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とおのく


足し算は
増えつづけるので
努力や積みかさねと
相性がいい

引き算は
減ったかわりに
望むものはやって来ず
マイナスだけが染みつく

採点ノートは
花マルだったのに
もうだれも
教えてくれない

ひとりでは
かけ算もわり算も
必要がなく
足し算と引き算で
充足する日々

答えのない問いには
ふれたくない日々

古代人には
ゼロやマイナスの数字は
ありませんでした
というラジオからの話しに
きき耳をたてた

                    「群馬年間詩集No44」2021.11.13
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アンドロメダ


ぼくは
月よりもとおく
はるか向こう
アンドロメダじゃないか
ってときどき思う

ずっとたどり着けない
いくつもの場所が
近くにもあるが
たどり着けないってことでは
どちらも同じさ

欲しいものを
あれこれと並べて
突っついてみる
するりと通りぬけて
重力の向こう

なにもない

見えない粒子が
ひそめいている
暗黒から
語りかけてくる
聴いてごらん

あの星は
だれも抱かない
人がヒトをなぞり
透けている
貴女を見つけられない

アンドロメダよ
どこへ行く
生と死が
皮膚をつたって
輪舞する

                              2021「詩と思想詩人集」
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街頭演説会


引きこもった室から
冬まだはやい街へ出る
高崎駅前の高層化に
浮かれ気味とすこしの戸惑い

向かうところは
ネットで知った街頭演説会
重度障害者二人を議員に
国政政党になったばかり

「頑張らなくても良い社会を!」

気づかぬ思いが
夢にたなびき
聴衆の吐息とともに
ネオンを渡っていく

「生きてるだけで価値がある!」

沈黙の羊たちよ
抹消された哀しみよ
福祉は顔々を同じにし
そぐわぬ合理性に
一縷の希望が点灯する

幸せよ 来い
みんなに 来い
俺に 来い
こころの中で呟き
ふたたび冬の街へ

                 「群馬年間詩集No43」2020.11.14
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中空授業


雲間が開くと
みんな着席していた
おくれて先生があらわれた
自己紹介がはじまった

ずいぶんと年月が経ち
顔と名前がズレている
変わりばえのない僕を
覚えているだろうか

背の丸い先生は
羊皮紙を配った
ぶ厚い教科書は不要らしい
とたんにさわさわした

えーと、
この前のつづきから
と冗談めいた
ふることをくだり
千年の奇跡を疑った

可笑しなものだな年月って
姿も気持ちも変えてしまう

コノハナサクヤ
秋空と枯葉がまぐわって
宝石にゆらめく枠飾り

にぎやかな森には
もう戻れないみたいだ
いつのまにか伽藍堂

さようなら
次回までは復習をやっておきます

                  個人詩誌「風の中へ」第1号 2020.12.10
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歩行


歩きつづける
跳んだり蹴ったり
でんぐり返ったり
そんな柔らかさと併せて
戻らなくていい旅を
想像しながら
近くをうろうろ

迷いあぐねて
電動車いすのパンフ
女は顔をしかめ
とりつくしまもない
じっと視姦し
帰り道は
黄昏のイエローロード

梢は風でゆれるのに
意思をなぜ問うのか
助け合いとは
と歩行しながら考える

           2020.9「詩と思想」
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ささやかな抵抗


心がやさぐれたときには
やさしい言葉を紡ごう
自らを癒やすために
ふくよかな物語を詠う

そのことによって
救われるのなら
生きる力になるのなら
多くの人にも意味がある

想いを届けよう
どんな歪みでも
求心力に変えて

決められた科白は
その軽さに耐えられず
嫉妬となり
憎しみとなる

身の置き所に迷い
草木をうらやみ
粗野にひかれ
ない物ねだりをする

ならば詩を書くのは
想いつづける男女の営みや
誇りたかき
人間の暮らしに心打たれ
こう在りたいと願う
真実への渇望に応えること

言葉への
抱擁と服従によって

                   2020「詩と思想詩人集」
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左右の関係


左がゆれると
 右はふるえる

左が上がると
 右は下がる

左が前方にすべると
 右は後ずさりする

左が回転すると
 右もそれについていく

いつも左と右は
反対か似た動作を
一拍おくれてくり返す
止むことがない

ぼくはそれを眺めながら
滑稽やら
惨めやら
不安になるやら
                
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ある迷い

アドレス帳は
過去から現在までの
大切な出会い

つながる
つながらない
つなぎたくない

不定期なやりとりも
こちらからは
ただ待つだけの

増えも減りもせず
いつかもしかのときにと
放置してきたけれど

ちらちらと
切り抜かれた想い出が
スクロールされて

誤ってタップしたら
勘違いだったなんてことも
ありそうだし

意外にあっけなく
消えるときまで
このままにしておこうか
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足音のおと


留守番で
まつ母のおと
屋根裏のネズミ
鬼ごっこの
かけ足がきこえる

予感をつれて
おとづれる
季節のうつろい
初めてのパ・ド・ドゥ

野良猫が
雨どいをわたると
新しい革靴が
マンハッタンから
ちかづく

地球は
足音で溢れている

いつからか
翳りをしのばせて
こびりつく
離れそうもないおと

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異物


その文字の意志は
遙かからだった
記号のようであり
うずまく原始の
線刻画だった

削り塗られた今昔を
指でなぞれば
太古への焦がれ
しのびよる怖れ

学者たちは
いくつもの解釈を推し量るが
分類できない感情と
ならべられない法則に
ただ深遠と黙した

ワタシタチノ
カンセイ
ルールヲタヨッテ
カスンデイル

打ち上げられた
数千行の謎は
歴史から抹消された
食卓では
秒針に刻まれている

             2019.10「詩と思想」
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