コロナで韓国企業が崖っぷちに追い込まれる
自動車、航空などを直撃、経済停滞は不可避に
韓国「中央日報エコノミスト」
2020/04/07 5:40
新型ウイルス肺炎が韓国でも拡大し、航空需要が激減している。写真は旅行客のいない韓国仁川空港
新型コロナウイルスが韓国の産業全般に深刻な被害を与えている。
製造業、サービス業を問わず、韓国国内産業のすべてに及んでいる。
今回の事態は、「2020年はV字型の景気回復」という年初の政府の期待を見事にへし折った。
延世大学経済学部のソン・テウン教授は「景気全般が悪化しているうえに、コロナウイルスで韓国の景気はさらに落ち込み始めた。
特に海外市場への依存度が高く、国際的なサプライチェーンにつながっている企業は厳しい。
雇用も悪化し、景気はさらに落ち込むだろう」と心配する。
自動車のサプライチェーンを寸断
今回の被害の代表例は、現代自動車グループだ。コロナの感染が広がり、世界的な供給網が崩壊したことで大打撃を受けている。今後は、自動車への需要減少も予想されている。
2020年3月19日、現代自動車の株価は終値で6万5900ウォン(約5780円)まで下落した。
これは、リーマンショック後、国際市場で本格的な成長を始めた2009年5月の水準に戻ったことになる。
起亜自動車、現代モービスなど、同グループの主力企業の株価も大きく下落している。
現代自動車の世界販売台数は10年ぶりの最低水準となった。
2020年2月の世界販売台数は23万5745台と、前年同期比10.2%減。
特に中国での販売が急減し、2月の販売台数は1007台にとどまった。
2019年2月は3万8017台だった。同期間、起亜自動車の販売台数も2万2031台から972台と減少。中国の現地工場の稼働は中断し、営業店舗も休業している。
世界の供給網が中断した影響はさらに広がっている。
車体に多様な電子部品を連結する「ワイヤリングハーネス」などを中国の工場から調達していたが、工場の稼働が数日間中断した。
これは現代自動車と起亜自動車だけでなく、ルノーサムスン、韓国GM、サンヨン(双龍)自動車も同じような影響を受けている。国際的な供給網の寸断が産業に悪影響を与えた代表例となった
幸いにも、中国の感染状況は収束段階に入ったようだ。韓国でもピークは過ぎたと見られている。
しかし、もう1つ別の問題が始まった。コロナウイルスの感染者が、これら企業にとって最大の輸出市場であるアメリカとヨーロッパに広がり、現地での需要が減少しそうなのだ。
2020年1~3月は中国市場の沈滞とサプライチェーンの崩壊で厳しい結果だった。4~6月はアメリカとヨーロッパにおける販売に赤信号が灯り始めた。
欧米の需要減退は避けられない
2020年2月の現代自動車の販売実績は、北米とヨーロッパで持ちこたえ、大幅な業績悪化を避けることができた。
2017年にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備に中国が反発し、韓国に対して報復措置を行ってから、同社は欧米での販売に注力した。
その結果、2019年の現代自動車グループ全体の売上高で北米とヨーロッパが占める割合は51.7%に達した。
韓国投資証券のキム・ジンウ研究員は、「世界の主要自動車メーカーが欧米に持つ工場の稼働が相次いで止まっている。その分、景気も悪化し、需要減退は避けられない」と分析する。
アメリカにある現代自動車のアラバマ工場では、従業員1人が新型コロナウイルス感染症の陽性と診断され、3月18日午前から稼働を停止している。
ヨーロッパでも工場の稼働が中断する可能性がある。同社のチェコ工場の労働組合は14日間の操業中断と防疫の徹底を要求しているという。
完成車メーカーの危機は、そのまま自動車部品業界にとっての危機でもある。
韓国2位の自動車部品メーカーであるマンド社は最近、製造職社員を対象に希望退職を募った。
さらに社内のジョブシェアリング(循環休業、雇用者を解雇させることなく、雇用者が順番に休業すること)を推進するという。自動車販売の不振が続けば、工場の稼働率はさらに下がると考えた末の決定だ。
同社が製造職で希望退職に踏み切ったのは2008年以来のことだ。
バッテリーメーカーや鉄鋼メーカーの危機感は大きい。世界的な自動車の販売不振が広がり、2020年の上半期の業績悪化は避けられないという。
SKイノベーションとLG化学、サムスンSDIなど韓国のバッテリーシェル生産企業3社は、欧米などに生産拠点を置いており、工場の稼働中断というリスクも抱えるようになった。
この数年間、業績悪化に苦しんできた造船業界もまた、先行きが暗くなった。韓国造船海洋は最近、「世界経済の影響を直接受けており、最悪の状況に備えるほかない。年初に立案した2020年の受注や事業目標と経営計画を全面的に再検討する必要がある」と社員に訴えた。
