Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

米証券取引委員会の連邦地方裁判所判決に基づくTelegramおよび子会社によるデジタル・トークン(TON)に対する投資家への12億ドルの不当利得返還や1850万ドルの民事罰金等に関する和解が成立

2020-06-30 10:59:10 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者の手元に、米国証券取引委員会(SEC)から6月26日、インスタント・メッセージング・プラットホーム企業である「テレグラム・グループ(Telegram Group Inc(以下 「Telegram」ということ)) (注1)の未登録のデジタル・トークン(暗号化通貨;暗号資産)「グラム」の提供が連邦証券法に違反したという容疑を解決するために、「Telegram 」とその100%子会社であるTON(ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network))発行会社である「TON Issuer Inc.」との和解につき、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の承認を得たとするリリースが届いた。

 被告2社はデジタル・トークンにつき投資家に12億ドル(約1,284億円)以上を返還し、1,850万ドル(約19億8,000万円)の民事罰金を支払うことに合意したとのことである。

 この裁判は、関係者はわが国においても暗号化通貨に関係する者では大きく取りあげられているが、SECのリリース文も含めかならずしも法的に見た正確な内容とはいいがたい。

 したがって、筆者なりに1933年証券法の条文、判決文の原本の内容、和解内容、関連するTelegram Groupの実態などにつき解説を試みるものである。

 なお、この裁判については3月24日ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の仮差押え命令判決に続き、4月1日同連邦地方裁判所は、米国および外国のすべての事業体に対し、メッセンジャー・サービス企業のTelegramの独自の暗号通貨(暗号資産)「グラム(Grams)」をICO(注2)配布することを禁止するとの判断を下している。

1.2020.6.26 SEC緊急リリース「Telegram to Return $1.2 Billion to Investors and Pay $18.5 Million Penalty to Settle SEC Charges」の仮訳

 米国証券取引委員会は6月26日、Telegramの未登録のデジタル・トークン「グラム」の提供が連邦証券法の登録義務に違反したという容疑を解決するために、「Telegram 」とその100%子会社であるTON(ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network)).発行会社である「TON Issuer Inc 」との和解につきニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所裁判所の承認を得たと発表した。

 被告2社はデジタル・トークンにつき投資家に12億ドル以上を返還し、1,850万ドルの民事罰金を支払うこと等に合意した。

 2019年10月11日、SECはTelegram  に対し、約29億グラム(Grams)(TON独自のデジタル・トークン)を世界で171人の最初の購入者に売却して事業の資金調達資金を調達したと主張し、Telegramに対して1933年連邦証券法に違反したとして告発した。(注3)

 SECは、Telegramに対し1933年連邦証券法の登録要件に違反して提供され、販売された証券であると主張したグラムを提供することから、Telegramに予備的に裁判への参加を求めた。2020年3月24日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は、グラムの配達を禁止する予備的差し止め命令を出し、SECがTelegramの売り上げがグラムを二次公共市場に不法に配布するより大きな計画の一部であることを証明する実質的な可能性を示したことを明らかにした。

 SECの法執行部門のサイバーユニット(Chief of the SEC Enforcement Division's Cyber Unit.)の責任者である、クリスティーナ・リットマン(Kristina Littman)は、次のとおり述べた。

Kristina Littman氏

「新規および革新的なビジネスは、当社の資本市場に参加することを歓迎するが、連邦証券法の登録要件に違反して参加することはできない。今回の和解は、Telegramが投資家に資金を返還し、重大なペナルティを課すことを要求し、かつTelegramは将来のデジタル製品の通知を消費者等に与えることを要求するものである。」

 また、SECのニューヨーク地域事務所のアソシエイト・リージョナル・ディレクターであるララ・シャロフ・メフラバン(Lara Shalov Mehraban)は「SECの今回の緊急行動は、プロジェクトに関する完全な開示を提供することなく、未登録の提供で販売された証券で市場をあふれさせようとするTelegramの試みから個人投資家を保護しようとするもので、今回、我々が得た救済策は、投資家に大きな救済をもたらし、Telegramによる将来の違法な提供から個人投資家を保護するものである」と述べた。

