筆者の手元に米国防総省の8月22日付け緊急リリース「国防総省、アフガニスタンの取り組みを支援するために民間予備航空艦隊(Civil Reserve Air Fleet:CRAF)を歴史上3回目の発動」が届いた。
バイデン大統領のアフガンからの撤退作戦の批判が米国内や海外主要国から上がっていることは事実であるが、一方米国はこの数週間EUを含む同盟関係国への積極的なアフガン難民の引受け等を強く模索し、交渉していることは言うまでもない。
わが国に対してもアフガン難民の受け入れ問題はいずれ大きな問題になることは間違いなかろう。
ところで筆者が言いたいのは、わが国では全く報じられていない「民間予備航空艦隊」とはいかなるものであろうかという点である。
今回のブログは、この問題につきDODのリリースを詳しく引用するとともに、CRAFの法的根拠も含め実態を概観する。
他方、わが国政府は8月23日午前に国家安全保障会議(NSC)を開き、派遣の方針を協議した。自衛隊のC130輸送機が23日夕にも第一陣として出発。最終的にC130計2機とC2輸送機を派遣し、調整が整い次第、輸送活動を開始する。輸送は自衛隊法の規定に基づき実施する。
わが国でこのような事態が仮に発生した時に、わが国政府は国際紛争地への民間航空機の派遣を行うべく制度面、国際交渉面での国会等の検討はどうなっているのであろうか。30年前の湾岸戦争時にわが国に対する民間航空機のは派遣要請に関してわが国政府がとった策につき最後に言及する。
1.国防総省のリリースの仮訳
米ロイド・J・オースティン3世(Lloyd James Austin III )国防長官は、米国運輸司令部司令官に対し、民間予備航空艦隊(CRAF)の第1段階を発動するよう命じた。CRAFの活性化は、米国市民と人員、特別移民ビザ申請者、およびアフガニスタンからの他の危険にさらされている個人の避難において国務省への支援を強化するために、民間航空移動資源への国防総省のアクセスを提供する。
Lloyd James Austin III 長官
現在、準備済のアクティベーションは全18機用である。アメリカン航空、アトラス航空、デルタ航空、オムニエアからそれぞれ3機。ハワイアン航空から2機;ユナイテッド航空から4機である。これら部門は、この活性化から商業飛行に大きな影響を受けない。
CRAFの航空機はカブールのハミド・カルザイ国際空港に直ちに飛び込むわけではない。
Youtube(https://www.youtube.com/watch?v=WNbltdFYiVg)から引用画像
航空機は一時的な安全な避難所と暫定的なステージング基地からの乗客の今後の移動に使用される。CRAFを有効化すると、有機的な能力を超えた乗客の動きが増加し、軍用機がカブール内外の作戦に集中することができる。
CRAFは、DODの空輸能力を増強するために設計された国家緊急準備プログラムであり、国家安全保障上の利益と危機管理要件を満たすUSTRANSCOM(アメリカ輸送軍:United States Transportation Command、略称:USTRANSCOM)は、アメリカ軍における統合軍(機能別統合軍)の1つ。1987年に創設された組織で、イリノイ州のスコット空軍基地に司令部を置く)の能力の中核的な構成要素である。CRAFの下では、民間航空会社は連邦航空局(FAA)規制の下で市民的地位を維持し、USTRANSCOMは航空部品である航空移動司令部を介してミッション・コントロールを行使する。
これは、プログラムの歴史の中で3番目のCRAFのアクティベーションである。第1回目は「砂漠の盾作戦/嵐(1990年8月~1991年5月)」(注1)を支持して起動し、2回目は「イラク自由作戦(2002年2月~2003年6月)」(注2)である。
DODの軍事力を投影する能力は、重要な輸送能力とグローバルネットワークを提供し、日々の不測の事態に備える商業産業と密接に結びついている。商業パートナーを活用することで、USTRANSCOMのグローバルなリーチと、貴重な商用インターモーダル輸送システムへのアクセスが拡大しうる。国防長官は、この重要な使命における業界パートナーの支援を非常に高く評価してい.る。
2.CRAFの概要
米空軍・航空機動軍団AMCサイトの解説を引用、仮訳する。
米国の航空移動資源のユニークかつ重要な部分は民間予備航空隊である。
契約上CRAFにコミットしている米国の航空会社から選択された航空機は、空輸の必要性が軍用機の能力を超えた場合に国防総省の空輸要件を強化するものである。
