4月7日、ツイッターに「御仲間からまわってきました。ロイヤルリムジン全員解雇のお知らせ」というメッセージと共に「ロイヤルリムジングループ社員の皆様へ」というロイヤルリムジン代表取締役・金子健作氏の署名入り書面を掲載した人がいた。
文面には、「混乱の中少しでも早く、皆様が円滑に失業手当をもらえるために決断した次第です。また、政府からの30万円の給付金もしかりです。タクシー事業の休業補償は歩合給と残業の給与体系のため、失業手当よりも不利なためこの選択をしました」と乗務員を解雇する理由を説明、「完全復旧した暁には、みんな全員にもう一度集まっていただき、今まで以上に良い会社を作っていきたいと思います」と復旧後の再雇用を約束している。
このタクシー会社は、都内で5社、神戸に2社(1社は先日買収したばかり)をグループ会社として擁しており、2008年に設立された新規参入、業界内ではアウトロー的でありあまり評判がよろしくない会社だ。
新型コロナウィルスで売上が大幅に低迷したために、従業員のことを考えて、運転手・事務員600名以上の全員解雇を決断したという。
「売上が低迷して、完全歩合給である賃金が低くなり、それなら失業手当の方がお得でしょ」とこの社長は説明しているが、東京都の最低賃金は、時給額1,013円なので、8時間労働で換算すれば、8,104円、会社は労働者を働かせた場合、完全歩合給であっても最低限この金額は支払わなくてはいけないし、時間外労働があったら当然割増手当を加算する。
一方、失業手当(基本手当)は、45歳以上60歳未満の場合、8,330円が上限(30歳以上45歳未満7,570円、60歳以上65歳未満7,150円)なので、必ずしも失業手当の方が有利ではない。
「タクシー事業の休業補償は歩合給と残業の給与体系のため、失業手当よりも不利なため」というが、タクシー事業だから休業補償(正確には労基法第76条の「休業補償」ではなく、第26条の「休業手当」を言っているのだが)を他の職種と違った計算をするわけではなく、労基法通り、平均賃金の60%以上。
なおかつ、あくまでも法で定められた最低が60%であって、ほんとうに社員のことを思っているなら100%支払ってもいっこうに差し支えがない。
どうせこの会社は、労基法第27条で定められた「出来高払制の保障給」も支払う気がないのだろう。
さて今回は「即時解雇」である。
なので、労基法第20条で定められた、平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を、会社は支払わなければならないが、当該会社の従業員からの情報では「支払ってくれない、どうなっているのかと聞いてもなしのつぶて」だそうだ。
また、労基法第22条で定められた「退職時の証明」を請求しているが、今のところ、知らん顔だそうだ。
今回の「解雇」は有効かどうか。
労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされている。
この会社のグループ会社の中に、一つだけ労働組合のある会社があるそうだが、その労組は、「不当解雇」として争う姿勢だと聞く。
今回の新型コロナの影響による経営不振が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」のかどうかが問題となる。
経営不振や事業縮小など、使用者側の事情による人員削減のための解雇を「整理解雇」といい、これを行うためには原則として、過去の労働判例から確立された4つの要件(1.人員整理の必要性 2.解雇回避努力義務の履行 3.被解雇者選定の合理性 4.解雇手続の妥当性)が充たされていなければならないが(整理解雇の四要件)、少なくてもこのケースでは、まったく満たしていないと思われる。
「混乱の中少しでも早く、皆様が円滑に失業手当をもらえるために決断した次第です。」と会社は言っているが、退職した従業員が、失業保険(休業給付)を貰えるかについても、疑問がある。
「完全復旧した暁には、みんな全員にもう一度集まっていただき、今まで以上に良い会社を作っていきたいと思います」と復旧後の再雇用を約束しているからだ。(公表してしまっている)
この点について、東京労働局職業安定部の担当者は「雇用保険の受給資格を有する方の定義は、現に元の会社と雇用に関する契約が完全に失効していて『積極的に求職活動をし、いつでも就職可能』な環境にある方を指します。元の会社に早期に戻ることが約束された状態では、そもそもこの受給資格を満たしていません。ただ一度、受給資格が決定した後に、『他の会社に対して求職活動を行ったが、本人の意志で元の会社に戻った』ということであれば判断は難しいでしょう。ただ悪質な場合は不正受給と見られる可能性もあります。報道の内容が事実だとすれば、雇用保険の主旨にはそぐわないと思います」と指摘している。
ところで、まだ正確かどうか未確認だが、会社は一部の労働者については、「そもそも雇用保険の被保険者にしていない」という話しも漏れ聞こえてきているが、そうならば、失業の認定を受けられないじゃないか。
この会社は、なぜ新型コロナで特例措置が大幅に拡大された「雇用調整助成金」を受給して、雇用の維持を図ろうとしないのか。
この会社の従業員は、「日頃より法令遵守意識が低く、労働法など法令違反が多いから、申請しても貰えないと判断したのではないか」と言っているそうだ。
なので、売り上げを稼いでこない運転手のために、法定最低賃金を支払い、休ませて休業手当を支払い、その上で社会保険料の事業主負担分を支払うなんてもってのほかだと思っているのではないか。
ちなみに社長は、不動産収入などで細々と暮らしを維持するそうだ。
こんな経営者を、会社を、美談のように取り上げるのは止めていただきたい!
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