よしーの世界

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日の名残り   カズオ・イシグロ

2021-07-26 06:41:29 | 
私はベストセラーとか、賞を取ったものを読むことが殆どありません。たまたまブックオフで格安だ

ったので購入しましたが、本当に楽しめる小説でした。イギリスの大きな館の執事の一人語りという

手法で、主人公の執事が数日の休暇に現在の主人(アメリカ人)の勧めで主人の車を借りてドライブ

に出かける道すがら、過去を回想する記述はイギリスの上品な言葉使いで一貫しており実に美しい。


ドライブ旅行は大きな事件に巻き込まれることもないが、イギリスの風景が目の前に広がるようで文

章が巧みだ。そういえば主人公に関しても、他の登場人物も容姿についての特徴的な記載がないが想

像が膨らむように書かれていて興味深い。


さらに主人公の記憶から物語は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の狭間で揺れ動くイギリスとヨ

ーロッパ主要国、そしてアメリカの関係が浮かび上がり、敬愛している主人公の使える当時の館の主

人の行状までが明らかになっていく。本当に読みやすい文章ながら展開が計算されつくしていて、静

かに読者にしみこむように訴えかけてくる。


主人公の執事は完璧に仕事をこなし、世界の動きの中心に関わっていることに誇りを持っていたつも

りが、述懐していくうちに綻びを見せていくところに深い哀しみを感じる。それでもラスト桟橋のベ

ンチに座り、隣り合わせた男に「夕方が一日でいちばんいい時間なんだ」と諭され自分を取り戻して

いくところは泣けた。アンソニー・ホプキンス主演の映画も観たいと思った。


日の名残り           カズオ・イシグロ         早川文庫
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