2018.1.29
韓国は五輪で北朝鮮に騙されている、元駐韓大使が喝破
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
北朝鮮のオリンピック参加で
文大統領は宣伝工作に利用される
南北朝鮮は、1月9日の閣僚級会談で「平昌オリンピック・パラリンピックに北朝鮮が参加する」ことで合意した。
同時に「軍事当局間の会談の開催」「南北関係をめぐるすべての問題について、わが民族が朝鮮半島問題の当事者として解決する」ことでも合意し、その旨を発表した。
韓国政府は、オリンピックを利用して主導権を発揮し、南北間の緊張緩和につなげることで、朝鮮半島における軍事行動の抑止を期待している。
これに対し、中国やロシアが早速、歓迎の意向を表明。
1月11日、韓国の文在寅大統領から閣僚会談の結果について報告を受けたトランプ大統領は、「良い方向に進むことを期待している」「南北の対話が行われている間は、いかなる軍事行動もとらない」と約束した。
しかし、この合意を真に歓迎すべきなのであろうか。
オリンピックは世界の平和の祭典として、北朝鮮との緊張緩和、平和の定着につなげたいと考えること自体は間違っていない。
しかし問題は、北朝鮮のオリンピック参加が、朝鮮半島の緊張緩和につながるとは思えないということである。
北朝鮮の意図を完全に読み誤っていると考えざるを得ない。文大統領は北朝鮮の宣伝工作に利用されているのである。
北朝鮮のこれまでの歴史を見れば、平和攻勢の陰で、常に緊張を高める行動を取ってきたという事実がある。
1972年に南北共同声明を出し、民族の大同団結、平和統一を謳っていたとき、38度線を越えて侵略用の地下トンネルを掘っていた。
94年には、北朝鮮のIAEAからの脱退撤回と、核兵器の開発凍結・解体に合意する代わりに、日米韓などは軽水炉型原子力発電所2基と、完工までの間、毎年50万トンの重油の供給に合意。
しかしその間にも、米国の調査で北朝鮮がウラン濃縮による核開発を続行していたことが判明した。
今回の合意において、北朝鮮が核ミサイルなどの放棄に応じるならばともかく、形ばかりの平和攻勢によって実利を得ようとしていることは、これまでの歴史が示す通りである。
今回は核と、ICBMの完成を急いでいるだろう。
北朝鮮は核ミサイルの放棄を
拒否しつつ戦術だけを変えた
北朝鮮の金正恩委員長は、1月1日に発表した「新年の辞」において「核のボタンが私の机の上にある」と述べる一方で、「平昌オリンピックに代表団を派遣する用意がある」と呼びかけた。
しかし、北朝鮮はどのような目的で、このような提案を行ったのだろうか。
筆者は、北朝鮮は「核のボタンが机の上にある」というように、核ミサイルの開発・保有という目標は変えないものの、それを実現するための「戦術」を変えただけであると考える。
北朝鮮は、「核と、それを米国まで運ぶミサイル、ICBMを保有すれば、米国は北朝鮮の攻撃を恐れて態度を軟化させるだろう。
そして、経済制裁の緩和も勝ち取ることができるであろう」と考えていた。
だから、経済制裁で苦境に立っても、核開発の手は緩めなかったのだ。
むしろ、国民の生活を犠牲にしてでも、資金の残っているうちに核・ミサイルを開発すべく、急いで核実験やミサイル発射を繰り返したのだろう。
しかし、6回目の核実験で160キロトンの水爆実験に成功し、通常高度であれば米国全土を射程に入れたICBMの発射に成功したにもかかわわらず、経済制裁は強化される一方であった。
現在までに科せられた国連制裁では、北朝鮮への原油輸出こそ年400万バレルが確保されたものの、石油精製品の輸出は9割削減された。
さらに、世界各国の北朝鮮からの輸入はほぼ全面禁止され、核ミサイル開発のための外貨獲得がほぼ遮断された。
そこで、これまでの強硬姿勢に代えて、最も御しやすい韓国を引きずり込んで米国の圧力の盾にし、制裁緩和への足掛かりをつけようという戦術に変えたものと考える。
ひたすら北朝鮮の要求に
屈するだけだった韓国
北朝鮮にオリンピックに参加してもらいたい韓国では、北朝鮮の交渉相手にはならない。韓国は、ひたすら北朝鮮の要求に屈するだけだったからだ。
筆者は外務省勤務当時、北朝鮮との国交正常化会談で4回、実務レベルの責任者を任された。
当時の印象では、北朝鮮は会談に出席するたびに異なった意図、目的をもって臨んできたように思う。
