著者は高校在学時に「まちづくり事業」に取り組み始めています。大学卒業後も一貫してまちづくり事業を続け
ており、過去に体験した様々なことを書いて「稼ぐまちが地方を変える」を出版し、私も読み感銘を受けました。
本書では地方再生が叫ばれて数年経ち、莫大な予算が投入されながら、地域はますます衰退している現状に対し
て「まちづくり幻想」があると著者は指摘しています。
冒頭、他の地域の成功例などわかりやすい答えを求め、自分は何一つ失敗せず、他人の金を使ってやれることは
ないか、ということを「思考の土台」に持っている限り失敗が続くという指摘には目からうろこです。成功する
人たちは自分たちで考え、自分たちのお金の範囲で失敗を繰り返し、改善を続けるという言葉に納得しました。
パソナの淡路島進出が評価されることに疑問(詳細は本書)を呈し、対照的な好例として北海道を中心に展開す
るドラッグストアチェーンの「サツドラホールディングス」を紹介してます。同社では「副業解禁」をし、本社
・コワーキングオフィス・店舗を複合化した拠点を札幌市内に設け、道外企業とのコラボし商品開発をするとい
う成果を挙げ、優秀な人材が集まっているそうです。
また、熊本県の「シークルーズ」という定期船舶や観光船、マリーナを経営する中小企業は閑散期を利用して、
従業員に長期間の休みをとらせると共に、常に付加価値の高いサービスを提供し、地域でナンバーワンの単価を
とる観光船を作り出し、都内を始め地域の有名大学から男女ともに就職希望者が集まる例もあると述べています。
著者は自己犠牲の地域事業をやめようと説き、初めての事業の四つの原則として①負債を伴う設備投資がないこ
と、②在庫がないこと、③粗利率が高いこと(8割程度)、④営業ルートが明確なことを列挙しています。
私たちは日本の諸問題(大きな問題から小さな問題まで)に関して、あまりにも他人事のような、気が付いても
見て見ぬふりをして過ごしてきてしまった気がする。そして問題を自らしっかり考察することなく、マスコミを
通して簡単に白黒つけてきてしまった。もっと身近な問題から主体的に考え、取り組む必要性を感じました。
まちづくり幻想 木下斉 SB新書