私が六本木の近くにある会社に勤めていた時に、米軍の大型ヘリコプターを上空によく見ました。かなり
大きな音で大迫力でしたが、何故東京のど真ん中に?と疑問に思っていましたが本書を読んで納得。日本
の空は全て米軍に支配されているんですね。以前この事を知った時には違和感だけが先行していましたが、
本書を読んで目から鱗が落ちました。これから自衛隊を或いは在日米軍を考える上で「横田空域」「岩国
空域」「嘉手納空域」の存在は避けて通れない問題です。
日本には国境が存在しないのです。国民がどう思うが、総理が何を言おうが、日米合同委員会において米
軍と日本の官僚の間で取り決められているのです。これは日本の国会や憲法よりも上位にあるのです。こ
の事については「極めて異常なものです」とアメリカのスナイダー駐日公使が1972年に駐日大使に報
告しています。
「米軍を国内およびその周辺に配備する権利」を与える条約は日本と韓国と台湾だけが結んでいます。日
本は戦争に負けたからということもありますが、同じような境遇の他国は違います。例えばイラクでは敗
戦後アメリカとの交渉で110か所も訂正を求め「イラクに駐留する米軍が、イラクの国境を越えて周辺
国を攻撃することを禁じるという条文を、新たに加えています。
日本の軍事面における極端な対米従属構造は朝鮮戦争にあったと著者は指摘します。朝鮮戦争において危
機に陥った米軍は、戦争放棄させた日本に警察予備隊を結成させ、朝鮮半島へ出撃した米軍に代わって基
地を守らせ、さらに1952年に吉田首相と「戦争になったら自衛隊は米軍の指揮のもとで戦う」密約を
結んでいるのです。これは70年経っても有効で、アメリカのライス元国務長官でさえ「日本はアメリカ
政府ではなく、軍部にずっと植民地支配されている、一体どうなっているんだ」と疑問を呈しています。
このダブルスタンダードはアメリカにとっても非常に危険です。軍が世界の警察として政府に代わって他
国と交渉していくので様々な国と軋轢を生み、過去に押しかけていっては失敗を繰り返し撤退を余儀なく
されています。そのことによってアメリカ自身の存在感が薄れ、世界を混乱に陥れている現状があります。
今、アメリカも変わろうとしています。あれだけ非難をしていても、中国に要人を次々に訪れさせ協議を
重ねるニュースを見ましたが、日本もカネをばらまくだけではなく(残念ながら殆ど影響がない)、大き
な視野を持ち世界を見据えた外交努力が必要です。
知ってはいけない 矢部宏治 講談社現代新書