 被告は、SECの訴状の申し立てを認めたり否定したりすることなく、1933年証券法第5条(a)および第5条(c)の登録規定に違反することに伴う最終的な判決の締結に同意した。判決は、被告に対し、グラム(Grams)の売却による不当な利益12億2,400万ドルを廃止するよう命じ、Telegramがグラムの最初の購入者に返済する金額のクレジットを持ち、Telegramに対し1,850万ドルの民事罰金を支払うように命じた。さらに、Telegramは今後3年間、デジタル資産(デジタル・トークン)の発行に参加する前にSECスタッフに通知することがさらに必要となった。

2.National Law Reviewレポートから抜粋

 3月24日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の裁判官ケビン・カステル(P. Kevin Castel)は小槌(Judge's Gavel)をたたき、Telegramが異論を唱えた17億ドルの最初の暗号通貨の調達行為(「ICO」)にこだわった。

P・ケビン・カステル氏

 同裁判官は、TONブロックチェーンで使用されるデジタル資産であるTelegramが計画したグラム(Grams)の配布行為は、1933年証券法に基づく証券募集を構成する可能性が高く、登録の免除を認めるべきではないと判断した。 また、判事は、米国証券取引委員会(SEC)に、当面のTelegramによるグラム・トークンの配布を妨げるための暫定的な差止め命令を付与した。

 同時に判事はTelegramの主張を否定し、「経済的現実は、Gram Purchase Agreementと、最初の購入者によるTON Blockchainを介した一般への予想されるGramの配布は、単一のスキームの一部である」と判断した。(この部分は20204.14National Law Review報告「Hanging on the Telephone: Judge Enters Order Blocking Telegram ICO」から一部抜粋、仮訳した)

3.連邦地裁の判決を受けたTelegramの動き

 Telegramは、2020年5月12日、CEOであるPavel Valerievich Durov氏自身が「What Was TON And Why It Is Over」と発言し(注4)、ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network)を放棄したと発表した。その背景には、2019年10月以降続いているSECとの訴訟問題による影響を受けての放棄といえよう。(注5) (注6)

 このCEOはIT時代の先行経営者かもしれないが、その発言内容はSECや裁判官を説得するには不十分であることは言うまでもない。単なる愚痴で一般投資家などを説得できる内容とは思えない内容であるが、逆に参考になると思われるので(注1-3)であえて全文を仮訳する。

 一方、今後今回の裁判を前例として今後同様のビジネスに対して、SECのチェックが行われることは明らかであるが、他方、わが国の暗号通貨や暗号資産の法的側面、金融面、監督面等からの検討は遅々として進んでいない。

 あえて、わが国において海外のICOの動向につき調査した資料としてあげるとすれば、2018.11.1 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第8回) 資料3、資料2であろう。また、同研究会の報告書「2018.12.21仮想通貨交換業等に関する研究会 報告書」(全38頁) も同様に参考になろう。

 筆者自身、このニュービジネスは「ITねずみ講」といってもおかしくないと考えているが、この議論は機会を改めたい。

4.2020.3.24判決文の原本探し

 普通に考えるのは、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の判決データベースで調べる方法であろう。しかし、同裁判所のリリース・データベースで検索してもヒットしない。

 前述したNational Law Review解説の最後に事件番号が記載されていたのでjustica .comで検索したところ、44頁にわたる判決原本に行きついた。同サイトは学生、研究者向けに網羅されており、有用なデ-タベースである。

5.1933年証券法の条文の正確に理解する方法

 1933年証券法第5条(a)および第5条(c)の登録規定の内容は如何、果たして米国の関係機関の解説では条文そのもの解説には言及していない。

 筆者はその分野の専門家なので、あえて調べ方の手順につき補足する。

(1) 法律名で調べる、合衆国法典で調べる方法がある。

 連邦法の場合、連邦議会はその2年の会期中に多くの法律を制定される。それは Act として指定されそのうち Public Law は議会で成立の後、United States Code という連邦法令集に搭載されるのでPublic Lawで調べる。

 具体的に見ると、Security Act of 1933 または、 15U.S.C 77a以下 または Pub. L. 73-22(1933年時の法律のまま)で調べられる。

 問題はここからである。SECのリリース文は1933年証券法第5条(a)および同条(c)を引用している。しかし、議会で可決したりその後Public lawで掲載された以降、米国連邦法は法令集(U.S.C.)に移管される。ここで管理番号が変わるのである。この場合、5§77eとなる。

