2020年6月17日、 欧州連合理事会リリース「金融調査:理事会は重大かつ組織的な犯罪との戦いのさらなる改善を要求」すなわち、同理事会は6月17日、「重大かつ組織的な犯罪と戦うための金融調査の強化に関する結論(Council conclusions on enhancing financial investigations to fight serious and organised crime)」を承認した。
今回の欧州委員会に対する理事会決議はEUだけでなくEUROPOLなどを中心とする金融調査機能の強化を目指すものである。EU内の組織犯罪の収益は年間1,100億ユーロ(約13兆2,264億円)に達しており、没収率は非常に低いままであるという現状認識と、金融調査はEUが組織犯罪やテロを防止し、これと闘う上で最も重要であるという認識から始まっている。
今回のブログは、理事会のリリース等を中心に、重要な問題でありながら、わが国ではほとんど言及されていないEUROPOLやEUの関係機関の具体的かつ最新の動きを正確に理解すべくまとめるものである。
また、2020.6.19の「Council of the EU calls for better response against serious and organised crime」は、別の観点からこの問題を論いている。その内容は、理事会のリリース文とほぼ同一であり、本ブログではあえて取り上げないが、一方、アリーン・ドゥサン氏は英国とEUのBriex貿易協定交渉のトップの専門家である。本年3月4日、在英フランス商工会議所(French Chamber of Commerce in Great Britain)のインタヴュー記事「 Trade Partner at the law firm Hogan Lovells, provides an outline of what we might expect from the Brexit trade negotiations」を読んで理解が進んだ。大手法律事務所Hogan Lovellsの貿易問題パートナーであるアリーン・ドゥサン氏が、EU離脱貿易交渉に期待できることの概要を説明した。参考になるので、参考的に最後に3.で取り上げる。
1.欧州連合理事会は欧州委員会に次のことの具体的検討を要求するとともに加盟国に対する要求内容
結論として、欧州連合理事会は欧州委員会に次のことの具体的検討を要求した。
① 凍結の可能性がある資産の管理に関する法的枠組みの強化を検討し、その後の没収の可能性を考慮・検討する。
② 金融情報へのアクセスを促進し、国境を越えた協力を促進する、全国的な中央銀行口座登録を相互接続するために、法的枠組みをさらに強化することを検討する。
③ 金融インテリジェンス・ユニット(FIU)(注1)の作業の特定の側面をさらに適応させて、より効率的な情報交換を可能にするかどうかを検討する。
④ EUレベルでの現金支払いに関する法的制限の必要性に関する加盟国との議論に再度取り組む。
⑤ 仮想資産の法的枠組みをさらに改善する必要性を検討する。
また、欧州連合理事会は加盟国に対し、協力を強化し、EUの組織犯罪の政策サイクルにおける水平的優先事項としての金融調査-EMPACTが組織犯罪に関するあらゆる種類の犯罪捜査の一部となることを確実にするよう要請する。 ユーロポールに、2020年6月5日に新しく設立された「欧州金融経済犯罪センター(European Financial and Economic Crime Centre:EFECC)」の可能性を最大限に活用するよう呼びかけている。
推定によると、EU内の組織犯罪の収益は年間1,100億ユーロ(約13兆2,264億円)に達しており、没収率は非常に低いままである。 したがって、金融調査は、EUが組織犯罪やテロを防止し、これと闘う上で最も重要である。近年、EUは、マネーロンダリングとテロ資金供与に対抗するため、ならびに法執行当局が金融情報にアクセスするための法的枠組みを大幅に強化しているが、それにもかかわらず、さらなる改善が検討される場合がある。
2.EUのEMPACT等の概要
(1) わが国ではくわしい解説は皆無である。EUROPOLのEMPACTサイトを引用、仮訳する。
2010年、EUは深刻な国際犯罪および組織犯罪との闘いの継続性をさらに高めるために、4年間の政策サイクルを設定した。この政策は以下の間での効果的な協力を要求している。
① EUの法執行機関
② 他のEU機関
③ EU機関
④ 関連する第三者。
そのために、EUが直面している最も差し迫った犯罪の脅威を標的とする強力な行動も求められている。
2017年3月27日、欧州連合理事会は、2018年から2021年の間、組織化された重大な国際犯罪に対するEU政策サイクルを継続することを決定した。この多年に及ぶ政策サイクルは、加盟国、EU機関、EU機関、および関連する民間セクターを含む第三国および組織との協力を改善し、強化することにより、一貫した方法論的方法でEUに対する組織的かつ重大な国際犯罪がもたらす最も重要な脅威に取り組むことを目的としている。
