理由は不明だが、他人に背中をどうしても見られたくないという不動産業者:乙雅三(きのとまさぞう) - 市川猿之助 を自宅に招き入れた杜王町に住む人気漫画家:岸辺露伴 - 高橋一生 。
なんとかして彼の背中を見てみようと、わざとらしく困ったフリをする。
一度(六壁坂の)土地の権利書を確認しようと思ったのだが見当たらない、そう言って部屋をうろつき始める。
その言葉に驚いて、椅子から立ち上がる乙。
露伴が彼のいる方向を見ると、慌ててまた椅子の背もたれに背中を押し付ける。
困ったな、金庫もバッグも探したんだがもしかすると、二階の書庫かもしれない。
君、悪いが手伝ってもらえると助かるんだが・・・。
そう言って、デスクの引き出しから書庫の鍵を取り出し、先に二階へ上がろうとする露伴。
壁に背中をつけながらついてきた乙を確かめると、鍵を後ろに落とし、拾うフリをして乙の後ろへ回り込もうとする。
なんと乙は、膝を床についたまま海老ぞりになって鍵を拾い、そのまま露伴に渡した。
書庫は二階ですよね、(お先に)どうぞ。
先に階段を上がる露伴。乙はその後ろを階段に背中を押し付け、腕を回さない背泳ぎの格好で階段を上がって行く。
階段の突き当りはT字になっており、右側へ曲がって三段上がるとそこが書庫のようだ。
乙は階段の左側の壁に背中をつけ、露伴はそれを右手に三段上がった場所から彼を眺めている。
書庫の鍵を開け、中へ入ろうとした露伴がもぞもぞと身体をくねらせ始める。
背中が痒い、クソッ!
君、物凄く失礼な頼みなんだが・・・。
掻きます。
お願いできるかな。
いいですよ。
そう言って、乙は今度はT字の突き当り側の壁(壁は腰くらいまでの高さで、ガラス窓がある。)に背中をつけ、露伴の後ろへやってくる。露伴の背中を掻こうと彼が中腰になって立ち上がったとき、露伴が窓をつたっていた紐を引くと・・・
後ろ(T字の左側)には大きな鏡が壁に掛けてあり、紐を引くとその鏡を覆っていた布が外れるようになっていたのだ。
鏡には何かが映っているということはない。
何だ、別にどうってこと・・・露伴が、乙と鏡の間の位置に立っていると、乙は書庫の前にある3段の踏み込みを塞ぐように屈みこんだ。
もう、終わりだぁ・・・。
おい、しっかりしろぉ。悪かったよ。好奇心を押さえられなくってね、謝るっ。でも、背中には何も問題ないようだ・・・
ダメだぁぁぁぁ。なんだかわからないけど、見られたら絶対にもう終わりなんだよぉぉぉ~っ。
絶望に頭を抱える乙を、落ち着かせようと近寄る露伴。
すると、乙の背中からバキバキと音がして、ボコボコとした突起が現れ始める。
うわぁぁぁ~、何かが剥がれるぅぅぅぅ~っ!待って、待ってぇぇぇ~っ!
六壁坂・・・関わるんじゃなかったぁぁぁ~。
そう言って書庫の前で、乙は仰向けに倒れてしまう。
露伴は近寄って、首の動脈を確認する。死んではいないようだ。
すぐに救急車を手配し、救急隊員(の声) - 櫻井孝宏、ファイルーズあい によって
乙は、露伴の自宅から運び出されるのだった。
玄関口でそれを見守る露伴。
結局、背中には傷一つなかった。一体あれは・・・。
玄関の扉を閉めて戻る。
すると、どこかからさっき運ばれて行ったはずの乙の声がする。
露伴先生、かえして。
露伴の右肩に後ろから手が回り、気がつくと「妖怪こなき爺」のように背中におぶさっている乙の姿があったのだ。
ど、どうして。今、救急車で・・・。
玄関にある鏡を見ても露伴自身の姿が映るだけで、乙の姿が鏡には映らなかった。
しかし、振り返れば奴乙がいる のだ。
露伴先生、六壁坂返して。
露伴が、背中にいる乙に向かってヘブンズドアをしかけても、反応がない。
今、露伴の背中にいる乙の姿をした者には、ヘブンズドアは効かないのだ。
こいつはおそらく乙雅三じゃあない、おそらく彼にに取り憑いていた何かだ。
露伴は急いで部屋のブラインドを閉じ、外から自分の背中を誰かに見られないようにし、出窓の角に乙の姿をした者を乗せた。
どうやら重さは感じるらしい。
それが、彼の背中を見た僕に・・・。
ねぇ、返してよ。六壁坂返してください。
お前、何なんだ返すって。お前にか?
