コロナ禍でも都心部へ流入、「脱東京」のまやかし
東洋経済オンライン より 220618山田 稔:ジャーナリスト
⚫︎巨大都市・東京はますます膨張している
朝の情報番組がコロナ特集をやらなくなって久しい。世の中はウィズコロナが当たり前で、国内に関しては行動制限もほとんどないに等しい。そうした中で、ひとつの現象が再び顕著になり始めている。東京一極集中である。
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、今年に入ってからの東京都の日本人の転入超過数は、
1月383人、2月359人、3月3万3340人、4月4831人と4カ月連続の転入超過となった。
また3月の転入超過数は昨年3月よりも3977人増となった。
⚫︎「脱東京」の動きがストップ
昨年は5月以降も緊急事態宣言が断続的に9月末まで続いたことで、多くの企業がリモートワークを実施し、飲食店や観光関連などサービス業は事実上の休業状態に追い込まれた。
コロナ禍の影響による収入減、マンション価格の高騰など住宅コスト負担増といった要因も相まって、1~2月、そして5~12月と転出超過の月は10カ月間となった。
そんな状況からすると、今年に入ってからの動きは明らかに変化の予兆を示している。3月21日にまん延防止等重点措置が解除されると、社会のムードが変わった。
そんな状況からすると、今年に入ってからの動きは明らかに変化の予兆を示している。3月21日にまん延防止等重点措置が解除されると、社会のムードが変わった。
大学の対面授業も再開、通勤者や出張者が増え、街や新幹線に活気が戻りつつある。GW期間中の観光地の人出大幅増、ビール類の販売額(5月)の回復など、少しずつだが世の中の動きがコロナ前に近づいてきている。
問題は5月以降の人口移動の結果がどう出てくるか。この先、よほど感染状況が深刻化するようなことがない限り、ウイズコロナ下での経済活動や旅行や観光を含めた人々の行動はコロナ前の水準に向けて回復していくのではないか。そうした前提で考えると、5月以降の人口移動の数値は昨年とは一転し、再び転入超過が続く可能性もある。
では、実際の人口はどうなっているのか。コロナ禍のスタート時点を2020年1月下旬のダイヤモンド・プリンセス号での感染事例からとして、その後の東京都の日本人人口の推移を検証してみた。
2020年1月1日時点/1325万7596人(コロナ直前)
2020年5月1日時点/1331万9807人(4月に緊急事態宣言)
2021年1月1日時点/1329万7089人
2021年5月1日時点/1331万2939人
2022年1月1日時点/1327万7052人
2022年5月1日時点/1329万1738人
意外に思われるかもしれないが、東京都の日本人人口は2020年3月の1325万7504人を底に、社会がコロナ禍に苦しんだどの時点で見ても、コロナ直前の水準を上回っている。
問題は5月以降の人口移動の結果がどう出てくるか。この先、よほど感染状況が深刻化するようなことがない限り、ウイズコロナ下での経済活動や旅行や観光を含めた人々の行動はコロナ前の水準に向けて回復していくのではないか。そうした前提で考えると、5月以降の人口移動の数値は昨年とは一転し、再び転入超過が続く可能性もある。
では、実際の人口はどうなっているのか。コロナ禍のスタート時点を2020年1月下旬のダイヤモンド・プリンセス号での感染事例からとして、その後の東京都の日本人人口の推移を検証してみた。
2020年1月1日時点/1325万7596人(コロナ直前)
2020年5月1日時点/1331万9807人(4月に緊急事態宣言)
2021年1月1日時点/1329万7089人
2021年5月1日時点/1331万2939人
2022年1月1日時点/1327万7052人
2022年5月1日時点/1329万1738人
意外に思われるかもしれないが、東京都の日本人人口は2020年3月の1325万7504人を底に、社会がコロナ禍に苦しんだどの時点で見ても、コロナ直前の水準を上回っている。
ちなみに最初の緊急事態宣言が発令された2020年4月以降で最も少なかったのは、今年3月の1326万3942人である。
その後、春の転入シーズンを迎えると2カ月連続で増え、5月は1329万人台まで回復した。一時期「コロナでリモート移住」といった情報がメディアから流れた。もちろん一部にはそうした動きもあっただろうが、「脱東京」という大きな流れにはならなかった。
2022年1月は前年に比べると約2万人の減少だが、2021年の自然減が3万人超と多かったのが主因で、同年は約1万人の転入超過だった。(ただし2021年は自然減が前年よりも1万人以上増えている。コロナとの関連が気になるところだ)。
⚫︎都心部の増加率が高い
