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大切なもの


 街頭インタビューで「あなたの大切なものは?」と聞かれたら、なんて答えるだろうか。家族や時間、あるいは平和だろうか。深く考えたことがないので、その場の思いつきで答えてしまいそうだ。「分からない」では軽薄な人間に思われそうなので、取りあえず何か答える用意はしておきたい。
 そう思って見わたすと、私の大切なものは、一冊の写真アルバムである。四十年間に出会った仲間(すでに他界した人も含めて)との思い出が詰まっている。これが火事や泥棒で失われたらガッカリすると思う。でも本当に大切かどうかは、よく分からない。
 私はよく「自分を大切にしなさい」と生活や創作面で言われてきた。ただ自分で言うには良いが、他人から言われると何か無責任に感じられる。自信を持て、頑張れ、意思を持てなど、色々な意味で言っているのだろうが、そんなに自分に負荷を与えてどうするのかと思う。他人のことは一生懸命になれても、自分のことは案外いい加減だ。「医者の不養生」と言うではないか。
「大切なもの」などあったら鬱陶しい。切るという語が使われている。そう思って調べてみると、やはり刃で切るという意。親切・切望・切迫・切断など、語の組み合わせで意味が変わる。共通するのは心や想いが含まれているらしいこと。といって愛や優しさでは、こそばゆい。やはり生活にはお金が大切だ。病気になれば健康の大切さを思い、温暖化の加速を聞けば、自然の大切さを思う。相対的に大切なものは変わってくるようだ。
 喜劇俳優のチャップリンは「人生に必要なのは勇気と想像力と、ほんの少しのお金である」※と言っている。 後半の〝ほんの少しのお金〟のリアリティがあるから、勇気や想像力にも説得力が感じられると思う。必要を大切と言い替えてなお、私の好きな言葉である。
「○○を大切にしよう」などと啓蒙的に使われることもある。私はなにか一つのことに決めかねてしまう。目の前のものすべてを大切にしたいとも思う。そう模範解答でごまかすしかないくらい、大切なものは言葉に表しづらく、えらぶには難しい深いもののようにも思われる。


※映画「ライムライト」での台詞

                                個人詩誌「風の中へ」第2号 2021.10.8

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とおのく


足し算は
増えつづけるので
努力や積みかさねと
相性がいい

引き算は
減ったかわりに
望むものはやって来ず
マイナスだけが染みつく

採点ノートは
花マルだったのに
もうだれも
教えてくれない

ひとりでは
かけ算もわり算も
必要がなく
足し算と引き算で
充足する日々

答えのない問いには
ふれたくない日々

古代人には
ゼロやマイナスの数字は
ありませんでした
というラジオからの話しに
きき耳をたてた

                    「群馬年間詩集No44」2021.11.13
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