EU理事会は、2017年5月18日の会議で、2018年から2021年の組織的で重大かつ国際犯罪との闘いに関する次の優先事項を採択した。
(2) EUROPOLのサイトからEUの重大かつ組織化された犯罪脅威評価に関するEUの4つの政策ステップ・サイクルの概要の解説を以下で引用、仮訳する。
ステップ1: The serious and organised crime threat assessment (SOCTA)
Europolによって開発された「組織犯罪の脅威アセスメント手法(SOCTA)」は、EUが直面している主要な犯罪の脅威の詳細な分析に基づく一連の推奨事項で構成されている。これらに基づいて、EUの司法・内務理事会(Council of Justice and Home Affairs Ministers)は、2018年から2021年まで続く最初の政策サイクルの優先順位を以下のとおり、定義した。
ステップ 2: Strategic plans
Europolは、各脅威と戦うための戦略的目標を定義するために、ステップ1で定義された優先順位に基づいて複数年にわたる戦略的計画(multi-annual strategic plans :MASPs)を開発した。
ステップ3:犯罪の脅威に対するヨーロッパ学際的プラットフォーム(European multidisciplinary platform against criminal threats :EMPACT)の設置
EMPACTに基づくプロジェクトは、EMPACTの優先順位として知られているものが割り当てられているエリアでの犯罪と闘うための運用アクションプラン(operational action plans :OAP)を設置した。
ステップ4:評価(Evaluation)
OAPに関する情報は、その安全なシステムであるSIENA (注2)を介してEuropolに送られ、分析される。これらの調査から得られた情報は、EUの内部安全保障に関する運用協力常任委員会(Standing Committee on Operational Cooperation on Internal Security :COSI)によるレビューに情報を提供する。このレビューは、特に、EMPACTの優先領域での犯罪に取り組むための取り組みを評価する、Europolの重大かつ組織化された犯罪脅威評価(Serious and Organised Crime Threat Assessments :SOCTAs)に基づいて行われる。 そのレビューに基づいて、COSIは1つのエリアと別のエリア内の調整を推奨する場合がある。
3.Hogan Lovells LLPのLondon& Paris Partnerであるアリーン・ドゥサン弁護士(Aline Doussin)のインタヴュー記事「Trade Partner at the law firm Hogan Lovells, provides an outline of what we might expect from the Brexit trade negotiations」の概要の仮訳
Aline Doussin氏
(1) 貿易交渉の初めに、双方(英国とEU)の優先事項は何か?
英国とEUは、ルールの収束により、独自の立場から交渉を開始する。しかし、2020年2月の第1週に発行されたEU関係に関するボリス・ジョンソン首相のビジョンから、英国政府は、ルールに関する「高度な調整」を含む貿易協定および欧州司法裁判所の役割を拒否すると述べた。
結局のところ、英国は、EUの内部市場にどれだけ近づきたいか、結果として受け入れる義務について、基本的な選択を下すことはできないであろう。英国はEUの提案をもう少し厳しくすることができるかもしれない。ただし、交換取引(trade off)を行うための準備が必要である。アクセスと調整を高くすることで混乱を最小限に抑えることができるが、自由な移動と超国家的な制度の役割という形で難しい政治的義務をもたらす可能性がある。
(2)この段階での英国のプロセスはどのようになると思うか?
英国は、「伝統的な」貿易協定の構造を持ち、すなわち交渉権は行政機関に与えられ、協定草案は議会によって承認される。貿易協定の義務または優先順位がどのように合意されるかについては、現時点では何も示されていない。これは、2020年2月の最初の週に明らかになる。英国の国際通商省(DIT)が重要な役割を果たすことを期待しているが、首相府(No 10) (注3)または内閣府での集中型アプローチが必要になる。交渉協定の各条項(または章)には、専門の政府部門に多大な情報とリードが必要である。たとえば、財務省(HM Treasury)は、金融サービスに関連するすべてのものを検討する必要がある。
(3)英国とEU協定の構造はどのようなものになるか?
