アンドリュー・ワイエス
ワイエスは、地獄に落ちた人間の孤独を描く画家である。
浮気をした女や、友達を裏切った男、子供を捨てた親、親を殺した子供、そんな馬鹿が、どこに流れて、どこに住んでいるか、どんな顔をしているかが、よく描かれている。
絶望した人間の顔を、真正面から描ける画家はそういない。この画家は画家としてモデルを見ているというより、一種の思想家として見ているのだろう。
文学的とさえも言える画題である。
人として落ちてしまった人間は、人間の世界にはいられない。だがそういうものが行くところも、この世界にはあるのだ。そこは一見、どこにでもある普通の家に見える。
だが、同じ地球上にありながら、空気と光がもう違う。
その微妙な陰影を、この画家は見事に描いている。