知る人ぞ知る本物の地へ──宗教人類学者が厳選する、神の気配を感じさせる本当の聖地16
家庭画報com より 241223
〔特集〕神々の気配を感じる 聖地・開運の地へ
聖地神の臨在を感じさせる場、神に祈りを捧げる場は、常に霊験あらたか。
新しい一年が生まれる正月を機に、心新たに神々のもとを訪ね、深い感謝と祈りを捧げることで開運を祈願します。 >>
・特集「聖地・開運の地へ」>>
2025年の運を開くために、知る人ぞ知る“本物の聖地”へ足を運んでみませんか。
聖地の第一人者、植島啓司さんに聖地の条件とおすすめの地を挙げていただきました。
⚫︎宗教人類学者 植島啓司さんに聞く 神の気配を感じさせる本当の聖地16
多くの人が御利益を求めて訪れる神社、仏閣などの聖地。
まず聖地とは、どういう場所を指すのかを伺いました。
「聖地には、2通りあります。“神の臨在を感じさせる場所”と“神に祈りを捧げる場所”です。有名な社殿へ願い事をしに行くのは後者。そこは、観光地的な要素が強いもので、本来の聖地とは違うものです」と植島さん。
では、神を身近に感じる本当の聖地はどのような場所にあるのでしょうか。
「自然条件がよいところはどこでも聖地たり得るのですが、なかでも神の降臨した場所など特別に宗教や歴史・習俗と結びついている地が聖地です。
足を運びにくく、山頂にある奥宮のようなところが多いのが特徴です。不便なため、今は参拝者が減っていて、隠された聖域のようになっています。
伊勢神宮に元伊勢、宇佐八幡宮に元宇佐、長谷寺に瀧蔵、室生寺に龍穴があるように、聖地が現在の場所に決まるずっと前に別の場所が聖地として信仰の対象になっていたところもあります。
“石(岩)”があるのも聖地の特徴の一つ。石は神が降臨する場所でもあり、死者を鎮護する役割がある神聖なものだからです。
本当の聖地は、街中にはなく、誰もが神がいると思っているところにも神はいません。
自然災害によりもとある場所から、安全な現在の地へ遷移された神社仏閣などは、その一例でしょう。何もないようなところこそ、本物の聖地であることが多いですね」
下記に紹介した16の神社仏閣は、実際に植島さんが日本全国500社以上を訪ねたうえで、聖地の条件を満たし、神の存在を感じた場所ばかり。
「神の気配は、マイナスイオンのように空気がピリッとした心地よい感覚です。聖地は神を含めて目に見えないものすべてに秩序を与え、自分の能力を超えたものをすっぽりと包み込み、幸福感を与える」
「基本は、敬愛の情を持つこと。昔は、聖域に入る際には靴を脱いでいたぐらいです。そして、願うばかりではなく神に深い感謝を捧げるために出かけてください。その結果、真摯な姿を見た神が開運に導くのだと思います」
1.忍路(おしょろ)環状列石【北海道・小樽市】
約3500年前、縄文中期から後期にかけて作られたもので、小樽から余市にかけて見つかっている80以上の環状列石(ストーンサークル)の一つ。緩やかな斜面に南北33メートル、東西22メートルの楕円形に石を配した遺構で、集団墓地説が有力。「意外性があって、素朴な姿が魅力」(植島)。
〔行き方〕
(1)JR蘭島駅から徒歩約20分。(2)JR小樽駅からバスで約20分の忍路下車後、徒歩約7分。(3)小樽塩谷ICから車で約10分。
2.大湯(おおゆ)環状列石【秋田・鹿角市】
約4000年前、縄文後期の大規模な遺跡。野中堂環状列石と万座環状列石を主体とし、石をさまざまな形に組み合わせた二重の配石と、日時計の石組みがあるのが特徴。「集団墓地説が有力ですが、ただの墓地というより死者を葬る背景にある霊的なものへの考え方の表れのようで興味深い」(植島)。
〔行き方〕
(1)JR鹿角花輪駅からバスで約35分の大湯環状列石前下車後、タクシーで約25分。(2)JR十和田南駅からタクシーで約15分。
3.湯殿山(ゆどのさん)【山形・鶴岡市】