政治宣言(Revised text of the Political Declaration)(2019年10月17日に改訂) (注4)は交渉のベースラインを私たちに与える。英国とEUの両当事者は、野心的で幅広いバランスのとれた経済的パートナーシップを想定している。このパートナーシップは包括的であり、関税、手数料、料金、またはすべての商品セクター(農業食品を含む)にわたる量的制限なしに、自由貿易協定を含み、適切なそれに伴う原産地規則を尊重する。それが単一の包括的な合意なのか、それとも並行して交渉される一連の別々の合意なのかはまだわからない。ここには明確な答えはないが、このアプローチは交渉の戦略に大きな影響を与える。
(4)2020年12月の交渉期限の実現可能性についてどう思うか。
これは、EUがこれまでに締結した最速の貿易交渉である。 EUが独占的責任を負う合意の領域は、欧州連合理事会が貿易協定を締結した時点で発効することができる。(「暫定適用(provisional application)」条項)。したがって、2020年を過ぎた英国とEUの将来の関係の形は、この段階ではまだ非常に不明であり、この困難なタイムテーブルのコンテキストで、取引不可のBrexitの可能性を捨てるべきではない。 EUと英国が2020年12月までに取引に合意できない場合、デフォルトの位置は移行期間の取引の有効期限切れのままであり、したがって、英国とEUの2つの国境の北アイルランドプロトコル、およびWTOとの貿易関係の条件に頼ることになる。貿易は今後の交渉の1つの要素にすぎず、市民の権利、防衛、安全保障協力などの他の問題も非常に重要であることは注目に値する。
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(注1) FIU(Financial Intelligence Unit)とは、マネー・ローンダリング情報の受理・分析・回付を行う単一の政府機関をいう。現在164か国が加盟。我が国は、2000年2月1日施行の「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)」(第5章)(疑わしい取引の届出」の諸規定)に基づき、金融庁に日本版FIUとして特定金融情報室が設置されたことを踏まえ、エグモント・グループ(Egmont Group)への加盟申請を行い、同年5月にパナマで開催された第8回会合において加盟が承認されました。なお、2007年4月の犯罪収益移転防止法の施行により、FIUの機能を国家公安委員会が担うことになったことに伴い、我が国は、同年5月にバミューダ諸島において開催された15回会合において、改めて、エグモント・グループへの加盟が承認されました。(警察庁 刑事局 組織犯罪対策部 組織犯罪対策企画課 犯罪収益移転防止対策室サイトから引用。リンクは筆者が独自に行った。)
なお、第5章「疑わしい取引の届出」の諸規定(同法54条~58条)が「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年法律第22号)(犯罪収益移転防止法)第8条に移された。また、2014年の犯罪収益移転防止法改正(平成26年法律第117号)により「疑わしい取引」の判断方法の規定整備がなされた。さらに、2017年の組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法改正(平成29年法律第67号。同年6月21日公布)では、第6条の2として共謀罪の処罰規定が新設された。(日本大百科全書から抜粋、正式名称やリンクなどは筆者が行った)
(注2) EUROPIOLの“Secure Information Exchange Network Application (SIENA)”につき、概要を説明する。
Europolのような情報交換を容易にし、それに依存する組織では、機密で制限されたデータを安全かつ迅速に送信することが不可欠である。Secure Information Exchange Network Application(SIENA)は、EUの法執行機関の通信ニーズを満たす最新のプラットフォームである。
このプラットフォームは、運用上および戦略上の犯罪関連情報を以下の間で迅速かつユーザーフレンドリーに交換できるようにするものである。
① Europolの連絡係、アナリスト、専門家
② EU加盟諸国
③ Europolが協力協定を結んでいる第三者
(注3) “No 10”の意味は何を指すのか。簡単である。Prime Minister's Office, 10 Downing Street
すなわち、ダウニング街10番地に首相官邸がある。
(注4) 2018.11.16の政治宣言の改定前の「英政府、EUとの将来関係に関する政治宣言の概要など公表(英国、EU)」の解説をJETROが行っている。
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