韓国経済の主軸である半導体産業は、販売といった直接的な被害よりは、市況の回復局面が鈍ることを心配している。
急激な下降局面が続いた2019年の状況から抜け出し、2020年は年初から回復すると思われていたが、その回復時期はさらに遅くなる可能性が出てきた。
旅行需要はほぼ消えてなくなった
旅行業界と航空業界は需要がほぼなくなったと言っても過言ではない。
韓国航空協会は2020年上半期の韓国航空会社8社の売上高が、少なくとも5兆0875億ウォン(約4500億円)減少すると見ている。2月の国際線旅客数は前年同月比で47%減少し、3月はこれよりさらに悪化するのは確実だ。
仁川国際空港によると、3月1日~15日の間に同空港を利用した乗客は41万7009人(出入国合計)で、前年同期比で85.2%も減少した。3月11日の利用客数は1万0522人に落ち込み、1万人割れが目前となっている。
同空港の利用客数がもっとも少なかったのは、SARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大がピークとなった2003年5月20日の2万6773人だった。
2017年はTHAADによる中韓対立のあおりを受けて旅客数が減少。
2019年は日韓貿易対立の影響を受けていた。
航空業界は今回、コロナウイルスにより最悪の危機を迎え、現状は「生き残りをかけて耐える時期」と言われている。営業活動が事実上中断した状況で、固定費の支出に耐え、事態の収束を待つほかない状態だ。
航空会社は職員らの有給・無給休職を実施した。大韓航空は客室乗務員を対象に無給休職を呼びかけ、アシアナ航空も全職員が10日間の無給休職を実施した。
LCC(格安航空会社)6社もまた、有給・無給休職か短縮勤務を実施している。
航空業界の全職員約4万人の20%ほどが休職しているとされている。さらに、これまで慢性的な人不足に悩んでいたパイロット(約300人)を対象に、無給休暇の申請を受け付けている。例えばイースター航空のパイロット労働組合は、経営危機の克服と苦痛の分担を目的に、賃金の25%を自主返却すると会社側に提案した。
旅行業界では倒産企業が続出
最大の問題は、この先いつまで我慢すればよいのかわからないということだ。2003年のSARSや2015年のMERS(中東呼吸器症候群)のときを振り返れば、感染症は2~3カ月間は航空需要に大打撃を与え、その後需要回復までに最長6カ月が必要だった。
今回の新型コロナウイルスが小康状態に入ったと言っても、少なくとも2020年の上半期までは現在の状況が続く可能性が高い。
そのため、2020年いっぱいは耐える必要がありそうだ。世宗大学経営学部のファン・ヨンシク教授は、「無給休職などで固定費を圧縮しても、その金額は航空機のリースと追加費用より少ない。
グループ内の親会社から現金支援を受けられない航空会社は、危機を乗り越えることは簡単ではないだろう」と言う。
旅行業界は、航空業界よりもさらに深刻だ。
休業どころかすでに倒産する企業も続出している。1月20日から3月13日までに廃業した韓国内外の一般旅行会社は56社との調査結果もある。
ソウル市内中心部の大型ホテルが相次いで臨時休業に入り、外国人の団体観光客が主な顧客だったこれらホテルは、最長で4月末まで営業を中断する。
一方で、石油化学業界は原油価格の下落に苦しんでいる
。韓国最大手のエスオイル社は1976年の創業以降としては初めて、希望退職者の募集を検討している。
新型コロナウイルスの影響ではないが、すでにこれまでの経営難で体力が落ちている企業も、今回の事態で崖っぷちに追い込まれている。
例えば韓国5位の海運業である興亜(フンア)海運が、ついに債権者団の共同管理を申請した。
申請に追い込まれたのはコロナウイルスが主な理由ではない。同社はこれまで、東南アジア航路の船舶過剰供給でコンテナ市況が悪化し、2016年以降の業績が悪化していた。
これまで資産売却などを繰り返していたが、改善効果は得られずにいた。
売り上げ減少が続いていた斗山(ドゥサン)重工業も窮地に追いやられた。
同社は2月に希望退職者を募集。全社休業を検討するほどまで経営状態が悪化している。
同社が2020年に償還すべき社債は1兆2435億ウォン(約1100億円)で、4月の6000億ウォン(約530億円)を皮切りに6月までに保有資金の大部分を差し出さなければならない。
同社のキャッシュフロー創出能力を考えると、手に余る規模だ。
(韓国『中央日報エコノミスト』2020年3月30日号)
自動車、航空などを直撃、経済停滞は不可避に