ある会談では強硬姿勢で、ある会談では一つの問題をじっくりと話し合って進展させようとしたり、そしてまたある時は日本とはこれ以上交渉しても進展がないとして、言いたいことだけを言って席を立ったりした。
こうした北朝鮮と交渉する際には、北朝鮮の意図を正しく理解することが重要である。
しかし、文政権の交渉者は北朝鮮の意図を把握する努力をせず、北朝鮮をオリンピックに引き出すことだけに力を注いで、ただひたすら要求を呑んでしまった。
韓国にとって、この会談で強調すべきは、北朝鮮の核ミサイル放棄を求めることであったはずだ。
しかし、北朝鮮側がそれに不満を述べると黙ってしまった。
そして、北朝鮮が「我々が保有する核爆弾など最先端兵器は、徹頭徹尾、米国を狙ったもので同族に向けられたものではない」と主張した際も、黙認したような格好になってしまった。
認めるほか選択肢がなかった
IOCを利用する韓国
北朝鮮のオリンピック参加問題はどうなるのか。
国際オリンピック委員会(IOC)は20日、アイスホッケー女子の南北合同チームの結成や、「統一旗」を掲げた合同入場行進などを正式に承認。
北朝鮮はスキー、アイスホッケー、スケートの3競技で22人の選手を派遣する。
こうした決定についてIOCのバッハ会長は「五輪の精神は敬意や理解だ。平昌が朝鮮半島の明るい未来の扉となることを願う」と述べた。
しかし、本当にそうなのか。
北朝鮮は、あくまでも核ミサイルの放棄を拒否し、国際社会の期待に反している。オリンピックを利用して国際社会の圧力をかわし、核ミサイル開発の時間を稼ごうとしているとしたらどうか。
オリンピック精神に合致するどころか、オリンピックの政治利用以外の何ものでもない。
IOCにとって最も重要なことは、安全なオリンピックを成功裏に終えることである。
オリンピックへの参加申請が締め切られた後に、特例で受け入れを決定したが、これを認めず南北間で緊張が高まれば、オリンピックを危険にさらしかねない。
要するにIOCには選択肢はなかったわけだ。そうしたIOCを、韓国は「IOCが認めたのだから政治利用にはならない」などと利用しているのである。
韓国のSBSテレビの世論調査によれば、韓国では南北の合同チーム結成に72%が否定的である。
20〜30代に限れば82%に上る。韓国政府が北朝鮮代表団の滞在費を支援する案に反対との回答も「反対」が「賛成」を10%上回ったようだ。
文大統領の行動に、若者が反対したのは初めてではないか。
日経新聞によれば、若者らの反発の背景には、韓国代表選手への同情に加え、若いながらも世襲で最高権力を握り、核・ミサイル開発に突き進む金正恩委員長への嫌悪感もあるようだ。
北朝鮮との融和に突き進む文大統領への支持率は、合意後73%から59.8%に下落(1月25日現在)し、初めて50%台となった。
日韓の慰安婦合意で、国民感情が受け入れないとして前政権を非難した文大統領だが(日韓の慰安婦合意をめぐる文政権のいい加減さについては、
「『韓国よ、日本人は怒っている』元駐韓大使が日韓合意反故を嘆く」を参照していただきたい)、北朝鮮のオリンピック参加問題では、国民の意思を問うことなく一方的に決めた。韓国の若者も、こうした文大統領の危険性に気づいたいうことだろう。
北朝鮮は今後も揺さぶり作戦を続けると思われる。
北朝鮮の祖国平和統一委員会は、韓国の保守系団体が22日の集会で、金正恩委員長の写真や北朝鮮国旗を燃やしたとして、オリンピック参加の撤退を示唆した。
北朝鮮にへつらって、こうした動きを強権的に抑えれば、文政権への批判が高まろう。
また、北朝鮮はオリンピック前日の8日を「軍創建日」に指定し、平壌で軍事パレードを行う準備を進めていると言われる。
韓国がオリンピックを通じて「国威発揚」とするのを乗っ取るつもりなのだろう。
しかし、こうした情報に対し、韓国はいまだ何の反応も示していない。平和の祭典を軍事的な威嚇で汚そうとしているのに、である。
文政権には、保守系が「平壌オリンピック」と揶揄したことを批判するよりも、先にやるべきことがあるはずだ。
しかし文政権は、北朝鮮の行動を批判すれば、北朝鮮がオリンピック参加を撤回しかねないと恐れたのだと思われる。
北朝鮮がオリンピックに参加しても、緊張を助長するような行為を続ければ何の意味もない。
こうした姿勢を続ければ、文大統領の支持率はさらに下落するかもしれない。
