2019.5.19 01:00
韓国サムスン電子に暗雲が漂い始めている。
直近の業績は米中貿易摩擦のあおりを受けて主力の半導体が振るわず本業のもうけを示す営業利益が6割減少。
足元では世界首位のスマートフォンで華為技術(ファーウェイ)など中国勢の猛烈な追い上げを受ける最中に品質不安が再燃、消費者離れが避けられない状況だ。
経営戦略を揺るがす「カリスマ不在」のリスクもくすぶり、王者の座が危ういものとなっている。
■大統領が工場訪問
「遠大な目標設定に拍手を送り、政府も積極的に支援する」
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月30日、サムスンの半導体工場に赴きこう述べ、133兆ウォン(約13兆円)規模の投資計画を表明した李在鎔(イ・ジェヨン)副会長ら経営陣を激励した。
この様子は韓国メディアが一斉に報じた。
日本でもよくある政権トップによる国内経済の現状を把握するための工場視察に見受けられるが、この行動をそう単純に理解した向きは少ない。
これまで、文大統領は財閥と距離を置く「経済民主化」を掲げてきたからだ。
特に財閥に対して批判的な革新系市民団体への配慮から、最大手のサムスンの国内拠点には足を運んでいなかった。
しかし、文大統領の工場訪問とは別にこの日、サムスンは2019年1~3月期の連結決算を発表した。
韓国の輸出全体の約2割を占める、サムスンの業績が韓国経済に与える影響は大きい。
営業利益は前年同期比60・2%減の6兆2300億ウォン、売上高も13・5%減の52兆3900億ウォンに落ち込んだ。
韓国・聯合ニュースによると、営業利益はスマホの発火問題に揺れた16年7~9月以来、2年半ぶりの低い水準。
文氏の工場訪問と決算発表が重なったことで、経済の先行きを懸念した文氏が方針転換までして駆けつけた、という憶測もあった。
サムスンの失速は、米中貿易摩擦などで世界景気が減速し、輸出が落ち込んだことが主な要因だ。
1~3月の韓国の半導体輸出とディスプレー輸出は、前年同期と比べておおよそ15~25%の幅で減少した。
米ブルームバーグ通信によると、韓国の証券アナリストは半導体について「現時点で顧客が抱える在庫の水準は高く、製品購入が一時的に停止している」と指摘した。
19年下半期にかけて需要増加が予想されるが、不確実な点も残るため、当面は厳しい状況が続くとの見方を示す。
収益柱の半導体、ディスプレー、スマホの3部門が軒並み崩れ、業績の牽引役が見当たらないという。
■折りたたみスマホ、発売延期
業績悪化に追い打ちをかけるのが、折り畳めるスマホ「ギャラクシーフォールド」の発売を、当初予定の4月26日から延期したことだ。
世界スマホ市場首位のサムスンは、中国勢に激しく追い上げられている。
米調査会社IDCによると、18年のスマホの世界出荷台数シェアは、サムスンが20・8%で首位を堅持。
ファーウェイは14・7%で3位だが、2位の米アップル(14・9%)に迫る勢いをみせている。
サムスンは新製品の先進性を強調し、反転攻勢を狙っていたが、出だしでつまずいた。
それも、スマホを試用した米メディアから、ディスプレーの故障などの不具合を指摘する報道が相次いだことで発覚。
以前のスマホ発火問題に続いて再び品質管理能力が厳しく問われる事態となっている。
今回は数千億円の損失を出したスマホの電池発火問題とは異なり、発売前に不具合を認めたことで、業績への影響は軽微とみられる。
もともと、新製品の計画出荷台数もそう多くないということもあるが、世界中から注目されている製品だけにブランドの毀損(きそん)は避けられない。
原因の解明と詳細な説明で丁寧さを怠れば、消費者や取引企業はサムスン製品やサービスに不信感を抱き続けることになる。
逆風が吹き荒れる中、今月1日に「総帥1年」を迎えた李副会長は贈賄罪をめぐる公判を控える。
強烈なリーダーシップを発揮した父親の李健煕(イ・ゴンヒ)会長は病気で不在。
総帥が再拘束となれば、サムスンはカリスマを失い巨額投資をウリにした経営戦略に狂いが生じかねない。
失速が鮮明の世界王者、サムスンの先行きは一段と険しさを増している。(経済本部 佐藤克史)