世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

クサギ

2022-04-23 05:16:10 | 花詩集

ゆるやかに震えながら天を指す
雑木の幹の間を歩いていた
深い芳香に気づいてふりむくと
白いクサギの花が小暗い森の隅で
星だまりのように光っていた

吸い込まれるように近寄ると
クサギの大きな一枚の葉には
糸屑のようないも虫が軍をなして
むさぼり食べられているのだった
はりはりはりと 音もなく

(ああ、痛い…)

さて わたしは
クサギをたすけてよいのか
虫をたすけたがよいのか
森の神にでも聞かねばわからないと思い
しばし答えを探すように
静けさに耳を傾けていたのだ


柔らかな葉をむしばまれながら
クサギは
同じ生の割れ目の中で
痛みを分け合っていることが
森の幸せなのだと言う
小さな虫たちの 生きる痛みを
わかりたいのだと 言う

深い芳香が 風の一息に
ひるがえる
クサギよ




(花詩集・4、2003年9月)





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