では、東京の人口はどのエリアが増えているのか。コロナ前の2019年5月と2022年5月で比較してみよう。区部(23区)は4万0609人の増加、市部(26市)は1万3206人の増加となっているが、郡部は1522人の減少、島部は1172人の減少と二極化がみられる。
23区では増えたのが16、減ったのが7で明暗が分かれた。中央区は7572人増で増加率は4.84%と高い。その他では、千代田区2654人(4.30%増)、台東区5856人(3.16%増)、文京区4852人(2.28%増)など、都心回帰現象が浮き彫りになっている。タワマンが林立する江東区は7627人増だが、増加率は1.55%にとどまっている。
減少したのは目黒、大田、豊島、板橋、足立、葛飾、江戸川の7区。この中では江戸川区の減少数9333人、減少率1.41%が目立つ。
さて、問題は今後である。1400万人近い人が暮らす東京は、それだけ巨大なリスクを抱えている。まず懸念されるのは大災害による巨大被害だ。
5月25日、東京都防災会議地震部会が首都圏直下地震などの被害想定を公表した。都心南部をマグニチュード7.3の地震が発生した際の被害は、死者6148人、負傷者9万3435人、建物被害19万4431棟、避難者299万3713人などと想定されている。
建物の耐震化や不燃化が進み、2012年想定の東京湾北部地震の被害想定よりも死者、負傷者は少なくなっているが、それでもとてつもない被害に変わりない。
⚫︎大震災の帰宅困難者は453万人
運良くケガをせずに済んだとしても、地震直後には厳しい生活が待っている。都内では帰宅困難者が453万人発生。東京駅には43万人、新宿駅には40万人もの人々が滞留する。
その後、春の転入シーズンを迎えると2カ月連続で増え、5月は1329万人台まで回復した。一時期「コロナでリモート移住」といった情報がメディアから流れた。もちろん一部にはそうした動きもあっただろうが、「脱東京」という大きな流れにはならなかった。
2022年1月は前年に比べると約2万人の減少だが、2021年の自然減が3万人超と多かったのが主因で、同年は約1万人の転入超過だった。(ただし2021年は自然減が前年よりも1万人以上増えている。コロナとの関連が気になるところだ)。
⚫︎都心部の増加率が高い
では、東京の人口はどのエリアが増えているのか。コロナ前の2019年5月と2022年5月で比較してみよう。区部(23区)は4万0609人の増加、市部(26市)は1万3206人の増加となっているが、郡部は1522人の減少、島部は1172人の減少と二極化がみられる。
23区では増えたのが16、減ったのが7で明暗が分かれた。中央区は7572人増で増加率は4.84%と高い。その他では、千代田区2654人(4.30%増)、台東区5856人(3.16%増)、文京区4852人(2.28%増)など、都心回帰現象が浮き彫りになっている。タワマンが林立する江東区は7627人増だが、増加率は1.55%にとどまっている。
減少したのは目黒、大田、豊島、板橋、足立、葛飾、江戸川の7区。この中では江戸川区の減少数9333人、減少率1.41%が目立つ。
さて、問題は今後である。1400万人近い人が暮らす東京は、それだけ巨大なリスクを抱えている。まず懸念されるのは大災害による巨大被害だ。
5月25日、東京都防災会議地震部会が首都圏直下地震などの被害想定を公表した。都心南部をマグニチュード7.3の地震が発生した際の被害は、死者6148人、負傷者9万3435人、建物被害19万4431棟、避難者299万3713人などと想定されている。
建物の耐震化や不燃化が進み、2012年想定の東京湾北部地震の被害想定よりも死者、負傷者は少なくなっているが、それでもとてつもない被害に変わりない。
⚫︎大震災の帰宅困難者は453万人
運良くケガをせずに済んだとしても、地震直後には厳しい生活が待っている。都内では帰宅困難者が453万人発生。東京駅には43万人、新宿駅には40万人もの人々が滞留する。
街灯や信号は停電で消え、携帯電話もつながらない。停電、断水でタワマンのマンションのインフラが止まり、トイレも使えなくなる。倒壊を免れたコンビニやスーパーに人々が殺到し、あっという間に棚が空っぽになる。社会インフラが機能しない中で、負傷者の救出はスムーズにいくだろうか。
東京23区で震度5強を記録した東日本大震災のときでさえ、東京は一時パニック状況に陥った。それをはるかに上回る規模の大地震が直撃したとき、はたして被害は想定の範囲内で収まるだろうか。
東京23区で震度5強を記録した東日本大震災のときでさえ、東京は一時パニック状況に陥った。それをはるかに上回る規模の大地震が直撃したとき、はたして被害は想定の範囲内で収まるだろうか。
経済被害は約22兆円と推計されているが、本社機能、情報通信機能が集積しているだけに数字では測れない被害を覚悟しておかなければならないだろう。
