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音楽&音声は脳にどのような影響を与える? 2023/05

2023-05-17 00:36:52 | なるほど  ふぅ〜ん

音楽&音声は脳にどのような影響を与える? 脳科学者が注目する“主観の世界”と“デフォルトモードネットワーク”
 Real Sound より 230517


 音楽を聴くことで脳を活性化させ、心身のリラックスや健康の促進に寄与するといわれている。
 先日、Spotifyが発表した年次調査「Sonic Science」では、音楽が脳の主要な部位を刺激し、人の感情や気分、記憶などにポジティブな影響を与えることが触れられていた。

 では、「脳と音楽」には、一体どのような関係性があるのか。

 音楽家を対象にさまざまな研究を重ねてきた脳科学者の田中昌司氏に、有識者の視点から「音声が脳に与える影響」について語ってもらった。

・音楽はさまざまな脳部位に影響を及ぼし、過去の記憶とリンクする

――まずは読者に向けて簡単な自己紹介をお願いします。

田中:私は、20代の終わりごろから上智大学の教員として長年勤めてきて、2023年の3月に理工学部情報理工学科の教授職を定年退職しました。専門は脳科学です。
 これまで、いろいろなテーマを設定し、研究を行ってきましたが、最近は音楽を聴いたり・演奏したりする時の脳内情報処理や、音楽家の脳の特徴などの研究が多いです。
 この分野の研究はまだまだ少なく、新たな発見の連続で、非常に刺激を受けています。

――具体的にどのような脳の研究をされているのですか?

田中:音楽に関する脳研究は「MRI イメージング法」がメインとなっています。
 病院でMRI検査を受けた方もいるかと思いますが、脳を3Dスキャンする場合は大きなドーナッツ状の装置に頭部を入れて,しばらく不動を保つ間に脳の画像を撮るんです。
 そのデータを研究室に持ち帰り、脳の形状や活動部位の解析などを行います。
 最近は、脳内ネットワークの可視化もできるようになりました。それによって、音楽家の脳にはいくつかの特徴があることがわかってきました。
 最新の成果を二冊の本にわかりやすく解説しました(田中昌司『音大生・音楽家のための脳科学入門講義』、田中昌司・伊藤康宏『音楽する脳と身体』、いずれもコロナ社)。

 また、MRI装置は本来、大きな音が出るために音楽実験には不向きなのですが、静かな環境で音楽実験ができる方法として、脳波計測も行っています。
 最近は、脳波解析の技術がとても進歩しており、脳の活動部位やネットワークを推定することができるんです。
 私の研究室はとてもユニークな研究環境であり、世界的にも珍しい音楽脳研究が行われていました。

――音楽を聴くことで脳全体が活性化されるメカニズムについて教えてください。

田中:音楽の脳への入り口は聴覚がメインなので、音に対しては脳の「聴覚野」が反応します。
 そこでは音楽も環境音や音声などと区別なく、まずは周波数分析を行いますが、その後「音楽」であることを認識し、聴覚野以外の領野でさらに情報処理が行われ、これまでの音楽経験やその時の感情など、さまざまな記憶とリンクしていきます。
 このような情報処理は、脳の聴覚野とそれ以外の領野とネットワークを形成しており、互いに情報のやり取りをしながら行われていると考えられています。

 「言語野」や「運動野」も含むかなり広範囲のネットワークが活性化されるので、音を超えた高次の情報処理が行われていて、意識していないものも多いと思います。

――音楽が脳の活性化を促し、気分や感情はもとより身体活動にも影響を与えるんですね。

田中:そうなんです。音楽に備わる身体性や運動性が運動野の活性化として現れます。
 また、音楽はもうひとつの「言語」でもあるので言語野も活性化します。
 音楽のリズムや文法などは、脳内で言語と類似の処理をすると考えられています。
 私の研究で興味深かったもののひとつは、実際の音を聴いていなくても、心の中で演奏すると、脳の聴覚ネットワークが活性化されることでした。
 それが右脳中心であったことが言語との違いです。
 しかもそのネットワークは、メンタルイメージをつくる脳部位や演奏を司る脳部位とつながっていたので、脳の中で演奏のシミュレーションが行われ、「まるで音が聴こえているかのような情報処理がなされていた」と解釈できます。

・小説や映画と同様に、音楽も脳に入れば「主観」のイメージが湧く

――音楽が脳にもたらす影響の研究について、最前線のトレンドや注目すべき点はどのようなものでしょうか?

田中:昔は音楽というと、聴覚をメインに研究していた論文が多くあったのですが、私自身は脳全体をネットワークと捉え、「どういう情報処理をするか」という視点で研究を行いました。
 音楽は一旦脳に入ってしまえば、小説や映画を観る時と同様にイメージが広がり、主観の世界に入っていきます。音から入るか、文字や映像から入るかだけの違いなんですね。
 イメージがつくられ、音楽がエピソード記憶とリンクしやすいことはとても興味深いと考えています。
 エピソード記憶は長期記憶のひとつですが、過去や未来の出来事の記憶です。
 未来の出来事って不思議な気がするかもしれませんが、脳は過去と未来を区別していません。

 美しい音楽とエピソード記憶がリンクすることで,その記憶が美化されることもあります。
 先ほど、音楽が脳の広範囲のネットワークで処理されるということを話しましたが、ネットワークの特徴は、音楽以外のあらゆる情報をリンクしやすいところにもあります。
 脳のネットワーク研究は、現在の脳研究における重要なアプローチです。
 音楽家の脳を調べていた時は、「本当に非音楽家との違いがあるのか」という疑問符を浮かべながら研究していましたが、研究結果が出始めるとその違いが明確に現れ、疑問は一気に吹き飛びました。

――音楽家とそうでない人との違いはどのように見られたのですか?

田中:左脳には、ロジカルな言語情報処理を行う言語野が存在していて、「話す」や「理解する」などに対応する部位が複数あり、それぞれ異なる情報処理を担っています。
 それらがネットワークとしてつながり、全体的な言語情報処理が行われているんです。

 一方で、音楽家の脳は右側のネットワークが発達していることがわかってきました。
 音楽も言語情報処理に類似の情報処理を行いますが、右半球も使うのは右脳が感情とリンクしやすいネットワークを持っているからです。
 また、音楽家は視覚野の発達もしていることは予想外の結果でした。
 音楽家ゆえに聴覚野が発達していることは予想できると思いますが、非音楽家との聴覚野の違いより視覚野の違いの方が断然大きかったんです。

 たとえば、初見演奏の様子を見ていると、複雑な楽譜でも瞬時に把握して演奏に結びつけることに驚かされます。
 とくにピアノ曲のような複雑な楽譜を演奏するためには、視覚野を使った情報処理を活用しているのではないかと思います。
 また、演奏スキルに関する脳部位・ネットワークにも特徴が出ています。
 脳科学や心理学で「手続き記憶」と呼ばれている長期記憶があります。
 楽器演奏のほかに、自転車の乗り方とか、泳ぎ方や、スポーツなど、身体で覚えるタイプの記憶です。

 エピソード記憶と違って言葉で説明しにくく、習得するのに時間がかかるけど一度覚えたら忘れにくいことが特徴です。
 脳の中に手続き記憶に関連したネットワークがあることが知られていて、閉じた神経回路になっていることも判明しています。
 高いスキルを持った演奏家は、このネットワークがスリムになっていることが私たちの研究で明らかになりました。

 私は長期にわたるトレーニングで、少しずつ無駄な神経結合が省かれ、無駄な動きがなくなったことでエネルギー効率が高まり、スキルレベル向上に寄与したと解釈しています。

・音楽と脳の関係を探る上でキーになる「報酬系」と「DMN」

――レポートには「悲しい音楽の再生中でも、Spotifyの利用時に気分が高揚する」という報告がありました。聴いている音楽と気分の移り変わりはどのような相関関係になっているのでしょうか?

田中:悲しい音楽を聴いて「悲しくなる」というよりは、美しさに感動して、また頑張るぞというような「ポジティブな気分になる」ことが多いと思います。
 脳には「報酬系」と呼ばれている部位があって、人に褒められたり認められたりする時に活性化しますが、美しさに感動する時も報酬系が活性化することが実験で示されています。
 以前、私の研究室で学んでいた学生が、卒業研究で「ヒット曲のコード進行には脳を活性化させる共通の特徴があるのではないか」という仮説を立て、音楽聴取時の脳波を解析したところ、これも報酬系の活性化と関連があることがわかりました。
 他方で、パチンコなどのギャンブルやドラッグ、飲酒なども報酬系は活性化しますので、安易な方法で活性化させないように注意する必要があるでしょう。
 人によって反応の出方が異なるんですが、快感を忘れられずに依存してしまうのは、強い反応が出るタイプです。
 それでも、正しく使用すれば、日常のいろいろな場面でモチベーションを高めたり、辛くても努力を継続できたりするため、報酬系の活性化は非常に大切なものになっています。
 こうしたなかで、音楽を上手に使うことは大事だと思います。
 音楽と気分の移り変わりの相関関係については、アルツシュラーが提唱した「同質の原理」というものがあることが知られています(『音楽する脳と身体』p.57)。

 これは悲しい時は悲しい音楽を,楽しい時は楽しい音楽を聴くのが良いという経験則です。
 この原理は音楽療法で用いられていて、患者の気分に合った音楽を聴かせることで精神的に良い方向へ向かわせることができるそうです。
 最近では、お風呂でぼんやりしたり、旅先で何も考えずに窓の外を眺めたりする際に活性化する「デフォルトモード・ネットワーク」(DMN)という脳の神経活動にも注目が集まっています。

 以前に、痛みを慢性的に抱える難病の方にモーツァルトの室内楽(ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲ト長調 K.423)を聴いてもらい、その前後でMRI検査を行って「脳のネットワークがどのように変化するか」という実験をしました。
 その結果、デフォルトモード・ネットワークと痛みを感じるセイリエンス・ネットワーク間の相互抑制が一時的に弱まったんです。

 これは、モーツァルトの心地よい音楽を聴くことで、ストレスや痛みの悩みから気が紛れ、抑制されていたデフォルトモードネットワークが解放されたということを示しています。
 このデフォルトモードネットワークは病気のみならず、机に向かって仕事をしている時なども抑制されています。
 こういう状態が長く続くことは望ましくありません。
 気分転換のためにぼっとする、リフレッシュを兼ねて旅行に行くなどの行動を取ることは脳科学の観点からも重要であり、これからは音楽の世界でもデフォルトモード・ネットワークが注目されるようになると思います。

・脳科学的に音楽を探究することに価値がある

――脳科学の観点から、日常のシーン別に適切な音楽のジャンルがあればお聞きしたいです。

田中:これは人によってかなり違いますよね。少し視点を変えて話すと,病院の手術室で手術中に音楽を流すことがよくあるそうです。
 オペ中はモーツァルトの静かな室内楽が合いそうな気がしますが、アメリカの病院ではロックを選ぶ医師もいるみたいですね。

 私自身も大学の講義中に、小さい音でクラシック音楽を流すという実験を行ったことがあります。
 BGMを流して集中できるか否かを確かめるため、声楽(オペラ)や弦楽器など、いろんなジャンルのものをかけましたが、一番良かったのはショパンのピアノ曲「ノクターン」でした。たくさんあるので、ずっと流していても大丈夫でした。
 日常でも、リラックス効果を得るためにBGMを流すことはよくありますよね。
 曲の選択は人によって異なりますが、副交感神経が活性化するような曲をなんとなく選んでいるのでしょう。
 アルファ波が出る音楽というのも同様の効果です。「アルファ波が出る曲と、そうでない曲の違いはなにか」という問いに関しては、これも人によって異なるので、一概には答えは出せないと思います。

 音楽の反応は「主観」によるもので、私はそれで良いと考えています。その主観の世界を「脳科学的に探究することにより価値がある」というのが自分自身の考えです。
 最近では小説をよく読むようにしていて、作者が主観の世界を言語化しようと試みているのが、すごく研究のヒントになっていて、刺激を受けているんです。

――昨今、オーディオドラマやポッドキャストなど“音声”に注目が集まっています。Spotifyのレポートには、いわゆる「ニューロマーケティング」の可能性が提示されていますが、有識者の立場からデジタル音声の広告はどのように捉えているのでしょうか。

田中:人間は、音声に対して特別な感覚を持っています。赤ちゃんが母親の声を聴くことから始まって、生きていくうえで、ほかの音より重要な情報を持っていることが多く、人間の聴覚系は音声に対する反応性が高いのです。

 先ほど私の講義で声楽曲を流すことが結果的に良くなかったのは、たとえ小さい音であっても聴き流すことができず、学生の聴覚系が反応してしまうからです。
 当然、ニューロマーケティングの観点からも音声は効果的ではありますが、上手に使う必要があると考えています。
 音声であふれる環境は心が休まらない場合もあるため、快適な環境を創っていくことが大切だと思います。

 近年では心地よい声の研究も進んでいますので、脳科学と絡めたニューロマーケティングを実践するといいのではないでしょうか。
 私自身も、好きな声とそうでない声というのはよく意識に上がります。
 ちなみに自分の声は、ほとんどの人が嫌いだそうです。声の好き嫌いは売り上げにかなり影響するのではないでしょうか。

――最後に今後の活動における展望について教えてください。

 講演や研究発表を行うと、毎回多くの脳に関する熱心な質問をいただき、その質疑応答が本当にエキサイティングに感じています。
 正直、まだ研究が行われていなくて答えられない質問も結構ありますが、これまでに行ってきたたくさんの実験結果を紹介しながら説明しています。

 現在、私は音楽関係では日本声楽発声学会と日本音楽表現学会という2つの学会の会員です。
 これらは音楽家で構成される音楽家のための学会ですが、脳科学の重要性を認識されていて、これからは脳科学も必要とのことでお声がけいただき、それぞれ理事と編集委員をしています。

 今後も、しばらくは音楽家や音楽愛好家の方々との対話を続けていくつもりです。
 音楽と脳科学という異なる考え方と歴史をもっている分野が出会うわけですから、やはり対話が重要だと思っていて、もっといろんな方と話していきたいですね。

(文・取材=古田島大介)

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