北朝鮮芸術団の公演にも
制裁破りの材料がいっぱい
韓国政府は、北朝鮮の芸術団が2月7~16日にソウルで公演する方向で準備を進めている。
だが、芸術団が入場料を取って公演を行い、それを持ち帰ったならば、それは明らかに安保理制裁決議違反であろう。
北朝鮮の芸術団については、韓国国内の関心も高い。オリンピックの平和友好ムードに流されて、これを批判することを躊躇するムードもある。
しかし、深く考えずにこれを受け入れる韓国の雰囲気もいかがかと思う。
こうした制裁逃れを許していては、さらなる制裁破りの要求に結びつきかねず、文政権の交渉姿勢では北朝鮮に押し切られる危険がある。
そういう意味では、北朝鮮の選手団などの滞在費負担も制裁決議違反である。
北朝鮮はこうした主張が行われることに対し「客を招いておきながら、初歩的な儀礼を守らない無礼な行動だ」と非難しているが、国連の制裁にくさびを入れることにほくそ笑んでいるのではないか。
芸術団派遣をめぐっては、事前使節団の韓国訪問が突然延期された。
その後、21日に訪韓したが、これも北朝鮮の揺さぶり戦術であろう。
自分たちの言うことを聞かなければ、いつでもオリンピック参加をキャンセルできるのだとの脅しの一環なのだ。
国際社会に強調することが解決策
文大統領はそろそろ悟るべき
1月16日、バンクーバーで20ヵ国外相会議が開催され、北朝鮮制裁の「抜け穴封じ」のための対策が話し合われた。
会議では、各国は禁輸物資の密輸阻止に向けた船舶検査の強化で足並みを揃えた。
米国のティラーソン国務長官が問題視視したのは、石油精製品などを海上で外国船から北朝鮮の船に移し替える密輸の横行だ。
北朝鮮の平和攻勢の陰で行われる不正を絶つことで、北朝鮮の時間稼ぎを防ぐ手立ては一層重要となっている。
しかし、そうした中で、文政権は北朝鮮に利用され、国際社会の北朝鮮包囲網を弱体化させている。
文大統領は、北朝鮮を甘やかして増長させるのではなく、国際社会と協調していくことが、北朝鮮を核ミサイル放棄に導く道であることを、そろそろ悟ってほしものである。
(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)
韓国は五輪で北朝鮮に騙されている、元駐韓大使が喝破
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
北朝鮮のオリンピック参加で
文大統領は宣伝工作に利用される
南北朝鮮は、1月9日の閣僚級会談で「平昌オリンピック・パラリンピックに北朝鮮が参加する」ことで合意した。
同時に「軍事当局間の会談の開催」「南北関係をめぐるすべての問題について、わが民族が朝鮮半島問題の当事者として解決する」ことでも合意し、その旨を発表した。
韓国政府は、オリンピックを利用して主導権を発揮し、南北間の緊張緩和につなげることで、朝鮮半島における軍事行動の抑止を期待している。
これに対し、中国やロシアが早速、歓迎の意向を表明。
1月11日、韓国の文在寅大統領から閣僚会談の結果について報告を受けたトランプ大統領は、「良い方向に進むことを期待している」「南北の対話が行われている間は、いかなる軍事行動もとらない」と約束した。
しかし、この合意を真に歓迎すべきなのであろうか。
オリンピックは世界の平和の祭典として、北朝鮮との緊張緩和、平和の定着につなげたいと考えること自体は間違っていない。
しかし問題は、北朝鮮のオリンピック参加が、朝鮮半島の緊張緩和につながるとは思えないということである。
北朝鮮の意図を完全に読み誤っていると考えざるを得ない。文大統領は北朝鮮の宣伝工作に利用されているのである。
北朝鮮のこれまでの歴史を見れば、平和攻勢の陰で、常に緊張を高める行動を取ってきたという事実がある。
1972年に南北共同声明を出し、民族の大同団結、平和統一を謳っていたとき、38度線を越えて侵略用の地下トンネルを掘っていた。
94年には、北朝鮮のIAEAからの脱退撤回と、核兵器の開発凍結・解体に合意する代わりに、日米韓などは軽水炉型原子力発電所2基と、完工までの間、毎年50万トンの重油の供給に合意。
しかしその間にも、米国の調査で北朝鮮がウラン濃縮による核開発を続行していたことが判明した。
今回の合意において、北朝鮮が核ミサイルなどの放棄に応じるならばともかく、形ばかりの平和攻勢によって実利を得ようとしていることは、これまでの歴史が示す通りである。