CRAFには、国際と国内の2つの主要なセグメントがある。国際セグメントは、さらに(1)長距離国際セクションと(2)短距離セクションに分けられ、国内セグメントは国内要件を満たしている。航空機のセグメントへの割り当ては、要件の性質と必要なパフォーマンス特性によって異なる。
(1)長距離国際セクションは、大洋横断運用が可能な旅客機と貨物機で構成されている。これらの航空機の役割は、軽微な不測の事態から完全な国防緊急事態まで、空輸の必要性が高まっている期間に、機動軍団の長距離輸送機C-5(ロッキード社(現在のロッキード・マーティン社)が製造し、アメリカ空軍が運用している軍用超大型長距離輸送機。愛称は「ギャラクシー」およびC-17(マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社が製造し、アメリカ空軍が保有・運用する、主力の軍用長距離輸送機である。愛称はグローブマスターIII(Globemaster III)を補強・増強することである。
C-5 (Wikipedia)
C-17(Wikipedia)
中型の旅客機と貨物機は、オフショア近くをサポートする短距離国際セクションを構成し、目的地の空輸要件を選択する。
各航空会社は政府との契約上、CRAFのさまざまなセグメントに航空機を約束し、必要に応じてアクティベーションの準備を行う。民間航空会社がCRAFプログラムに航空機を投入するインセンティブを提供し、米国に十分な空輸準備金を保証するために、政府は、CRAFに航空機を提供する民間航空会社が平時国防総省(DOD)の空輸事業を利用できるようにする。DODは、CRAF Charter AirliftServices契約を通じてビジネスを提供する。
CRAFの国際セグメントに参加するには、航空会社はCRAF対応艦隊の最低40%のコミットメントを維持する必要がある。コミットされた航空機は米国で登録される必要があり、航空会社はフリートで受け入れられた航空機ごとに4:1のフライトデッキの乗務員比率をコミットして維持する必要がある。
性能が最小CRAF要件を満たしていない航空機を所有する航空会社には、技術的不適格証明書が発行されるため、政府の空輸事業を引き続き競争することができる。
2021年8月の時点で、24の航空会社と450の航空機がCRAFに登録されている。これには、国際セグメントの413機、長距離国際セクションの268機、短距離国際セクションの145機が含まれる。全国セグメントには37機の航空機がある。これらの数値は、月ごとに変更される場合がある。
漸進的な活性化の3つの段階により、手元の不測の事態に適した空輸力を調整することができる。ステージIは、地域の軽微な危機と人道支援/災害救援活動のためのものである。ステージIIは大規模な交戦に使用され、ステージIIIは国民の動員期間に使用される。
司令官である米国輸送軍は、国防長官の承認を得て、CRAFの3つの段階すべての活性化機関である。危機の間、AMCが追加の航空機を必要とする場合、米空軍・航空機動軍団AMC(注3)はUSTRANSCOMの司令官に適切なCRAFステージをアクティブにするための措置を講じるよう要求する。
3.CRAF制度の法的根拠
連邦規則電子規則集の該当箇所(32 CFR Part 243 - DEPARTMENT OF DEFENSE RATEMAKING PROCEDURES FOR CIVIL RESERVE AIR FLEET CONTRACTS)を抜粋、仮訳する。
32 CFR Part 243.3 定義。
*航空会社。(Air Carrier)
「航空会社」は、米現行法律集第49編第40102条(a)(2)(49 USC 40102(a)(2))で、「直接的または間接的に、航空輸送を提供することを約束する米国市民」と定義されている。特にこの料金設定手順では、連邦航空規則(14 CFR第1章)または当該国の民間航空局(CAA)によって発行された同等の規則に従って商用の固定翼および回転翼航空機を運航し、航空輸送サービスを提供する個人または団体は次のとおりである。国防総省と契約している、または国防総省に代わって運営している民間 航空会社は、連邦航空局(FAA)またはCAAの証明書を持っているものとする。この指令に含まれるポリシーは、CRAF国際空輸サービスの下で固定翼航空機を運用している航空会社に適用される。
*航空機のクラス区分(Airclaft class)
