それは春とは名ばかり
風にまじる氷がまだ針のように頬を刺す頃
何があったのか
庭園の梅の木の下で
少女は泣きながら
恋人の不実をなじっている
彼はやさしくないのよ
こんなに私を傷つけるんだもの
年を経た梅の木は
こまやかな枝の先々の紅の粒を
ぽちぽちと裂きはじめた
すると澄んだ香りが
薄絹のようにひるがえって
少女の肩をそっと抱いて ささやくのだった
お嬢さん
男というのはね
ごめんという一言が言えないために
百万倍のむだな苦労をする生き物なのさ
梅の木のそのささやきが
彼女の心に届いたらいいのだが さて
不謹慎だとは思ったが
傍らで聞いていた私は
笑いをかみ殺すのにひとしきり苦労した
やれやれ
いつの世も
女の苦労の種は
変わらないんだなあ
(花詩集・9、2004年2月)