今回は核と、ICBMの完成を急いでいるだろう。
北朝鮮は核ミサイルの放棄を
拒否しつつ戦術だけを変えた
北朝鮮の金正恩委員長は、1月1日に発表した「新年の辞」において「核のボタンが私の机の上にある」と述べる一方で、「平昌オリンピックに代表団を派遣する用意がある」と呼びかけた。
しかし、北朝鮮はどのような目的で、このような提案を行ったのだろうか。
筆者は、北朝鮮は「核のボタンが机の上にある」というように、核ミサイルの開発・保有という目標は変えないものの、それを実現するための「戦術」を変えただけであると考える。
北朝鮮は、「核と、それを米国まで運ぶミサイル、ICBMを保有すれば、米国は北朝鮮の攻撃を恐れて態度を軟化させるだろう。
そして、経済制裁の緩和も勝ち取ることができるであろう」と考えていた。
だから、経済制裁で苦境に立っても、核開発の手は緩めなかったのだ。
むしろ、国民の生活を犠牲にしてでも、資金の残っているうちに核・ミサイルを開発すべく、急いで核実験やミサイル発射を繰り返したのだろう。
しかし、6回目の核実験で160キロトンの水爆実験に成功し、通常高度であれば米国全土を射程に入れたICBMの発射に成功したにもかかわわらず、経済制裁は強化される一方であった。
現在までに科せられた国連制裁では、北朝鮮への原油輸出こそ年400万バレルが確保されたものの、石油精製品の輸出は9割削減された。
さらに、世界各国の北朝鮮からの輸入はほぼ全面禁止され、核ミサイル開発のための外貨獲得がほぼ遮断された。
そこで、これまでの強硬姿勢に代えて、最も御しやすい韓国を引きずり込んで米国の圧力の盾にし、制裁緩和への足掛かりをつけようという戦術に変えたものと考える。
ひたすら北朝鮮の要求に
屈するだけだった韓国
北朝鮮にオリンピックに参加してもらいたい韓国では、北朝鮮の交渉相手にはならない。韓国は、ひたすら北朝鮮の要求に屈するだけだったからだ。
筆者は外務省勤務当時、北朝鮮との国交正常化会談で4回、実務レベルの責任者を任された。
当時の印象では、北朝鮮は会談に出席するたびに異なった意図、目的をもって臨んできたように思う。
ある会談では強硬姿勢で、ある会談では一つの問題をじっくりと話し合って進展させようとしたり、そしてまたある時は日本とはこれ以上交渉しても進展がないとして、言いたいことだけを言って席を立ったりした。
こうした北朝鮮と交渉する際には、北朝鮮の意図を正しく理解することが重要である。
しかし、文政権の交渉者は北朝鮮の意図を把握する努力をせず、北朝鮮をオリンピックに引き出すことだけに力を注いで、ただひたすら要求を呑んでしまった。
韓国にとって、この会談で強調すべきは、北朝鮮の核ミサイル放棄を求めることであったはずだ。
しかし、北朝鮮側がそれに不満を述べると黙ってしまった。
そして、北朝鮮が「我々が保有する核爆弾など最先端兵器は、徹頭徹尾、米国を狙ったもので同族に向けられたものではない」と主張した際も、黙認したような格好になってしまった。
認めるほか選択肢がなかった
IOCを利用する韓国
北朝鮮のオリンピック参加問題はどうなるのか。
国際オリンピック委員会(IOC)は20日、アイスホッケー女子の南北合同チームの結成や、「統一旗」を掲げた合同入場行進などを正式に承認。
北朝鮮はスキー、アイスホッケー、スケートの3競技で22人の選手を派遣する。
こうした決定についてIOCのバッハ会長は「五輪の精神は敬意や理解だ。平昌が朝鮮半島の明るい未来の扉となることを願う」と述べた。
しかし、本当にそうなのか。
北朝鮮は、あくまでも核ミサイルの放棄を拒否し、国際社会の期待に反している。オリンピックを利用して国際社会の圧力をかわし、核ミサイル開発の時間を稼ごうとしているとしたらどうか。
オリンピック精神に合致するどころか、オリンピックの政治利用以外の何ものでもない。
IOCにとって最も重要なことは、安全なオリンピックを成功裏に終えることである。
オリンピックへの参加申請が締め切られた後に、特例で受け入れを決定したが、これを認めず南北間で緊張が高まれば、オリンピックを危険にさらしかねない。
要するにIOCには選択肢はなかったわけだ。そうしたIOCを、韓国は「IOCが認めたのだから政治利用にはならない」などと利用しているのである。
韓国のSBSテレビの世論調査によれば、韓国では南北の合同チーム結成に72%が否定的である。
