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中国、「元安相場防衛」米国債の最大保有国トップは日本へ

2016-12-30 15:13:35 | 日記
2016-12-30 05:00:00

中国、「元安相場防衛」米国債の最大保有国トップは日本へ

勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。


エコノミック・ショート・ショート

中国にとって、米国債保有で1位の座にあることは、「愉快」なはずだった。

08年のリーマンショック以来、米国財政は大赤字を続けて大量の国債発行を余儀なくされてきた。

中国は、米国債の最大保有国として、陰に陽に「債権者」として高飛車に振る舞ってきた。

その中国も、人民元安相場を守るべくドルを使った関係上、米国債保有1位が10月末で途切れた。代わって日本が1位に浮上したのだ。



『ロイター』(12月15日付)は、「米国債最大保有国が中国から日本に、元安防衛で外貨崩し」と題して、次のように報じた。

この記事によって、中国は人民元相場安が続いているので、防衛のため米国債を売却して資金繰りを付けている実情がよく分かる。

昨年夏以降、人民元安を阻止すべく買い支えを続けてきたが、従来は手元資金で対応してきた。

それも限界を超え、「虎の子」の米国債売却に手を付けざるを得なくなった。中国が、経済的に追い込まれている実態が明白になった。



中国ではこれまで、米国への報復手段として米国債を売却すれば良い、とする話がよく出ていた。

その際、私はその非現実性を指摘してきた。確かに、中国が大量に米国債を売却すれば米債券市場は混乱する。

だが、中国自身も値下がりによる損失が及ぶのだ。



米国債の発行残高は市場で取引されているもので約14兆ドル。

このうち6兆ドル強を米国外の投資家が保有しているという。

日本と中国は、2カ国合わせて海外勢の持ち分の約4割を占める大口所有国である。

中国は、2008年8月に世界最大の米国債保有国となった。

ところが、2015年2月に為替介入のために米国債の持ち高を減らし、6年半ぶりに首位の座を明け渡したことがある。

それ以降、再び1位の座を守ってきた。それが、再度の陥没である。首位復帰は難しい情勢だ。人民元安相場が続いている結果である。



(1)「中国が世界最大の米国債保有国の座を日本に明け渡した。

下落が続く人民元を支えるために外貨準備を取り崩しているからで、円安が進むのを好ましく思っている日本と正反対の事情が背景にある。

投資家は中国の米国債保有動向から目が離せない。

もしも大規模な売りがあれば、ただでさえ上がっている米金利に一段の上昇圧力が加わり、それがドル高/人民元安の加速をもたらしかねないからだ。

米財務省が15日発表したデータでは、10月の中国の米国債保有額が1兆1150億ドルと6年余りぶりの低水準になったことが判明。

減少は5カ月連続で、10月までの1年間の減少規模は1392億ドルと12カ月ベースで過去3番目の大きさを記録した」。



10月末の中国の米国債保有額は、1兆1150億ドルと6年余りぶりの低水準になった。減少は5カ月連続である。人民元安相場を買い支える資金として、米国債売却資金が充てられたもの。日本

はドル高円安を歓迎しているが、中国は人民元安が外貨資金の流出をもたらすために防止するという、真逆の関係にある。



この関係こそ、日中経済の実力差が遺憾なく現れている。日本は円安になっても外貨資金が流出する懸念はない。むしろ、日本株の高値を見込んで流入しているほど

だ。世界一の対外純債権を保有する日本が、ドル高でも微動だにしない底力を見せている。

中国はこれまで、人民元高を狙った投機資金(ホット・マネー)が流入して、外貨準備高を押し上げてきた。その人民元相場は先安予想となれば、先の投機資金は流出する。よって外貨準備高も減少するという流れになった。

従来の「中国経済万歳論」が、皮肉にもお手上げの「万歳」に直面している。



(2)「10月の日本の米国債保有額は1兆1320億ドル。

落ち込み幅は中国よりずっと小さかった。

2008~09年の金融危機以降、日本の米国債保有が中国を上回ったのは、これまで昨年2月のたった1カ月だけだった。

シンガポールのフォーキャストPteのエコノミスト、チェスター・リャウ氏は『中国は人民元相場維持のためにドル(資産)を売っているが、日本は円安を喜んで放置している』と指摘した。