六壁坂は、六壁坂に。
いいか、もし、よくある「棲み処を奪われた」と言うヤツなら勘違いだ。
僕は寧ろ、お前たちのために買ったんだからな、それも全財産を与えて。感謝して欲しいくらいだねっ。
ふぅ~ん、でも返してよっ。
話しが通じない相手に、隙を見て奴を残し別の場所に移動する露伴。
しかし、気がつくとまた奴が背中に貼り付いている。
仕方なく、露伴は床にお尻をついた体制で、明日泉に渡す予定の原稿を描いている。
後ろから乙の姿をした奴がチャチャを入れてくるが、邪険に扱うと腹を立てて「誰かが覗いてる」と脅してくる。
露伴が驚くと「あ~、やっぱり怖いは怖いのか、よかった。」そう喜んでいた。描きかけの原稿にインクがこぼれ、怖いというよりはイラつく露伴。
翌日、原稿を取りに泉がやってくる。
いつもなら余裕で編集者を家にあげるため施錠されていない筈のドア、鍵がかかっており、不審に思った露伴の担当編集者:泉京香 - 飯豊まりえ は玄関のドアをノックする。
すると、疲労困憊の顔をした露伴が乙を背負ったままドアを開け、原稿の入った封筒を泉に渡す。
泉からは背負っている乙の姿は見えないため、彼女が作った特製の追加資料を露伴に渡そうとする。
いらないと言っただろ、君しばらくここには来なくていいからなっ!
そっけなくドアを閉められ、ホントにしばらく来ませんよっ!ぷち怒る泉。
だが露伴の疲れた表情には気づいており、なんかちょっと疲れてるっぽい。そう言って帰って行く。
いや憑かれてますけどね。
奴はニヤつきながら、露伴に話しかける。
お疲れですねぇ、背中見せれば楽になれたのにぃ~。
で、今度は泉君が僕の姿をしたお前を背負うワケか・・・。
(泉の背中に貼り付いた露伴、息も絶え絶えに坂道を歩く泉の姿。
返して、六壁坂返してぇ~。)
絶対にヤダね。
じゃ、お仕事終わったから、六壁坂返しますぅ?
だぁかぁらぁっ(怒)
落ち着け、こいつに人の理屈は通用しない。
六壁坂によそ者が手を付けた。あるのはただそれだけだ。
地主から高級メロンを取り返し、道に迷った乙。メロンを捨ててきた彼にくっついたのも偶々なのかもしれない。
確かなのはこいつは納得しない限り、僕の背中からは離れない。そしていつかは背中を見られて僕は・・・。
コン、コン、コン。(玄関のドアをノックする音と、誰か男性の「こんにちわ~、お届け物で~す。」という声がする。)
ギョッとする露伴。
泉が帰ってからドアの鍵を施錠していなかったのだ。
見回すと、玄関には鏡がある。これを見られたらマズイ。
ドアノブが回され、荷物を抱えた配達員の男性 - 渡辺翔 がドアを開けると
露伴先生、ブリッジしてた。
あ、どうも。
言っても無理だろうが、気にしないでくれ。
あ、これ。お荷物です。
そこに置いといてくれ。(露伴、指をさす。)ご苦労様。
男性は荷物を床に置くと、
あ、これそこに落ちてましたよ。
そういって、泉が残していった資料を一緒に置いて行った。
ドアが閉まると、ブリッジが崩れ床に背中をつける露伴。
危なかった、ダメですねぇ。気をつけないと。
どうやら、泉がドアに資料を貼り付けて帰ったあと、剥がれて落ちていたらしい。
裏には手書きで
原稿ありがとうございました。
泉
そう書かれている。
ん~、何々。昨日徹夜で頑張ったもんねぇ、お疲れさま。
あぁ、漫画を描くために徹夜したのは、初めてだ。
あんなに邪魔されたこともな。
つまりお前は、この岸辺露伴の・・・いやぁ、漫画と読者を侮辱した。
先生怒ってる、地味ぃに怒ってる。