レートメイキングの目的で確立された、同様の幅広い特性を持つ航空機の異なるカテゴリ-ーである。これらのカテゴリーには、大型旅客、中型旅客、大型貨物などの航空機が含まれる。これらはUSTRANSCOMによって決定され、国際サービスの公開された統一料金および規則付録A(FedBizOpsで公開)で識別される。
*民間予備航空隊の国際空輸サービス
民間予備航空隊の契約をサポートするために提供されるこれらのサービスをいう。これにより、請負業者は、国防総省(DOD)を支援する活性化に関し民間予備航空隊航空法Fly CRAFAct(注4)を実装し,平時およびCRAF中に国際的な長距離および短距離空輸サービスを実行するために必要な人員、訓練、監督、設備、施設、備品、およびあらゆるアイテムとサービスを提供する。
*民間予備航空隊(CRAF)はビジネス保証を保証する。
*民間予備航空隊(CRAF)プログラム
民間予備航空隊(CRAF)は、改正された1950年の国防生産法(50USCApp。2601以降)および大統領令13603(国防資源準備)に基づく戦時準備プログラムである。さらに2012年、国防総省が国防総省が利用できる航空機の動員基盤を確保して、国防総省の緊急事態または防衛志向の状況が発生した場合に使用できる、定量化可能でアクセス可能で信頼性の高い商用空輸機能を確保するため設けられた。
*取得原価(Historical Costs)
12ヶ月間の空輸サービスの許容コストは、運輸省(DOT)のアカウントおよびレポートの統一システム(以下「フォーム41」と呼ばれる)報告(連邦行政規則集(CFR )第14 巻第217章および241章によって要求される)から収集できる。
*長距離航空機。
大洋横断空域および国際ルートで、生産的なペイロード(最大積載量の75%さらに、航空機は世界中で装備され、運用できる必要がある(たとえば、EUROCONTROLおよび北大西洋の最小航法性能仕様空域で、該当するVHF、Mode-S、RNP、およびRVSMの通信および航法機能を備えている必要がある)。
*ファイル付き覚書(MOU)。
空輸サービス(例えば、乗客、貨物、コンビ、および航空医療避難)の料金の確立を容易にするためのガイドラインを確立することを目的とした、CRAFプログラムへの参加を希望する認定航空会社とUSTRANSCOMとの間の書面による合意をいう。
*参加できる航空会社。
MOUの条件に準拠し、USTRANSCOM契約を実行する、CRAFプログラムで適切に認定およびDoD承認された航空会社。
*推定参加料金
32 CFR Part 243.4(a)から(g)でさらに説明されているように、取得原価と運用データに基づいて通信事業者によって提案された推定料金。
*短距離航空機
長時間の水上運用に対応し、生産的なペイロード(搭載可能最大積載量の75%)を搭載しながら、最小距離1,500海里を飛行できる航空機をいう。
3.30年前の湾岸戦争時にわが国に対する民間航空機のは派遣要請に関してわが国政府がとった策とは
30年前の1991湾岸戦争による避難民移送のための民間機チャー機問題を思いだしてほしい。中西 寛「湾岸戦争と日本外交」から一部抜粋する。
こうした複雑な状況の中で、日本政府の対応は混乱を極めた。ブッシュ大統領からは輸送、補給等の面で日本の支援の要請があった。これはアメリカが大量の部隊を湾岸に派遣する計画の中で当面、実際に不足していた資源であった。しかし自衛隊を提供する枠組みが存在しないため、民間船舶、航空機のチャーターを政府は検討した。しかし戦闘地域への派遣に民間側は消極的であった。日本がこの面でほとんど役に立てないことを伝えた外務省の丹波實審議官に対してアメリカは、ペルシャ湾にいる多数の船舶が日本向けであると伝えて、自国の経済利益のためには民間会社は活動するのかと暗に非難した。
130億ドル(約1兆4170億円)の資金支援
丹波がアメリカの厳しい雰囲気を伝えたことを受けて1990年8月29日、日本は資金提供を公表したが、その際には1,000万ドルという数字しか公表されなかった。アメリカの強い不快感が伝えられた翌日、大蔵省は10億ドルという数字を公表した。政府内では10億ドルで検討が進んでいたが、発表のやり方の稚拙さによって、日本はいかにも自己中心的で、外圧によってしか国際貢献をしない国だという印象を与えてしまった。その後も日本政府はアメリカの意向を気にしつつ、資金提供を追加し、結果的に130億ドルを拠出したが、開戦後に提供を表明した90億ドルについてはドル建てか円建てかをめぐって日米で一悶着があった。