20〜30代に限れば82%に上る。韓国政府が北朝鮮代表団の滞在費を支援する案に反対との回答も「反対」が「賛成」を10%上回ったようだ。
文大統領の行動に、若者が反対したのは初めてではないか。
日経新聞によれば、若者らの反発の背景には、韓国代表選手への同情に加え、若いながらも世襲で最高権力を握り、核・ミサイル開発に突き進む金正恩委員長への嫌悪感もあるようだ。
北朝鮮との融和に突き進む文大統領への支持率は、合意後73%から59.8%に下落(1月25日現在)し、初めて50%台となった。
日韓の慰安婦合意で、国民感情が受け入れないとして前政権を非難した文大統領だが(日韓の慰安婦合意をめぐる文政権のいい加減さについては、
「『韓国よ、日本人は怒っている』元駐韓大使が日韓合意反故を嘆く」を参照していただきたい)、北朝鮮のオリンピック参加問題では、国民の意思を問うことなく一方的に決めた。韓国の若者も、こうした文大統領の危険性に気づいたいうことだろう。
北朝鮮は今後も揺さぶり作戦を続けると思われる。
北朝鮮の祖国平和統一委員会は、韓国の保守系団体が22日の集会で、金正恩委員長の写真や北朝鮮国旗を燃やしたとして、オリンピック参加の撤退を示唆した。
北朝鮮にへつらって、こうした動きを強権的に抑えれば、文政権への批判が高まろう。
また、北朝鮮はオリンピック前日の8日を「軍創建日」に指定し、平壌で軍事パレードを行う準備を進めていると言われる。
韓国がオリンピックを通じて「国威発揚」とするのを乗っ取るつもりなのだろう。
しかし、こうした情報に対し、韓国はいまだ何の反応も示していない。平和の祭典を軍事的な威嚇で汚そうとしているのに、である。
文政権には、保守系が「平壌オリンピック」と揶揄したことを批判するよりも、先にやるべきことがあるはずだ。
しかし文政権は、北朝鮮の行動を批判すれば、北朝鮮がオリンピック参加を撤回しかねないと恐れたのだと思われる。
北朝鮮がオリンピックに参加しても、緊張を助長するような行為を続ければ何の意味もない。
こうした姿勢を続ければ、文大統領の支持率はさらに下落するかもしれない。
北朝鮮芸術団の公演にも
制裁破りの材料がいっぱい
韓国政府は、北朝鮮の芸術団が2月7~16日にソウルで公演する方向で準備を進めている。
だが、芸術団が入場料を取って公演を行い、それを持ち帰ったならば、それは明らかに安保理制裁決議違反であろう。
北朝鮮の芸術団については、韓国国内の関心も高い。オリンピックの平和友好ムードに流されて、これを批判することを躊躇するムードもある。
しかし、深く考えずにこれを受け入れる韓国の雰囲気もいかがかと思う。
こうした制裁逃れを許していては、さらなる制裁破りの要求に結びつきかねず、文政権の交渉姿勢では北朝鮮に押し切られる危険がある。
そういう意味では、北朝鮮の選手団などの滞在費負担も制裁決議違反である。
北朝鮮はこうした主張が行われることに対し「客を招いておきながら、初歩的な儀礼を守らない無礼な行動だ」と非難しているが、国連の制裁にくさびを入れることにほくそ笑んでいるのではないか。
芸術団派遣をめぐっては、事前使節団の韓国訪問が突然延期された。
その後、21日に訪韓したが、これも北朝鮮の揺さぶり戦術であろう。
自分たちの言うことを聞かなければ、いつでもオリンピック参加をキャンセルできるのだとの脅しの一環なのだ。
国際社会に強調することが解決策
文大統領はそろそろ悟るべき
1月16日、バンクーバーで20ヵ国外相会議が開催され、北朝鮮制裁の「抜け穴封じ」のための対策が話し合われた。
会議では、各国は禁輸物資の密輸阻止に向けた船舶検査の強化で足並みを揃えた。
米国のティラーソン国務長官が問題視視したのは、石油精製品などを海上で外国船から北朝鮮の船に移し替える密輸の横行だ。
北朝鮮の平和攻勢の陰で行われる不正を絶つことで、北朝鮮の時間稼ぎを防ぐ手立ては一層重要となっている。
しかし、そうした中で、文政権は北朝鮮に利用され、国際社会の北朝鮮包囲網を弱体化させている。
文大統領は、北朝鮮を甘やかして増長させるのではなく、国際社会と協調していくことが、北朝鮮を核ミサイル放棄に導く道であることを、そろそろ悟ってほしものである。
(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)