(2)有名なコーネル大学ロースクールの法令検索を使ってみる。

U.S. Code Title 15. →COMMERCE AND TRADE Chapter 2A. →SECURITIES AND TRUST INDENTURES Subchapter I. DOMESTIC SECURITIES

 ここまできてやっと「§77e Prohibitions relating to interstate commerce and the mails」に行きつくのである。

5

(a)   Sale or delivery after sale of unregistered securities

Unless a registration statement is in effect as to a security, it shall be unlawful for any person, directly or indirectly—

(1) to make use of any means or instruments of transportation or communication in interstate commerce or of the mails to sell such security through the use or medium of any prospectus or otherwise; or

(2) to carry or cause to be carried through the mails or in interstate commerce, by any means or instruments of transportation, any such security for the purpose of sale or for delivery after sale.

(b)略す

(c) Necessity of filing registration statement

It shall be unlawful for any person, directly or indirectly, to make use of any means or instruments of transportation or communication in interstate commerce or of the mails to offer to sell or offer to buy through the use or medium of any prospectus or otherwise any security, unless a registration statement has been filed as to such security, or while the registration statement is the subject of a refusal order or stop order or (prior to the effective date of the registration statement) any public proceeding or examination under section 77h of this title.

********************************************

(注1) Telegram(テレグラム)はTelegram Messenger LLPが開発するインスタントメッセージシステムである。メッセージを暗号化することによりプライバシーを担保し、全てのファイルフォーマットを送受信できることを特徴とする。また、APIが公開されているためユーザーが非公式クライアントを作成することが可能である、クライアント側はオープンソースでサーバ側はプロプライエタリ・ソフトウェアである。(Wikipediaから抜粋)

(注2 ) Initial coin offering(ICO、イニシャル・コイン・オファリング)とは、一般に、企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や暗号通貨の調達を行う行為を総称するものをいう。ICOの仕組みにはバリエーションがあり得るが、コイン(デジタル・トークン)の発行体が、事業計画や資金使途を示した上で、当該事業等に賛同・共感する、あるいは出資を求める投資家から資金調達を行い、その対価としてコインを発行するのが標準的な仕組みである。インターネットなどのデジタル空間で募集が行われ、コインの対価の払い込みは暗号通貨によって行われることが多い。伝統的な株式公開やファンド出資の募集に比べて、簡易・迅速な手続きで資金調達ができることが狙いとされることも多いが、既存の法制度がどう適用されるかについては、いまだ不透明な部分も広く、コインの保有者が有する権利の性質によっては、有価証券を用いた資金調達と同視されることもある。(Wikipediaから抜粋)

(注3) マンハッタンの連邦地方裁判所に2019年10月11日提出されたSECの告訴(complaint)申し立ては、1933年証券法の第5条(a)および第5条(c)の登録義務規定に違反している両方の被告に告発し、(1)特定の緊急救済ならびに(2)恒久的な差止め命令(permanent injunctions)、(3) 判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、(4)民事制裁金を求めたものである。

(注4)  ドゥーロフCEOの声明文を全文仮訳する。なお、注記やリンクは筆者の責任で行った。

 過去2,5年間、私たちの最高のエンジニアの何人かは、「TON」と呼ばれる次世代のブロックチェーン・プラットフォームと、「Gram」と呼ばれる暗号通貨に取り組んできた。TONは、ビットコイン( bitcoinは、公共トランザクションログを利用しているオープンソースプロトコルに基づくPeer to Peer型の決済網および暗号資産)とイーサリアム(Ethereum.org)によって開拓された分散化の原則を共有するように設計されているが、スピードとスケーラビリティにおいてそれらよりも非常に優れている。

bitFlyerのビットコイン価格/相場チャート

 我々は、その結果を非常に誇りに思っていた。すなわち、我々が作成した技術は、価値とアイデアのオープンで自由で分散した交換を可能にした。テレグラムと統合されたTONは、人々が資金や情報を保存し、転送する方法に革命を起こす可能性を秘めていた。

 残念ながら、米国の裁判所はTONが起こるのを止めました。どう。何人かの人々が金鉱山を建設するためにお金を一緒に入れて、後でそれから出てくる金を分割することを想像してみてください。その後、裁判官が来て、鉱山建設業者に言います: "彼らは利益を探していたので、多くの人々が金鉱山に投資しました。そして、彼らは自分でその金を望んでいなかった、彼らは他の人にそれを販売したかった。このため、あなたは彼らに金を与えることはできない。