一極集中が抱える問題は災害だけではない。東京でも確実に進んでいる少子・高齢化がもたらす影響も大きい。
一極集中が抱える問題は災害だけではない。東京でも確実に進んでいる少子・高齢化がもたらす影響も大きい。
コロナ前の2019年、東京都の出生数は10万1817人だった。それが2021年は9万5402人にまで減少。2年続けて10万人を割り込んだ。
21年の合計特殊出生率は1.08で全国平均の1.30を大きく下回り、全国最下位である。
人口が増えているのに、東京で生まれる赤ちゃんはどんどん減っている。それだけではない。22年3月と4月の人口移動報告を見ると、東京は転入超過にもかかわらず、0~14歳の子どもは3月が2055人、4月が1580人の転出超過となっている。
人口が増えているのに、東京で生まれる赤ちゃんはどんどん減っている。それだけではない。22年3月と4月の人口移動報告を見ると、東京は転入超過にもかかわらず、0~14歳の子どもは3月が2055人、4月が1580人の転出超過となっている。
生まれる子が減ってきているうえに、その上の世代の子どもたちまでもが出て行ってしまっているのである。
ちなみに2022年1月1日時点の子ども人口(0~14歳)は約153万人で、ピーク時の1975年よりも約100万人少ない。構成比は11.56%。これはデータがある1957年以降で最低の水準である。
その一方で高齢化はどんどん進んでいる。2022年1月1日時点の老年人口(65歳以上・日本人)は約312万人で、構成比は23.46%。ともに1957年以降で最高の水準だ。東京都の予測では2040年には約375万人(外国人含む)にまで増え、構成比は27.7%になるとしている。
構成比は全国平均からは下回っているが、ボリュームが違うだけに大きな課題が山積している。単身高齢世帯、買い物困難、要介護認定者数、認知症患者数など、どれをとっても規模が他の道府県とは比較にならない。
たとえば要介護認定者数は直前の2022年2月末で64万人。2002年は28万人だったから、約20年間で2.3倍になった。64万人という数値は、介護保険事業状況報告によると鳥取県の総人口を上回る規模だ。いかにけた外れか、おわかりいただけるだろう。
⚫︎認知症高齢者は50万人超に
認知症高齢者の推計もある。2019年は約46万人だが、2025年には約55万人になるとしている(東京都福祉保健局の推計)。4人に1人が高齢者の東京で大地震が発生したとき、本当に都の防災会議の想定程度の人的被害で済むだろうか。
東京五輪が終えた神宮外苑エリアでは、多くの樹木を伐採しての再開発計画が進められようとしている。いたる所でビルの建築工事やインフラ整備が進む東京の膨張はまだまだ止まりそうもない。東京という巨大都市に暮らす人々、働く人々に、一極集中はいったいどんな運命をもたらすのだろうか。
ちなみに2022年1月1日時点の子ども人口(0~14歳)は約153万人で、ピーク時の1975年よりも約100万人少ない。構成比は11.56%。これはデータがある1957年以降で最低の水準である。
その一方で高齢化はどんどん進んでいる。2022年1月1日時点の老年人口(65歳以上・日本人)は約312万人で、構成比は23.46%。ともに1957年以降で最高の水準だ。東京都の予測では2040年には約375万人(外国人含む)にまで増え、構成比は27.7%になるとしている。
構成比は全国平均からは下回っているが、ボリュームが違うだけに大きな課題が山積している。単身高齢世帯、買い物困難、要介護認定者数、認知症患者数など、どれをとっても規模が他の道府県とは比較にならない。
たとえば要介護認定者数は直前の2022年2月末で64万人。2002年は28万人だったから、約20年間で2.3倍になった。64万人という数値は、介護保険事業状況報告によると鳥取県の総人口を上回る規模だ。いかにけた外れか、おわかりいただけるだろう。
⚫︎認知症高齢者は50万人超に
認知症高齢者の推計もある。2019年は約46万人だが、2025年には約55万人になるとしている(東京都福祉保健局の推計)。4人に1人が高齢者の東京で大地震が発生したとき、本当に都の防災会議の想定程度の人的被害で済むだろうか。
東京五輪が終えた神宮外苑エリアでは、多くの樹木を伐採しての再開発計画が進められようとしている。いたる所でビルの建築工事やインフラ整備が進む東京の膨張はまだまだ止まりそうもない。東京という巨大都市に暮らす人々、働く人々に、一極集中はいったいどんな運命をもたらすのだろうか。
💋今更ながらの行政と立法の不作為と怠慢、戦時体制の為の方が残留のまま(堺屋太一氏著書)。 ほんと災害大国で、地方人口減少で衰退してるのに…人口動勢も古くから分かっていたのに…