韓国「中央日報エコノミスト」
2020/04/07 5:40
新型ウイルス肺炎が韓国でも拡大し、航空需要が激減している。写真は旅行客のいない韓国仁川空港
新型コロナウイルスが韓国の産業全般に深刻な被害を与えている。
製造業、サービス業を問わず、韓国国内産業のすべてに及んでいる。
今回の事態は、「2020年はV字型の景気回復」という年初の政府の期待を見事にへし折った。
延世大学経済学部のソン・テウン教授は「景気全般が悪化しているうえに、コロナウイルスで韓国の景気はさらに落ち込み始めた。
特に海外市場への依存度が高く、国際的なサプライチェーンにつながっている企業は厳しい。
雇用も悪化し、景気はさらに落ち込むだろう」と心配する。
自動車のサプライチェーンを寸断
今回の被害の代表例は、現代自動車グループだ。コロナの感染が広がり、世界的な供給網が崩壊したことで大打撃を受けている。今後は、自動車への需要減少も予想されている。
2020年3月19日、現代自動車の株価は終値で6万5900ウォン(約5780円)まで下落した。
これは、リーマンショック後、国際市場で本格的な成長を始めた2009年5月の水準に戻ったことになる。
起亜自動車、現代モービスなど、同グループの主力企業の株価も大きく下落している。
現代自動車の世界販売台数は10年ぶりの最低水準となった。
2020年2月の世界販売台数は23万5745台と、前年同期比10.2%減。
特に中国での販売が急減し、2月の販売台数は1007台にとどまった。
2019年2月は3万8017台だった。同期間、起亜自動車の販売台数も2万2031台から972台と減少。中国の現地工場の稼働は中断し、営業店舗も休業している。
世界の供給網が中断した影響はさらに広がっている。
車体に多様な電子部品を連結する「ワイヤリングハーネス」などを中国の工場から調達していたが、工場の稼働が数日間中断した。
これは現代自動車と起亜自動車だけでなく、ルノーサムスン、韓国GM、サンヨン(双龍)自動車も同じような影響を受けている。国際的な供給網の寸断が産業に悪影響を与えた代表例となった
幸いにも、中国の感染状況は収束段階に入ったようだ。韓国でもピークは過ぎたと見られている。
しかし、もう1つ別の問題が始まった。コロナウイルスの感染者が、これら企業にとって最大の輸出市場であるアメリカとヨーロッパに広がり、現地での需要が減少しそうなのだ。
2020年1~3月は中国市場の沈滞とサプライチェーンの崩壊で厳しい結果だった。4~6月はアメリカとヨーロッパにおける販売に赤信号が灯り始めた。
欧米の需要減退は避けられない
2020年2月の現代自動車の販売実績は、北米とヨーロッパで持ちこたえ、大幅な業績悪化を避けることができた。
2017年にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備に中国が反発し、韓国に対して報復措置を行ってから、同社は欧米での販売に注力した。
その結果、2019年の現代自動車グループ全体の売上高で北米とヨーロッパが占める割合は51.7%に達した。
韓国投資証券のキム・ジンウ研究員は、「世界の主要自動車メーカーが欧米に持つ工場の稼働が相次いで止まっている。その分、景気も悪化し、需要減退は避けられない」と分析する。
アメリカにある現代自動車のアラバマ工場では、従業員1人が新型コロナウイルス感染症の陽性と診断され、3月18日午前から稼働を停止している。
ヨーロッパでも工場の稼働が中断する可能性がある。同社のチェコ工場の労働組合は14日間の操業中断と防疫の徹底を要求しているという。
完成車メーカーの危機は、そのまま自動車部品業界にとっての危機でもある。
韓国2位の自動車部品メーカーであるマンド社は最近、製造職社員を対象に希望退職を募った。
さらに社内のジョブシェアリング(循環休業、雇用者を解雇させることなく、雇用者が順番に休業すること)を推進するという。自動車販売の不振が続けば、工場の稼働率はさらに下がると考えた末の決定だ。
同社が製造職で希望退職に踏み切ったのは2008年以来のことだ。
バッテリーメーカーや鉄鋼メーカーの危機感は大きい。世界的な自動車の販売不振が広がり、2020年の上半期の業績悪化は避けられないという。
SKイノベーションとLG化学、サムスンSDIなど韓国のバッテリーシェル生産企業3社は、欧米などに生産拠点を置いており、工場の稼働中断というリスクも抱えるようになった。
この数年間、業績悪化に苦しんできた造船業界もまた、先行きが暗くなった。韓国造船海洋は最近、「世界経済の影響を直接受けており、最悪の状況に備えるほかない。年初に立案した2020年の受注や事業目標と経営計画を全面的に再検討する必要がある」と社員に訴えた。
