ゆるやかに震えながら天を指す
雑木の幹の間を歩いていた
深い芳香に気づいてふりむくと
白いクサギの花が小暗い森の隅で
星だまりのように光っていた
吸い込まれるように近寄ると
クサギの大きな一枚の葉には
糸屑のようないも虫が軍をなして
むさぼり食べられているのだった
はりはりはりと 音もなく
(ああ、痛い…)
さて わたしは
クサギをたすけてよいのか
虫をたすけたがよいのか
森の神にでも聞かねばわからないと思い
しばし答えを探すように
静けさに耳を傾けていたのだ
が
柔らかな葉をむしばまれながら
クサギは
同じ生の割れ目の中で
痛みを分け合っていることが
森の幸せなのだと言う
小さな虫たちの 生きる痛みを
わかりたいのだと 言う
深い芳香が 風の一息に
ひるがえる
クサギよ
(花詩集・4、2003年9月)