 これがあなたにとって意味をなさないなら、あなたは一人ではない。 しかし、これはまさにTON(鉱山)、その投資家、グラム(金)で起こったことである。米国の裁判官は、人々がビットコインを売買できるようにグラムを売買することを許されるべきではないと判断するために、この推論を使用した。

 おそらくさらに逆説的にいえば、米国の裁判所は、グラムは米国だけでなく、世界的に配布することができないと宣言した。なぜか。なぜなら、米国市民は、それが立ち上げた後、TONプラットフォームにアクセスする何らかの方法を見つけるかもしれないといった。だから、これを防ぐために、グラムは、地球上の他のすべての国がTONで完全に大丈夫と思われたとしても、世界のどこにでも配布することは許されるべきではないことになる。

 この裁判所の決定は、他の国が何が良いか、何が自国民にとって悪いかを決定する主権を持たしないことを意味する。アメリカ人が突然コーヒーを禁止することを決め、イタリアのコーヒーショップを閉鎖するよう要求した場合、アメリカ人が行くかもしれないので、私たちは誰もが同意するだろうと思う。

 しかし、それにもかかわらず、我々はこれ以上にTONを進めないとする困難な決断を行った。

 悲しいことに、米国の裁判官は一つのことについては正しい。すなわち、我々米国外の人々は、我々の大統領等に投票し、議会に選出することができるが、我々はまだ金融と技術に関しては米国に依存している(幸いにもコーヒーではない)。米国は、ドルと世界の金融システムに対する統制を利用して、世界の銀行や銀行口座を閉鎖することができる。アップルとグーグルのコントロールを使用して、App StoreとGoogle Playからアプリを削除することができる。だから、他の国が自国の領土に何を許可するかについて完全な主権を持っていないのは事実である。残念ながら、世界の人口の96%が、米国に住む4%の人によって選ばれた意思決定者に依存している。

 これは将来変更される可能性がある。しかし、今日、私たちは悪循環に陥っている。すなわち、それは非常に集中しているので、過度に集中した世界に多くのバランスをもたらすことはできない。しかし、我々は実際に試してみた。私たちは、バナーを拾い、私たちの間違いから学ぶために、次世代の起業家や開発者に任している。

 私はテレグラムのTONとの積極的な関与が終わったことを正式に発表するために、この記事を書いている。自分の名前やTelegramブランド、または"TON"略語を使ってプロジェクトを宣伝しているサイトが表示される場合がある。あなたのお金やデータでもってそれらを信頼しないでください。われわれのチームの現在または過去のメンバーは、これらのプロジェクトのいずれにも関与していない。我々がTONのために構築した技術に基づくネットワークが現れるかもしれないが、我々は彼らと提携を持つことはないし、何らかの方法でそれらをサポートすることはほとんどない。だから注意してほしい、そして誰もあなたを誤解させないでほしい。

 私は世界の分散化、バランス、平等のために努力しているすべての人々に幸運を願って、このポストを締めくくりたいと思う。あなたは正しい戦いを戦っている。この戦いは、我々の世代の最も重要な戦いかもしれない。我々は、あなたが私たちが失敗したところで成功することを願っている。

(注5) ロシア発の暗号化メッセージングアプリ「テレグラム」が独自のブロックチェーンTON(Telegram Open Network)とTONの独自トークン「グラム(Gram)」を放棄する方針を発表した。人気プライバシートークアプリ「テレグラム」は5月12日、独自のブロックチェーンTON(Telegram Open Network)と仮想通貨「グラム(Gram)」のローンチ計画を完全に放棄する方針をテレグラムのパヴェル・ドゥーロフCEOが発表している。

(注6) パーヴェル・ヴァレリーヴィッチ・ドゥーロフ( Pavel Valerievich Durov :ロシア語: Па́вел Вале́рьевич Ду́ров,1984年10月10日生まれ)は、SNSのフコンタクテ、ロシア語: ВКонтакте, ラテン文字転写: VKontakte)は、ロシアを中心とするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のひとつである“VK”および暗号化メッセージングアプリのTelegramの創設者として知られるロシアの起業家である。(Wikipediaから抜粋)

*************************************************************************

Copyright © 2006-2020 芦田勝(Masaru Ashida ).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする