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ジャニーズ性加害問題とTIME誌「軍事大国」騒動、実は同じ闇を抱えている理由 202305

2023-05-18 22:33:00 | 気になる モノ・コト

ジャニーズ性加害問題とTIME誌「軍事大国」騒動、実は同じ闇を抱えている理由
 ダイヤモンドOnline より 230518  窪田順生


⚫︎ジャニーズに寄り添ってきたマスコミは「御用メディア」
 こういうところが、「報道の自由」が180カ国中68位で、G7の中でダントツに低いという原因なのではないか――。

 1999年に週刊文春が報道し、裁判になって事実を認定されたジャニー喜多川氏の性加害問題。20年以上経て、ようやく民放テレビ局が渋々報道を始めた。

 と言っても、これは自分たちの意思ではない。

 英国のBBCが今年3月に放映したドキュメンタリー番組が海外でも大きな反響を呼び、ネットの批判に押され、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が動画と文書で見解を発表したことを受けて、慌てて体裁を整えただけだ。

 世界では、マスメディアは「権力の横暴を防ぐために監視して、時に厳しく批判をするジャーナリズム機関」という位置付けだが、我が国においては、権力に寄り添い擁護をする「御用メディア」だった――というなんとも情けない現実があらためて浮き彫りになったのだ。

 先ほど述べた、「報道の自由ランキング」が話題になると、テレビや新聞は「安倍政権の恐怖政治に現場が萎縮している」とかなんとかもっともらしい言い訳をするのがお約束だ。しかし、なんのことはない権力とズブズブすぎて、「関係が気まずくなるような話題はお口にチャック」という感じで、自分たちで「報道の自由」を放棄していただけの話なのだ。

 …という話を聞くと、「我々がどれほど苦労をして権力の不正を追及しているのか知らないのか!このド素人が!」という怒りの声がマスコミ関係者から飛んできそうだが、当の権力者側はそう見ていない。

 日本の権力者たちにとってマスメディアとは、自分たちのプロパガンダを社会に広めてくれるとともに、批判や追及もある程度、手心を加えてくれる「身内」のような存在なのだ。

 それがよくわかる出来事がつい最近あった。米誌「TIME」のタイトル修正問題だ。

米紙に忖度されると思ってた?日本メディアとの違い
 発端は、岸田文雄首相が「TIME」のインタビュー取材を受けたことだ。首相肝いりの広島G7サミット前に、世界的メジャー誌で表紙を飾れたら格好のPRとなると思ったのだろうか。岸田首相は「TIME」の記者に、日本がいかに国際社会に貢献して、武力による現状変更に対して、西側諸国と連携して対処していくかを熱弁した。
 だが、ほどなくして発売された「TIME」に首相と官邸スタッフは腰を抜かすほど驚いた。
 表紙の岸田首相はニヤリと笑った“ちょい悪風”で、普段の記者会見で見せるような表情とかけ離れて、まるで悪代官のような印象なのだ。ただ、それよりも官邸が衝撃を受けたのは、そこにつけられたこんなタイトルだった。

<岸田首相は平和主義だった日本を軍事大国に変える>

 首相が熱弁を振るったこととまったく違うということで、慌てて外務省が「見出しと記事の内容があまりに違う」と「TIME」へクレームを入れる。その結果、既に世に出回っている紙媒体はそのままだが、電子版のタイトルは「岸田首相は平和主義だった日本に、国際舞台でより積極的な役割を与えようとしている」に修正されたのである。

 なぜこんなトラブルが起きたのか。キャスターの辛坊治郎氏がパーソナリティを務めるラジオ番組の中で指摘したことが、問題の本質を突いているので引用させていただこう。

<日本のメディアは、取材相手に忖度して記事を作ることがあります。また、独占インタビューなどの際には、ゲラチェックを取材相手にさせることもあります。しかし、欧米メディアは倫理上、そうしたことをしないという立場を取っていますから、記事が表に出るまで何が書かれているかは取材相手にも分かりません。日本のメディア取材に慣れている岸田首相は、そうした覚悟も含めてインタビューに慎重に答えたのでしょうか。そうでなかったのであれば、岸田首相は不用意だったということになります>(ニッポン放送 NEWS ONLINE 5月11日)
 辛坊氏の言うように、首相や官邸スタッフが普段接している日本のテレビや新聞というのは、G7前に単独インタビューを受けてやったら、こっちの主張をそのまま垂れ流して「事前検閲」させるのが当たり前だ。中には、露骨なヨイショもするケースもある。

 なぜ「権力の監視」とか言っている人たちがこんな体たらくなのか。

⚫︎忖度ニュースばかりの日本、外から見れば「軍事大国」
 それは、マスコミの営利企業なので、自社の利益のためだ。
 まず、首相と関係が親密になると、総理担当記者が優遇されて取材がしやすい。場合によっては側近から「特ダネ」のリークもいただけるのでさらに旨味がある。
 さらに、テレビ局の場合もっとズブ…ではなく信頼関係を構築すれば、どこかの民放テレビ局みたいに、バラエティ番組にも首相が出演してくれたりもする。軽減税率や放送法などの業界への規制もお目こぼしもいただけるかもしれない。つまり、日本のマスコミにとって、首相や官邸は「監視・批判の対象」ではなく、「情報を恵んでいただく大口の取引先」なのだ。

 だが、海外メディアにはそもそもこういう発想がない。

「記者クラブで官僚とズブズブになってスクープゲットだぜ!」みたいなワーキングスタイルでもない。だから、インタビューをしてその場がいいムードに盛り上がって、「いやあ、今度食事でもしましょう」なんて首相から社交辞令的なことを言われても、忖度ゼロで厳しい批判記事が出る。

 もっと言えば、「TIME」の記事は批判でも偏向でもない。「平和ボケ」の日本人が知らないだけで、世界から見れば、日本は立派な「軍事大国」だからだ。

 防衛予算は増額されて世界第3位。しかも、岸田首相は安倍長期政権でもなし得なかった、「敵基地攻撃能力の保有」や、アメリカ製の長距離巡航ミサイル・トマホーク400発の導入などを次々と実現させた。「核を持っていないから平和主義だ」とか「我らは専守防衛だ」なんてロジックにこだわっているのは日本人だけで、世界から軍事力を冷静に分析すれば、紛れもなく日本は「軍事大国化」しているのだ。

 もちろん、だからと言って、それが悪いという見方だけではない。例えば、米ウォール・ストリート・ジャーナルでも昨年12月19日に、『「眠れる巨人」日本が目覚める 防衛戦略・支出で戦後最も重要な政策転換を発表』という社説を掲載している。これはTIME誌のように平和主義からの方向転換という話ではなく、中国の脅威に対して安全保障に力を入れるようになって喜ばしいという話だ。

「評価」は違えど、TIME誌も同じ認識だ。実は今回の記事でも、岸田首相が戦後最大規模となる軍備増強を発表し、防衛予算で世界第3位となることを指摘し、「防衛力の強化が核兵器のない世界を目指して努力するという岸田首相の公約と矛盾する」と批判的な見方があることにも触れている。

 つまり、外務省は「見出しと記事の中身が違う」とクレームを入れたが、実は見出しと記事の中身はちゃんと合っているのだ。

⚫︎ジャニーズ性加害問題の根幹に「権力者への忖度」
 こういう話を聞いて、勘のいい方はもうお気づきだろう。そう、今申し上げた構図は、今回のジャニーズ性加害報道にまるっきり当てはまるのだ。

 週刊誌や雑誌で繰り返し報じられ、裁判にもなって、ネットやSNSでも語られていたジャニー氏の性加害を、なぜテレビや新聞が20年以上もノータッチだったかというと、シンプルにジャニーズ事務所が「大口の取引先」だからだ。

 テレビはジャニーズのアイドルがいなければ歌番組もドラマもバラエティも成り立たない。また、ジャニーズのアイドルの皆さんは広告にも多数起用されていて、「広告ビジネス」が収益の多くを占めるテレビ・新聞が、広告を差し止めるようなことはできない。だから、忖度をし続けた。

 しかし、今回の報道のきっかけとなった英BBCにはそういう発想はない。

 日本のエンタメ界の功労者であっても、何十人もの未成年者を相手に性加害を加えていたら連続性犯罪者以外の何者でもない。だからBBCのドキュメンタリーは、日本のマスコミが好きな「闇」とか曖昧な言葉でぼやかすことなく、ジャニー氏をはっきりと「プレデター」(捕食者)と呼んでいるのだ。

 つまり、今回のジャニーズ性加害問題と、TIME誌「軍事大国」問題は実は根っこの部分では「日本のマスコミの権力者への忖度」という同じ問題があるのだ。

 さて、そこで次に皆さんが不思議に思うのは、なぜ日本のマスコミはこういう忖度スタイルが当たり前になってしまったのか、ということだろう。

 安倍政権が悪い、反日左翼が悪い、中国・韓国が悪いなど、この手の話になると、我先に「犯人」を特定して断罪するのが今の風潮だが、個人的にはそういう類の話ではないと思っている。

 なぜかというと、日本のジャーナリズムは、戦前から「権力と一体化することが正義」というかなり独特な思想があったからだ。

⚫︎戦前から脈々と続く…「権力」に寄り添いたい記者たち
 朝日新聞社が『歴史の瞬間とジャーナリストたち 朝日新聞にみる20世紀』という社史をつくっている。それは、朝日新聞の記者が日本の近代化にどれだけ役目を果たしたか、といった内容だ。

 そう聞くと、まるで朝日の記者たちが、ジャーナリストとしていかに権力の不正を追及したのか、という記録だと思うかもしれない。だが、本書に登場する「ジャーナリスト」の動きはちょっと違う。

 本を開くと1ページ目に「日露開戦にいち早く布石」とある。一体どんな話かというと、当時の朝日新聞主筆・池辺三山が外務省の参事官から、「元老に会って、対露強攻策で問題解決を図るよう働きかけてほしい」と頼まれるくだりから始まるのだ。

 というのも、元老の山縣有朋が日露交渉に賛成する姿勢をみせたので、開戦論者の外務官僚からすれば何を腑抜けたことを、と憤りを感じた。そこで、朝日記者の言うことならば耳を貸すだろう、と依頼をしたというわけだ。この大役を池辺主筆も見事に果たし、「いまなさねばならぬのは、断じてこれを行うという決断です」と説得、山縣有朋も頭を垂れて涙を流したという。そして、このエピソードの後に、「これ以降、日本の新聞界に近代的エディターとしての主筆が定着する」と誇らしげに締めくくられている。

「ん?なんか思っていたジャーナリストと違うな」と思った人も多いだろう。

 そう、そもそも日本におけるジャーナリストというのは、ペンの力で権力の不正を暴くとか、そういうめんどくさいことをする人たちではない。権力に寄り添い、時によき理解者として言論で応援をして、あわよくば自分も権力と一体化していくという「身内」のような存在なのだ。

 実際、戦前の朝日新聞で副社長だった下村宏は、退社してから貴族院議員になり、戦時中は内閣情報局総裁になって、昭和天皇の玉音放送に関わる。

 今も選挙になると、NHKや朝日新聞をお辞めになった方が立候補をするが、マスコミ記者として権力と距離を縮めて、いよいよ自分自身も政治の世界へ、というスタイルは戦前から確立している。

 つまり、「ジャーナリズムは権力の監視が使命」なんて言っているものの、権力に忖度して、あわよくば自分自身も「権力化」するということを生業としてきた。この性分は、一朝一夕では直らない。だから、令和の今もその性分がだらだらと続いているだけではないか。

 実際、マスコミを見てみるといい。

 ジャニーズ担当の芸能記者は、事務所とズブズブになった方が情報が集まるし、検察担当記者は、検察官と一緒に麻雀卓を囲んだ方が何かと「リーク」のおこぼれがいただける。中央官庁や警察の担当も基本的にやることは同じだ。

 日本の記者は「権力」とどれだけ親密になれるかということを競っている側面がある。親密な方が「デキる記者」という社内評価さえあるほどだ。

 ジャニーズ性加害問題と、米誌「TIME」タイトル修正問題が同じ時期に発生したのは偶然ではない。海外のジャーナリズムとかけ離れた日本の「マスコミのムラ社会」のさまざまな歪みが、いよいよ持ち堪えきれなくなっているのだ。

 また近いうちに、テレビや新聞のどでかいマスコミ不祥事が発覚するのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)



💋この様な話を昭和30年代後半よりよく聞いたが…顧みられず…今に至る。

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