出羽三山の一つ(他は月山と羽黒山)で、山岳修験の霊山。湯殿山神社本宮は三山すべての奥宮とされている。ご神体はピンクがかった赤褐色の岩で、上部から温泉が流れる岩を裸足で上がる。ご神体のある場所は撮影禁止。「ひたすら謙虚な気持ちで祈る本来の信仰の形が体験できます」(植島)。
〔行き方〕
JR鶴岡駅から仙人沢駐車場までタクシーで約55分。駐車場からは参拝バスで約5分。
※11月上旬から5月下旬まで閉山。
4.元伊勢・籠(この)神社【京都・宮津市】
神代から、奥宮の眞名井原に豊受大神を祀ってきた由緒ある神社。そのご縁で、天照大神が倭国から遷る際に、天照大神と豊受大神を4年間一緒に祀っていた。「天照大神が鎮まる場所を探した倭姫命が旅を始めたとされる場所。もとから聖地だったことを感じさせる居心地のよいところです」(植島)。
〔行き方〕
(1)JR天橋立駅から徒歩約60分。(2)観光船で約12分の一の宮桟橋駅到着後、徒歩約3分。
5.常照皇寺(じょうしょうこうじ)【京都・右京区】
臨済宗天龍寺派の禅寺。寺の周辺地域は常照皇寺京都府歴史的自然環境保全地域に指定されている。「聖地らしく足を運びにくい場所にありますが、桜の時期は特におすすめ。庭には、天然記念物の『九重桜』、御所から枝分けされた『左近の桜』などの名木があります」(植島)。
〔行き方〕
各線京都駅からバスで約1時間30分の周山下車後、バスを乗り換え約15分で山国御陵前到着。徒歩約7分。
6.神内(こうのうち)神社【三重・南牟婁郡】
古来、およそ6尺(約1.8メートル)四方の自然成岩窟が社殿となっている厳かな雰囲気の神社。別名「子安の宮」と呼ばれ、安産の神として信仰されていることでも有名。
熊野古道の伊勢路に入り、海沿いに少し行ったところにある。「ご神体は巨大な自然成岩窟で、森とそれを支える岩とが素晴らしい神域を形作っている特筆すべき場所。
すべての生き物を司る産土の神がそこを支配しています。知る人ぞ知る本当の聖地で、ここのよさがわかれば通です」(植島)。
〔行き方〕
JR新宮駅からバスで約30分の子安橋前下車後、徒歩約2分。
7.大神(おおみわ)神社【奈良・桜井市】🚶
日本最古の神社。ご祭神の大物主大神が山に鎮まるため、本殿は設けずに拝殿奥の三ツ鳥居を通して三輪山を拝する原初の神祀りが残る。三輪山は『古事記』や『日本書紀』にも記される。「三輪山自体がご神体で、摂社の狭井神社で届出をすれば登拝も可能ですが、撮影禁止の神聖な地」(植島)。
〔行き方〕
(1)JR三輪駅から徒歩約5分。(2)JR桜井駅からバスで約20分(土曜・日曜・祝日のみ運行)。
8.金峯山(きんぷせん)寺【奈良・吉野郡】🚶
吉野山から山上ヶ岳にかけての一帯である金峯山は、古代から広く知られた聖域。「この寺は吉野の中心的存在で、修験道の総本山。日本独自の宗教形態を感じられます。吉野は持統天皇が在位中に31回通ったというほど、朝廷に重んじられた場所であることも特筆すべき点だと思います」(植島)。
〔行き方〕
近鉄吉野駅到着後、ロープウェイに乗り換えて山上駅まで約5分。山上駅から徒歩約10分。
9.瀧蔵社(たきのくらしゃ)【奈良・桜井市】
長谷寺の奥の院として知られ、『今昔物語』には参拝者で賑わった様子が記されている。「神社の背後の森には多くの石造りの遺跡が残されており、古い磐座が点在していることがわかっています。さらに奥には注連縄が張られた巨大な磐座があり、周辺は特別な空気に包まれています」(植島)。
〔行き方〕
(1)JR桜井駅からタクシーで約35分。(2)JR長谷寺駅から徒歩約90分。
10.玉置(たまき)神社【奈良・十津川村】
古来、熊野から吉野に至る熊野・大峰修験の行場の一つとされ、熊野三山の奥の院と称される霊場。「かなり行きにくい場所にありますが、本殿から山頂までの中程にあたる位置には玉石社があり、磐座が多く並ぶ聖域らしい場所。山頂に登ることも可能で
