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達磨寺の鐘


少林山達磨寺のだるま市には
寒風を村人たちがてんでに出かける
幾重にも着込んだ姿は
福を願う気持ちで溢れている

女は狭い石段を踏みしめた
ぼくは背に負ぶわれて
肩と毛糸帽のすき間から覗いた
朱色に照らされた
だるまや風車が回っている
女が立ち止まり躰をかがめると
ぼくはトンと背を叩いた

広い境内の腰かけに降りると
軒先の電球が無数にまぶしく
人だかりはシルエットだけだった
女は甘酒の椀にフーッと息を吹き
ぼくの口元にあてた
水滴が白霧となってすべてを包んだ
それからぼくの両手に椀を持たせ
待っててと言った

冬は何度もくり返した
ぼくは待ちくたびれて独り
家に帰るしかなかった
嘘だったのだろうか
ある日 玄関の開く音がして
ひょっこり現れるのではないだろうか

小学三年生のときに見た
墓石に刻まれた姉の名前
白い夢から醒めると
脱け殻の分身とベッドに横たわった
達磨寺の鐘が深い闇に
変わらずに鳴り響いている  
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