東工大、「色素増感型光触媒」の水素生成性能を従来の約100倍に向上
マイナビニュース より 220822 波留久泉
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東京工業大学(東工大)は8月18日、「色素増感型光触媒」を絶縁体酸化物とポリマーにより修飾することで、太陽光エネルギーによって水から水素を製造する光触媒反応の効率を従来の約100倍高めることに成功し、太陽エネルギーの水素への変換効率0.12%、見かけの量子収率は4.1%(波長420nmでの値)を達成したと発表した。
同成果は、東工大 理学院 化学系の西岡駿太特任助教、同・北条航矢大学院生(研究当時)、同・前田和彦教授らの研究チームによるもの。
詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
太陽エネルギーを利用して水を水素と酸素に分解する光触媒反応において、太陽光に含まれる光の約半分を占める可視光を有効に活用することができれば、大量の水素エネルギーをクリーンに得ることが可能と考えられている。
太陽エネルギーを利用して水を水素と酸素に分解する光触媒反応において、太陽光に含まれる光の約半分を占める可視光を有効に活用することができれば、大量の水素エネルギーをクリーンに得ることが可能と考えられている。
しかし、可視光はエネルギーが小さいため、通常の光触媒を用いた場合では水分解反応の速度が遅いという課題があった。
その解決策の1つとして、可視光を吸収する色素分子を光触媒表面に吸着し、色素が吸収した可視光エネルギーを利用する、色素増感型光触媒反応が研究されている。
そうした中、前田教授らがこれまでの研究で開発したのが、酸化物ナノシート光触媒「HCa2Nb3O10」に、色素分子としてルテニウム(Ru)錯体を吸着させた色素増感型の水素生成光触媒であり、この触媒を、酸化タングステン系の酸素生成光触媒と組み合わせた水分解反応系を構築。ヨウ素系電子伝達剤(I3-/I-)の存在下において、可視光により、水を水素と酸素に完全分解できることを確認済みとしている。
2種類の光触媒と電子伝達剤を利用するZスキーム型光触媒システムにおいて、電子伝達剤は酸素生成系により還元されると同時に水素生成系において酸化されることで、2種類の光触媒の間の電子伝達を担う。
その解決策の1つとして、可視光を吸収する色素分子を光触媒表面に吸着し、色素が吸収した可視光エネルギーを利用する、色素増感型光触媒反応が研究されている。
そうした中、前田教授らがこれまでの研究で開発したのが、酸化物ナノシート光触媒「HCa2Nb3O10」に、色素分子としてルテニウム(Ru)錯体を吸着させた色素増感型の水素生成光触媒であり、この触媒を、酸化タングステン系の酸素生成光触媒と組み合わせた水分解反応系を構築。ヨウ素系電子伝達剤(I3-/I-)の存在下において、可視光により、水を水素と酸素に完全分解できることを確認済みとしている。
2種類の光触媒と電子伝達剤を利用するZスキーム型光触媒システムにおいて、電子伝達剤は酸素生成系により還元されると同時に水素生成系において酸化されることで、2種類の光触媒の間の電子伝達を担う。
この反応系では、可視光によって励起された電子(e-)が水素生成に使われる前に、Ru色素や電子伝達剤と反応してしまう逆反応があり、それが水素生成効率の低下につながってしまっていたという。
前田教授らはこれまで、Ruとの逆反応を防ぐ手法を開発していたが、電子伝達剤との逆反応を防ぐ手法の開発には至っていなかったとする。
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そこで今回の研究では、水素生成系が電子伝達剤を還元する逆反応(I3-+e-→I-+I2)は、水素生成系とI3-が接近することで進行するため、互いが近づきづらい状況を作ることに着目したという。
前田教授らはこれまで、Ruとの逆反応を防ぐ手法を開発していたが、電子伝達剤との逆反応を防ぐ手法の開発には至っていなかったとする。
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そこで今回の研究では、水素生成系が電子伝達剤を還元する逆反応(I3-+e-→I-+I2)は、水素生成系とI3-が接近することで進行するため、互いが近づきづらい状況を作ることに着目したという。
具体的には、I3-との静電的な反発により接近を阻害できる、負に帯電したアニオン性ポリマーを修飾することで、水分解効率の向上に成功したとする。
Ru色素を吸着した白金(Pt)担持酸化物ナノシートに対し、これまでに明らかにされていた逆電子移動抑制効果を持つ酸化アルミニウム(Al2O3)を修飾した水素生成光触媒「Ru/Al2O3/Pt/HCa2Nb3O10」を用い、ポリマー修飾の効果が調べられた。
ポリマーを単独で修飾した場合にも水分解活性は向上したが、ポリマーとAl2O3を共修飾することで、無修飾のものから約100倍の活性に向上したという。
Ru色素を吸着した白金(Pt)担持酸化物ナノシートに対し、これまでに明らかにされていた逆電子移動抑制効果を持つ酸化アルミニウム(Al2O3)を修飾した水素生成光触媒「Ru/Al2O3/Pt/HCa2Nb3O10」を用い、ポリマー修飾の効果が調べられた。
ポリマーを単独で修飾した場合にも水分解活性は向上したが、ポリマーとAl2O3を共修飾することで、無修飾のものから約100倍の活性に向上したという。
最適化されたシステムでは、太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%、見かけの量子収率は4.1%(波長420nmでの値)が達成された。
これらはいずれも、色素増感型光触媒を用いたZスキーム水分解システムの世界トップクラスの値だという。また、色素を用いない一般的な光触媒と比較してもトップクラスに高い数値だともしている。
表面修飾が施されたルテニウム錯体吸着HCa2Nb3O10ナノシート上での水素生成のデザインイラスト。論文掲載誌Science AdvancesのFeature imageに選出された (出所:東工大プレスリリースPDF)
今回の触媒の特筆すべき点として、弱い光を利用して水分解反応を駆動できる点が挙げられる。一般的に、水分解反応の進行には比較的強い光が必要なことが多く、強い可視光の照射では水分解活性を示すものの、疑似太陽光の照射下では水分解反応が進行しない例があるという。
表面修飾が施されたルテニウム錯体吸着HCa2Nb3O10ナノシート上での水素生成のデザインイラスト。論文掲載誌Science AdvancesのFeature imageに選出された (出所:東工大プレスリリースPDF)
今回の触媒の特筆すべき点として、弱い光を利用して水分解反応を駆動できる点が挙げられる。一般的に、水分解反応の進行には比較的強い光が必要なことが多く、強い可視光の照射では水分解活性を示すものの、疑似太陽光の照射下では水分解反応が進行しない例があるという。
今回の触媒では、太陽光の半分の強さの光を照射した際にも、太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%から低下しなかったとのことで、このように、弱い光でも効率的に利用できる光触媒材料は貴重だと研究チームでは説明している。
色素増感Zスキーム水分解系 (出所:東工大プレスリリースPDF)
なお、色素増感型太陽電池は産業界でも研究開発が進んでおり、蛍光灯などの弱い光を利用した発電能力が強みとして挙げられている。
しかし、I3-/I-のような電子伝達剤の逆反応が性能向上に向けた障壁となっていることから、今回の研究で開発された表面修飾方法を応用することで、発電効率の向上が期待できるほか、色素の分子設計や修飾するポリマーを検討することで、さらなる性能向上も見込まれると研究チームではしている。