〔行き方〕
JR五条駅からバスで約180分の十津川温泉下車後、タクシーで約20分で玉置山駐車場へ到着後、徒歩約15分。
11.天河大弁財天社【奈良・吉野郡】
飛鳥時代、役行者が山上ヶ岳で鎮護国家の祈りを捧げたときに弁財天が出現したことから創建。「人々の心を温かく包み込むような聖域で、神の存在を最も感じる場所。近くに流れる天川のほとりでは今でも多くの儀礼が行われ、周囲には天川を聖地たらしめる特別な石が点在します」(植島)。
〔行き方〕
(1)近鉄下市口駅からバスで約1時間の天河大弁財天社下車後すぐ。(2)近鉄下市口駅からタクシーで約40分。
12.室生龍穴【奈良・宇陀市】
室生龍穴神社からさらに進んだ場所に龍穴はある。何ともいえない空気が漂い、龍穴を支える岩盤に花崗岩が風化した様子が見られるが、その情景こそ聖地特有のもの。
火山活動により形成された地で、至るところに岩窟、絶壁、奇岩が見られる室生火山群と呼ばれる一帯にある。「特に室生山中にある3つの岩窟には古くから雨を司る龍が棲むとされており、それが龍穴。水神信仰の聖地が、山林修行者の行場に始まり、龍神を祀る場所へ進化しました」(植島)。
〔行き方〕
近鉄室生口大野駅からバスで約20分の室生龍穴神社下車後、徒歩約30分。
13.天狗山【島根・安来市】
『出雲国風土記』では熊野山と記され、「熊野大神の社が坐す」とある。「しばらくいると、かつて苦天野大神の神意が直接下された場所ではないかと感じます。天狗山こそ、大国主神の生誕の地ではないかと語る古老もいます。出雲信仰の重要な地であることは間違いないでしょう」(植島)。
〔行き方〕
天狗山登山口から山頂まで徒歩約1時間20分。
14.天岩戸神社西本宮【宮崎・高千穂】
社務所で申し出ると、拝殿右にある戸を開いてご神体である天岩戸の近くへ案内してもらえる。「一面に広がる原始林の中に姿を現す巨大な裂け目が、深い原初の闇を思わせ、スケールの大きさに愕然とさせられます。龍神(水の神)信仰との関係を直感しました」(植島)。
〔行き方〕
(1)阿蘇熊本空港より車で約1時間30分。(2)宮崎空港より車で約2時間15分。
15.御許(おもと)山【大分・宇佐】
全国の八幡宮の総本社「宇佐八幡宮」の裏にある。山には「大元神社」が鎮座。「この御許山こそ、八幡信仰そのものの根源といわれ、山上より少し下ったところに3か所の磐座がある。大元神社の向かい側にある緑溢れる場所は、爽やかな風が通り抜け、とりわけ気持ちのよい場所」(植島)。
〔行き方〕
宇佐ICからタクシーで約20分の正覚寺側登山口へ到着。登山口から大元神社まで徒歩約30分。
16.クボー御嶽(うたき)【沖縄・久高島】
久高島の中心部にあり、立ち入り禁止だが、入り口から拝することはできる。先祖の魂が宿り、草木一本でも取ることは許されていない。
宇宙開闢の神アマミキヨが降臨されたとされる久高島最大の聖域。「沖縄七御嶽の一つで、久高島の巫女しか入れない場所ですが、外側からでもピリッとした空気感が伝わってきます。御嶽は、どこもちょっとした森に囲まれた空間や珍しい石組みがあるだけで何も特別なものはありません。こういう場所こそ本物の聖地なのです」(植島)。
〔行き方〕
知念の安座真港から高速船で約15分、フェリーで約25分の久高島へ。そこから貸し自転車を利用する人が多い。
*往復のバスの時刻表、駅のタクシーの有無は事前に確認を。
植島啓司さん(うえしま・けいじ)
1947年東京都生まれ。宗教人類学者。東京大学卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了後、シカゴ大学留学。世界100か国以上を調査研究後、帰国。聖地の専門家に。『聖地の想像力』『日本の聖地ベスト100』(ともに集英社)など著書多数。