法律専門家にとってIT社会の最大の恩恵はインターネットによる法律・判例検索であろう。国際的に有名な法律・判例検索サイトとしては、①米国のコーネル大学の「LII」、②英国・アイルランドの「British and Irish Legal Information Institute」、③ワールドコレクション(WorldLII)、④オーストラルエイシアン(AustLII)、④カナダ(CanLII)、⑤香港(HKLII)等である。EU加盟国については①、③でも一定の範囲で検索が可能である。今回は、このほど稼動した英連邦の法律情報機構(CommonLII)の概要について紹介する。
Commonwealth Legal Information Instituteのトップ画面
なお、2005年9月20日付けの朝日新聞の夕刊に紹介された海外企業や行政・研究機関が利用できるわが国の主要法令やさらには判例の英語訳や検索機能の現状はいかがであろうか。一方、わが国が民法や刑法など従来の立法において参考としてきたドイツやフランスにおける現行法の英語訳作業、アクセス利用の現状はどのようなものかについては、次回述べることとする。
1.Common LIIの開発の背景
Common LIIの開発の目的は、すべての英連邦参加国(53カ国)ならびにその他の国々が無料で英連邦の国々の主要な法律・判例などの情報を検索できることにある。Common LIIは、国際的なコモンローの整備に誠実さをもって寄与すること、加盟国が法律システム(司法制度)の一層の透明性を確保することで共通の法原則の確立することにある。
CommonLIIの開発を通じ、また英連邦の開発途上国による自由な法律検索制度(Free Access to Law Movement)の構築は各国が無料で自由に検索できる国家レベルのデータベースの構築・維持を支援することになる。AustLIIはこのCommonnLIIの指導役にあたった。
2.CommonLIIの内容
2005年9月にロンドン英連邦法律会議(Commonwealth Law Conference)でCommonLIIを立ち上げたときから、「www.commonlii.org」を自由に使うことが可能となった。多くの加盟国からの判例法、制定法立法、法律ジャーナル、法改正報告などが含まれる。
・オーストラリア、ブラジル、ブルネイ、キャメルーン、カナダ、キプロス、フィージー、インド、ニュージーランド、ナイジェリア、南アフリカ、イギリスなど25カ国以上から40以上のデータベースが含まれる。
・稼動開始時から53カ国の法律ウェブサイトにリンクする数千の目録、さらにこれらのサイトを検索するための検索エンジン、各国の「Google 法律検索」が用意される。
・強力な検索エンジンである完全な「Boolean」(注)検索を導入し、検索ランキング、日付、データベース別などが表示される。
3.英連邦の加盟国による追加的法律情報や資料は次の3つの方法で本データベースに包含
(1)すでに法律情報がインターネットにより自由に検索可能な場合、CommonLIIに登録する許可を与えるのみである。ダウンロードし、CommonLIIフォーマットに変換後、直ちに検索可能となる。
(2)法律情報がまだインターネットでの利用ができていない場合、emaiまたはCD-ROMにより情報提供を受けてCommonLIIまたは既存のローカルLIIに登録する。
(3)技術的に可能であれば、AustLIIは既存のローカルLIIの提供業者と提携し、データを再作成せずにCommonLIIに登録する。
4.財政面の支援など
CommonLII構築のための当初の資金支援は、オーストラリア連邦政府司法長官府(Australian Attorney-General’s Department) 、オーストラリア連邦政府研究会議(Australian Research Council:ARC)、英連邦法曹協会(Commonwealth Lawyers Association)、および英連邦電気通信機構(Commonwealth Telecommunications Organisation:CTO)が会員の支援を得て財政面・技術面で支援している。
また、CommonLIIの基本となる運営は、加盟各国の法律情報機構やAustLII、BAILII、CanLIIなどの支援、参加、データベースの提供を受けている。
5.運営の基礎
CommonLIIは、オーストラリアで最大規模の法律無料アクセスプロバイダーで世界有数のオーストラルエイシアン法律情報機構(Australasian legal Information Institute:AustLII)と連携、運営協力している。AustLIIはニューサウスウェールズ大学(UNSW)ならびにシドニー技術大学(UTS)の教授会メンバーによる非営利共同機関である。
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(注)Boolean(ブ-リアン)とは、プログラミング言語で扱う変数や定数の型の一つで、真(true)と偽(false)の2種類の値だけを扱う最も単純な構造の型。結果が真か偽で表される式を「AND」や「OR」などの演算子(論理演算子)で組み合わせて、複雑な式が真になるか偽になるか判断することをブーリアン演算(論理演算)と呼ぶ。コンピュータの扱う処理や計算の多くは、最終的に論理演算に変換されて実行される。身近な例では、データベースやサーチエンジンに複雑な検索を行わせる時に使われている。
〔参照URL〕 http://www.commonlii.org/commonlii/brochures/CommonLII_brochure.pdf
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(今回のブログは2005年9月8日登録分の改訂版である)
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