関連を筆頭に、機械製造など多くの産業分野が国の発注や補助金で支えられていた。これらの分野は、旧ソ連政府が資金不足に陥ると即座に行き詰まり、業態の転換や市場への適応に向けた改革は困難かつ多大な「痛み」を伴った。
ロシアのエリツィン政権は価格自由化をはじめとする「ショック療法」で切り抜けを図ったが、多くの庶民は年間26%にも達したハイパー・インフレなどによって生活を直撃される。「欧州回帰」のような座標軸もないロシア国民の多数派は安定と秩序を求め、2000年就任のプーチン大統領が強権統治を敷くのを歓迎すらした。
1990年代の改革の成果と石油価格の高騰により、ロシアは2000〜08年に年平均7%の経済成長を達成。その後はしかし、地下資源に依存する国家主導型の経済が硬直化し、頭打ちが鮮明になっている。前出のトラービン氏は「プーチン氏が真剣な改革に取り組むとは考えられず、ロシア経済の長期的な停滞が続くだろう」と語る。
それでも「1990年代の再来」を恐れる国民の多数派に、変革を求める大きな動きは出ていない。トラービン氏はこう話す。「今より状況の悪かった70〜80年代にも、飢えるほどではないとして人々は耐えた。強力な特務機関が反発の表面化を抑え、指導部内の対立もなかった。今日も、この3つの条件が維持される限りはプーチン体制が続くのではないか」