世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

ノグルミ

2022-04-26 05:29:57 | 花詩集

石のように重い屈託を胸に抱えて
すがりつくように神社の石段を上っていた
伝わらない思いがあふれて
喉を割ってほとばしるほどだったのに
私は声を出せずに泣いていた
泣きながら石段を上っていた
その前を ふと細い枝がさえぎった

それは痛々しく幹の曲がったノグルミ
昔 根っこごとふらついて
倒れかけた木は
地面すれすれのところでもう一度幹を持ち上げ
そのまま伸びて
天に梢を豊かに広げているのだった

(大丈夫 いけるさ
 おれだってそうだったんだもの)

ノグルミは言った
私は笑った 泣きながら笑った
また明日も生きていくのか
いつ伝わるかわからない想いを抱えて

わかってる あきらめたりしない
でも泣きたいときは泣きたいんだよ
私だって

ノグルミの声を振り切って
再び石段を上っていく
涙はとめどもない でも

あきらめたりしない
あきらめたりしない
あきらめたりしない



(花詩集・7、2003年12月)




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