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(注1)今年(令和3 年)は、湾岸戦争の本格的戦闘である「砂漠の嵐」作戦実施から30 周年にあたる。1990 年8 月2 日未明イラクがクウェートへ侵略し、1 日でクウェート全土を占領した。アメリカは、自軍を中軸に多国籍軍を結成し、約6 ヵ月かけて中東に戦力を展開、91 年1 月17 日から航空攻撃を開始し、2 月24 日からは地上作戦を開始し、2 月28 日多国籍軍が侵攻的作戦行動を全面停止するまでの間に、クウェート戦域のイラク軍を包囲分断し、圧倒的勝利を収めた。多国籍軍の各軍種によるめざましい作戦行動の中でも、一番に目についたのはエア・パワーだったのではなかったか?当時のキャッチ・フレーズをいくつか挙げてみると、「F-117 の爆弾命中率は80 %」、「一つの目標に対し一つの爆弾」、「全天候センサーはあらゆる状況下で目標を識別し兵器を誘導」、「ペトリオットのスカッド命中率は 94 %」。もちろんこれらは軍並びにメーカーの宣伝による誇張も入っていた。冷戦後の大きな出来事の一つである湾岸戦争をもう一度振り返り「リアル」な姿を確認することは、意義のあることではないだろうか。(栁澤 潤「シリーズ湾岸戦争30周年 ② 航空作戦の概要について」NIDSコンメンタリーから一部抜粋)。
(注2) 【イラク戦争】
2003年3月に米国を中心とする多国籍軍がイラクに侵攻して始まった戦争。イラクが、湾岸戦争の停戦条件として受諾した大量破壊兵器廃棄の義務を果たさず、秘密裡に核兵器開発などを行っていたことが発覚し、その後も国連の査察に対して妨害を続けたことなどの理由による。作戦名は「イラクの自由作戦」。2011年12月、イラク駐留米軍部隊の完全撤退によって終結した。
[補説] 多国籍軍は開戦後約3週間で主要都市を制圧。2003年5月に米国大統領ブッシュが戦闘の終結を宣言したが、米英軍を中心とする占領統治下でも、武装勢力によるテロやゲリラ活動、イスラム宗派間の武力抗争が続いた。2006年5月に正式政府が発足し、2008年には治安回復の傾向がみられたことから、イラク当局への治安権限移譲が進んだ。各国の派遣部隊は次々と撤収し、2009年7月には英国軍が撤退を完了。
米国は2010年8月に大統領オバマが戦争終結を宣言し、主要戦闘部隊を撤退させ、残留部隊も2011年12月までに完全撤退した。日本は人道支援の名目で平成15年(2003)12月から自衛隊を派遣。派遣先の治安権限が英国からイラクに移ることなどを理由に、陸自は平成18年(2006)7月に撤収、空自も平成21年(2009)2月に撤収を完了した。
米国は、イラクが大量破壊兵器を保有し、大統領サダム=フセイン(当時)が国際テロ組織アルカイダを支援している疑いがあるなどとして開戦したが、その後の調査で、大量破壊兵器は発見されず、フセイン政権とアルカイダの関係も立証されなかった。フセインは2003年12月に逮捕。1982年に自国のシーア派住民を大量殺害したことが人道に対する罪にあたるとして死刑判決を受け、2006年12月に刑が執行された。(「デジタル大辞泉」から抜粋)。
(注3)《Air Mobility Command》米国の航空機動空軍。1992年にMAC(輸送空軍)とSAC(戦略空軍)の空中給油機部隊とを統合して創設された、米空軍を構成する主要な軍団の一。スコット空軍基地に司令部を置き、物資・人員の輸送、空中給油、航空医療救助などを担う。また、ハリケーン・洪水・地震などによる被災者に対する人道支援物資輸送も行う。 (デジタル大辞泉から抜粋)。
(注4)フライ・アメリカ法(Fly America Act)は、アメリカ合衆国連邦政府職員等が公務で航空機を利用する際にアメリカ合衆国の航空会社の利用を求めるアメリカ合衆国の連邦法である。
この法律はアメリカ連邦政府の支出となるすべての旅行に適用され、いくつかの例外を除いて米国フラッグ・キャリアの利用を義務づける。対象となる旅行者は、連邦政府職員・その家族、コンサルタント、請負業者、給付金受給者等である。
フライ・アメリカ法は連邦調達規則(FAR(en))47.4節「米国フラッグ・キャリアによる航空運送」に含まれているので、連邦政府の発注については米国会社・外国会社ともに適用がある。
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