人民元の対ドル相場は15日、米連邦準備理事会(FRB)の政策金利引き上げと来年の想定利上げ回数の上方修正を受け、8年ぶり余りの安値に沈んだ」。



10月の中国の米国債保有額が、1兆1150億ドルと6年余りぶりの低水準。

日本の米国債保有額は1兆1320億ドルである。この日中の差は170億ドルである。

中国の減少は5カ月連続で、10月までの1年間の減少規模は1392億ドルにも上がっている。

この傾向から読むと、中国の米国債売却は今後とも続くと見られる。

すでに、中国経済の最盛期は過ぎた。その何よりの証拠がここにある。



中国が外貨準備高でピークを付けたのは、2014年6月の3兆9940億ドルであった。

この頃は、中国経済が最も輝いた時期である。

世界中が「中国詣で」をした。

競って、中国へ企業進出してきたのだ。

中国政府も「中華の夢」を大々的に語って見せた。

あれから2年半弱で、米国債保有1位の座も下りて、人民元相場安にかむ外貨資金流出阻止に全力を上げるという環境急変に見舞われている。「奢る者久しからず」だ。



(3)「こうした中でエコノミストによると、中国は保有米国債の削減を続ける見通しだ。

コメルツ銀行のシンガポール駐在エコノミスト、ゾウ・ハオ氏は『中国は人民元を守るために意識的に米国債保有を圧縮しており、この流れを止めるのは難しい』と述べた。

11月の中国の外貨準備は2014年6月のピーク時から9420億ドル減って、6年ぶりの低水準の3兆0520億ドルとなった。

この間、保有米国債を1110億ドル削減した。

人民銀行(中央銀行)は人民元支援に向けてさらに外貨準備を取り崩す公算は大きいが、同時に国外への資金流出対策として外貨準備をある程度維持しなければならないという困難なかじ取りを迫られている」。



中国政府は、有り余ると信じていた外貨準備高で、過去の栄光を取り戻せると錯覚していた。

AIIB(アジアインフラ投資銀行)を創設した。

すでに、日米主導のADB(アジア開発銀行)が存在する。

その向こうを張って、中国経済圏づくりを始めたのだ。

「一帯一路」も壮大な開発プロジェクトである。中国国内の過剰生産(鉄鋼・セメント・アルミ・石炭など)の輸出ハケ口に狙ったものである。

こうして金融とセットにして、「中華の夢」を描いたが、肝心の外貨準備が減り続ける現実に遭遇している。「中華の夢」は、絵に描いた餅と化してきた。



戦前の日本が、「大東亜共栄圏」なる夢を描いた途端に戦況が傾いて水泡に帰した。

「中華の夢」も同じような流れである。「胴元」の中国が、外貨準備高で右往左往する状態では、とてもAIIBの求心力は保てないのだ。

「一帯一路」プロジェクトも、中国が「身銭」を切ってやらねば進むはずがない。

相手国から高い金利を取り立てるようなプロジェクトに、どこの国が乗るのか。

すでに、タイ政府が「ノー」を突きつけて実証済みである。

一時の「成金感覚」で始めたAIIBなどの新企画は、中国の外貨準備高の減少と共に低迷を余儀なくされる運命であろう。日本は、こうしたプロジェクトに参加せず命拾いした。



(4)「一部の市場参加者の見方では、人民銀行にとって外貨準備の3兆ドルが心理的に重要な節目になる。

もっともこのままドル高/人民元安が続くようなら、外貨準備が急減するリスクがある。

トランプ氏が中国の貿易政策や通貨政策を批判し、台湾と接触していることなどから、中国が報復的に米国債売りに出るのではないかとの懸念もある。

しかし中国政府の政策アドバイザーは、たとえ中国が米国に仕返しをしたいと考えているとしても、米国債売りは選択肢にならないと考えている」。



人民銀行にとって外貨準備高の3兆ドルが、心理的に重要な節目になるという。

となれば、今年の12月に3兆ドルを割る公算もある。

私は2兆5000ドル見当までは「心理線」にはならないとみるがどうだろうか。3兆ドル割れは、格好の話題に違いないが、週刊誌の話題止まりでないかと思う。



中国が、トランプ氏の「一つの中国論」への対抗策として、米国債売却で報復するとの見方はうがちすぎている。

中国自身も米国債売却による値下がり損を被るからだ。

一部のアナリストは、「こうした動きは、戦争に次ぐ最悪のシナリオと認識している」(『ロイター』12月13日付)と言うのはその通りだと思う。

あからさまな敵対行為であり、米中関係は決定的なひび割れになる。それこそ、中国は米国から全面的な経済的報復を受けるに違いない。



(2016年12月30日)