韓国経済の主軸である半導体産業は、販売といった直接的な被害よりは、市況の回復局面が鈍ることを心配している。
急激な下降局面が続いた2019年の状況から抜け出し、2020年は年初から回復すると思われていたが、その回復時期はさらに遅くなる可能性が出てきた。
旅行需要はほぼ消えてなくなった
旅行業界と航空業界は需要がほぼなくなったと言っても過言ではない。
韓国航空協会は2020年上半期の韓国航空会社8社の売上高が、少なくとも5兆0875億ウォン(約4500億円)減少すると見ている。2月の国際線旅客数は前年同月比で47%減少し、3月はこれよりさらに悪化するのは確実だ。
仁川国際空港によると、3月1日~15日の間に同空港を利用した乗客は41万7009人(出入国合計)で、前年同期比で85.2%も減少した。3月11日の利用客数は1万0522人に落ち込み、1万人割れが目前となっている。
同空港の利用客数がもっとも少なかったのは、SARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大がピークとなった2003年5月20日の2万6773人だった。
2017年はTHAADによる中韓対立のあおりを受けて旅客数が減少。
2019年は日韓貿易対立の影響を受けていた。
航空業界は今回、コロナウイルスにより最悪の危機を迎え、現状は「生き残りをかけて耐える時期」と言われている。営業活動が事実上中断した状況で、固定費の支出に耐え、事態の収束を待つほかない状態だ。
航空会社は職員らの有給・無給休職を実施した。大韓航空は客室乗務員を対象に無給休職を呼びかけ、アシアナ航空も全職員が10日間の無給休職を実施した。
LCC(格安航空会社)6社もまた、有給・無給休職か短縮勤務を実施している。
航空業界の全職員約4万人の20%ほどが休職しているとされている。さらに、これまで慢性的な人不足に悩んでいたパイロット(約300人)を対象に、無給休暇の申請を受け付けている。例えばイースター航空のパイロット労働組合は、経営危機の克服と苦痛の分担を目的に、賃金の25%を自主返却すると会社側に提案した。
旅行業界では倒産企業が続出
最大の問題は、この先いつまで我慢すればよいのかわからないということだ。2003年のSARSや2015年のMERS(中東呼吸器症候群)のときを振り返れば、感染症は2~3カ月間は航空需要に大打撃を与え、その後需要回復までに最長6カ月が必要だった。
今回の新型コロナウイルスが小康状態に入ったと言っても、少なくとも2020年の上半期までは現在の状況が続く可能性が高い。
そのため、2020年いっぱいは耐える必要がありそうだ。世宗大学経営学部のファン・ヨンシク教授は、「無給休職などで固定費を圧縮しても、その金額は航空機のリースと追加費用より少ない。
グループ内の親会社から現金支援を受けられない航空会社は、危機を乗り越えることは簡単ではないだろう」と言う。
旅行業界は、航空業界よりもさらに深刻だ。
休業どころかすでに倒産する企業も続出している。1月20日から3月13日までに廃業した韓国内外の一般旅行会社は56社との調査結果もある。
ソウル市内中心部の大型ホテルが相次いで臨時休業に入り、外国人の団体観光客が主な顧客だったこれらホテルは、最長で4月末まで営業を中断する。
一方で、石油化学業界は原油価格の下落に苦しんでいる
。韓国最大手のエスオイル社は1976年の創業以降としては初めて、希望退職者の募集を検討している。
新型コロナウイルスの影響ではないが、すでにこれまでの経営難で体力が落ちている企業も、今回の事態で崖っぷちに追い込まれている。
例えば韓国5位の海運業である興亜(フンア)海運が、ついに債権者団の共同管理を申請した。
申請に追い込まれたのはコロナウイルスが主な理由ではない。同社はこれまで、東南アジア航路の船舶過剰供給でコンテナ市況が悪化し、2016年以降の業績が悪化していた。
これまで資産売却などを繰り返していたが、改善効果は得られずにいた。
売り上げ減少が続いていた斗山(ドゥサン)重工業も窮地に追いやられた。
同社は2月に希望退職者を募集。全社休業を検討するほどまで経営状態が悪化している。
同社が2020年に償還すべき社債は1兆2435億ウォン(約1100億円)で、4月の6000億ウォン(約530億円)を皮切りに6月までに保有資金の大部分を差し出さなければならない。
同社のキャッシュフロー創出能力を考えると、手に余る規模だ。
(韓国『中央日報エコノミスト』2020年3月30日号)
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